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イラク攻撃はテロ攻撃の新たな高まりを招く
湿地を干上がらせれば蚊はいなくなる
英国ガーディアン紙、2002年9月9日(月)
ノーム・チョムスキー
(翻訳、寺島隆吉+岩間龍男+寺島美紀子)
公開、2003年2月5日
9月11日は多くの米国人にショックを与え、世界で米国政府が行っていることと、それがどう思われているのかについて、大きな注意を払ったほうがいいということを米国人に認識させた。以前は議題にのぼらなかった多くの問題が議論され始めている。それはすべてに利益になることだろう。
将来の残虐行為の可能性を減らすことを我々が望むことは、健全なことだ。ブッシュ大統領が述べたように、我々の敵は「我々の自由を憎んでいる」と偽って主張するのは楽なことかもしれないが、現実の世界を無視することは賢明なことではない。というのは、そういったことは間違った教訓を引き出すからだ。
「なぜ奴らは我々を憎むのか」と問いかけたのは、現大統領が最初ではない。44年前の幕僚会議で、アイゼンハワー大統領は「アラブ世界の、政府によるものではなく民衆による、我々に対する憎しみのキャンペーン」について述べている。この時の国家安全保障会議はその理由について次のように概説している。すなわち、中東地域の石油資源を支配するために、米国は腐敗し抑圧的な政府を支援し「政治的経済的進歩に反対している」からだ。
アラブ世界における9.11後の調査では、今日でも同じ理由があることが明らかになっているが、米国の特定の政策への憤りそれに拍車をかけている。際立っているのは、このアラブ地域の特権的な西側指向の人々にさえも、この憤りが広がっていることである。
最近のひとつの例を引用してみよう。『極東経済評論』紙(Far Eastern Economic Review)の8月1日の記事で、国際的によく知られた中東専門家アフメド・ラシッドAhmed Rashidは書いている。「パキスタンでは、ムシャラフ軍事政権を米国が支援し、それが民主主義実現の約束を遅らせていることに、怒りが高まりつつある」と。
「奴らは我々を憎み」「我々の自由を憎んでいる」と信じることを選択しても、今日の我々にとってほとんど何も恩恵がない。それどころか、アメリカ人を愛し自由も含めて米国をたいへん賞賛している人々でさえ、こうした憤りの姿勢を示している。彼らが嫌悪感を抱いているのは、アメリカ人だけでなく彼らも切望している「自由」を、米国政府が公式政策として否定していることなのである。だからこそ、9.11後にオサマ・ビンラディンが例えば腐敗し堕落した政権への米国の支援やサウジアラビアへの米国の「侵略」について大言壮語を吐いても、それが彼を軽蔑し恐れる人々の間にでさえ一定の共感を得たのだ。テロリスト集団は、このような憤りや怒りや欲求不満から支持を得たり新兵を募ることを期待している。我々はまた、世界の大部分がワシントンをテロリスト政権だと見ていることに気づくべきである。近年、米国は、米国が公けに認めている「テロリズム」の定義と全く同じ行動を取ってきたし支援してきた。2−3の例を挙げるならば、コロンビアやニカラグアやパナマやスーダンやトルコなどで定義と同じ行動を取ってきたのだが、米国はこの「テロリズム」という用語を敵の行動に対する時にのみ適用してきたのである。
最もまじめな体制側の定期刊行物である『フォアリン・アフェアーズ』の中で、サミュエル・ハンチントンは1999年に書いている。「米国が徹底的に様々な国々を“ならず者国家”として非難している時、多くの国々の目には、米国こそが彼らの社会にとって“ならず者超大国”
すなわち唯一最大の外的脅威だと映っている。」
そのような認識は、9月11日に、西側国家が初めて本土で恐ろしいテロ攻撃を受けたという事実によっても変わらない。そうした恐ろしいテロ攻撃は、西側権力によるテロ犠牲者には余りにも身近なものだし、そのような攻撃はアイルランド共和国軍IRAや民族解放戦線FLNや赤い旅団の、いわゆる「小売のテロ」をはるかにしのぐものだからである。
9月11日のテロは世界中で激しい非難を生み出し、罪のない犠牲者への同情で溢れた。しかし、但し書きがある。
9月下旬の国際的『ギャラップ』調査によれば、米国によるアフガニスタンへの「軍事攻撃」への支持はほとんどなかった。米国の介入をもっとも多く受けているラテンアメリカでは、支持率は最高でパナマの16%、最低はメキシコの2%だった。
現在のアラブ世界における「憎悪のキャンペーン」も、もちろん、イスラエル−パレスチナ問題やイラクに対する米国の政策によって、火に油を注ぐことになっている。米国は、35年目の現在(つまり1968年の第3次中東戦争から35年目にあたる今年)でも、イスラエルの厳しいパレスチナ軍事占領に決定的支援を与えている。
イスラエルとパレスチナの緊張を緩和するひとつの方法は、国際的合意への参加を長期にわたって拒絶する姿勢を米国が改めることだろう。なぜなら、その国際的合意は、現在の占領地におけるパレスチナ国家を含めて(おそらく小さな相互の境界の調整は必要だろうが)、この地域のすべての国が平和で安全に生きる権利を認めることを呼びかけているからだ。
イラクは米国の圧力のもとで10年間にわたって厳しい経済的軍事的制裁を受けてきたが、このことは逆にサダム・フセイン体制を強化しだけでなく、数十万人のイラク人を死に至らしめることになった。それはおそらく「歴史上、すべてのいわゆる大量破壊兵器によって殺害された」人数より多いと、軍事アナリストのジョンとカール・ミューラーは1999年の『フォーリン・アフェアーズ』の中で書いている。
現在のワシントン政府がイラク攻撃への根拠としているものは、大統領ブッシュ一世がサダムを同盟国や貿易相手国として歓迎していた時よりも、はるかに信頼性がうすい。しかも、その歓迎は何とサダムが最悪の残虐行為を犯した直後のことだった。例えばハラブジャの地でイラクがクルド族に毒ガス攻撃したのは1988年で、当時の殺人者サダムは、今日よりずっと危険であった。
米国の対イラク攻撃に関しては、ドナルド・ラムズフェルドを含め、誰も起こり得る犠牲と結果を現実的に予測できない。米国のイラク攻撃が多数の人々を殺害し国の大部分を破壊するだろうが、実は急進的イスラム過激派もそれを望んでいる。というのは、その破壊によって生まれた憎しみが新たなテロ活動の新兵を供給することになるからだ
彼らはまた恐らく「ブッシュ・ドクトリン」=「潜在的脅威に対して実質的に際限ない攻撃を加える権利」の宣言を歓迎している。大統領は次のように宣言した。「祖国の自由を保障するために、どれほどの戦争が必要かは、口では言えないほどだ。」なるほど、それは事実だ。
脅威は至る所にあり、自宅にさえある。終わりなき戦争の処方箋は、目に見える敵が行うテロ行為よりも、はるかに大きな危険をアメリカ人にもたらす。その理由は、テロ組織が十分に理解している。
イスラエルの元軍事諜報局長イェホシャファト・ハルカビ(今は主要な親アラブ派の人物でもあるが)は、既に20年前、今日でも通用する主張をしている。「パレスチナ人の自決権を尊重して名誉ある解決策を与えること、それがテロ問題の解決策だ。湿地がなくなれば、蚊もいなくなるのだ。」
当時は現在と違って、イスラエルは、つい最近まで続いていた占領地内ですら、実質的な報復を免れていた。しかし、そのような時期に既に発せられていたハルカビの警告は、やはり正しかったのだ。そしてこの教訓はもっと一般的に適用されるべきである。
富裕国・大国が「暴力の手段を独占する」という状態は、現代テクノロジーによって失われ、本土で残虐行為を受ける恐れがあることは9月11日以前でも予想されていた。
もし我々がさらに多くの湿地をつくりたいと主張するのであれば、恐ろしい破壊能力を持った、もっと多くの蚊が出現するだろう。
もし我々が、手段を尽くして湿地を干上がらせ、「憎悪のキャンペーン」の原因を解決するならば、我々の直面している脅威を減らすことができる。それだけでなく、我々がそれらのことに真剣に取り組むことを選択するならば、我々が言明していても実現できない理想に従って生きることが可能になるだろう。
ノーム・チョムスキーはマサチューセッツ工科大学の言語学の教授であり、ベストセラー『9.11チョムスキー』(@MIT.edu.)の著者である。
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