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2003年3月1日
重大な危険の中にあるクルド人
ノーム・チョムスキー
翻訳:寺島隆吉+岩間龍男、公開2003年12月5日
米国は、イラクを攻撃する口実として「大量破壊兵器」を最初に掲げていたが、それが見つからないので、次の口実として「独裁政権を打倒してイラクに民主主義を」と叫んでいます。しかし、それがまったくの嘘であることは、この講演が詳述しているとおり、「クルド人に対する人権侵害の惨さ」と「それを支援している米国」というトルコ現状をみればよく分かります。次の翻訳:チョムスキー「2002年人権週間」(益岡賢・訳)もぜひ参照してください。
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(これは昨年2002年の暮れにロンドンのセント・ポール大寺院で行われたチョムスキーの講演を抜粋し編集したものである。)
イラクでの戦争で起こり得る犠牲者をランク付けるのは難しいことだが、イラクの400万人のクルド族が特に危険であるというのはまず間違いないことである。彼らはマスード・バルジーニとジャラル・タラバーニの不安定な同盟のもと、北部の飛び地で当面は異例の改善・進歩を達成してはいるけれども。
アンダース・ラストガートンの警告が正しいと証明されるかもしれない。「イラクのクルディスタンの住人より多くのものを失う危険のあるものは誰もいない」し、「サダムのいかなる後継者も同じ考え方でクルド人をバグダッドの脅威と見なすだろう」という警告だ。彼らが残忍なイラク攻撃の被害をこうむりやすいこと、また意味のある自治への動きがわずかでもあった場合に当然トルコの反応が予想されるとしても、人道機関の研究によれば彼らのおよそ60%は国連の「食料のための石油」のプログラムにその生存を頼っており、そのプログラムは戦争が起きれば大幅に崩壊する可能性がある。
「自由なクルディスタンは巨大な難民キャンプのようなものだ。」と一人のクルド人の指導者は論評した。そのキャンプは食料を国連の計画に、燃料と電力をバグダッドに依存している。国連難民高等弁務官は数十万人の人々を近隣諸国へ運ぶ可能な計画を立てているが、その国々でクルド人たちは暖かい歓迎は受けそうもないし、前途に待ち受けている危険がなくても、原住民のクルド人の見通しはたいへんに厳しい。
しかし中東ではいくらかの本当の希望の兆候がある。
豊かで強力な国々、主として米国と英国が過去においてもそうであったように、将来の発展に大きな影響を持つだろうことは明らかだ。そして抑圧の恐怖が小さい自由社会[欧米]では、クルド民族人権プロジェクト(KHRP)のような大衆的な勢力や独立した組織が決定的な影響を持てる。10年間にわたって、クルド人権プロジェクトは世界のこの拷問地域において人権の大義を促進し著しく前進させるという点で、傑出した記録を集めてきた。今後数年間はその仕事はさらにより大きなものになるだろう。そして彼らの問題は深刻だけれど、その関心はクルド人を超えたところにまで及ぶだろう。
希望の別の理由は、厳しい抑圧と暴力が支配する社会の内部にある。私は幸運にも数ヶ月前にトルコでこのことを瞥見(べっけん)する機会を与えられた。これは私がイスタンブールとトルコ南東部のクルド人首都=ディヤルバクルを訪れた時のことだった。とても驚いたことに、私は行く前よりもずっと楽観的な気持ちになって戻ってきた。指導的な芸術家、作家、学者、ジャーナリスト、出版業者などの勇気と献身を直接目撃できたことは本当に感激的なことだった。彼らは単に発言するだけでなく常に市民的不服従の行動をとりながら、言論の自由や人権のための闘いを日常的に行っていた。ある者たちは惨めに抑圧されたクルド人の本当の歴史を記録することを主張したために、トルコの刑務所で一生の大部分を過ごしていた。よく知られた事例を挙げれば、社会学者イスマイル・ベシクシはトルコの国家テロについての本を出版したために、11年前に逮捕され既に15年間を刑務所で過ごしている。彼はまたトルコの抑圧を強く支持するワシントンに抗議して、「米国自由表現基金」からの1万ドルの賞金を拒否した。このことは、自身の犯罪は消し去られなければならないという標準的な原則に従って、西側ではほとんど報道されていないことである。
ベシクシ博士とは違って、トルコ議会に選出された最初の女性であるレリャ・ザナは、7年前に、思想の自由のためのサハロフ賞を拒否しなかった。彼女がそれを受け取った時に書いているように、「アンカラ刑務所の厚い壁の内側に私の体を閉じ込めた看守は私の精神が自由な旅をすることを妨げる力はない」のだ。彼女は1991年に議員就任の宣誓をした時、伝統的なクルド族の色彩の衣類を着ていたために懲役15年の刑に服している。彼女は要求されたようにトルコ語でその宣誓を読み上げたが、その後にクルド語で次のように付け加えたのだ。「私は民主的な体制の中でクルド人とトルコの人々が一緒に平和に暮らせるようになるために闘います。」ちょうど先週、アムネスティー・インターナショナルはトルコ当局に彼女を釈放するよう再度要求をした。残酷に殺害された人々も含めて、西側が支配・統治する地域[たとえば中南米]における他の勇敢で著名な反体制活動家と同じく、彼女の名前は英国や米国ではほとんど知られていない。
言論の自由や人権のために闘っている人々に対し、トルコでは多くの世論の支持があるようだ。その活動は尊敬の念を起こさせるだけでなく西側の仲間に恥ずかしさを覚えさせるものだ。ディヤルバクルを訪れた時、私が見たことはやはり勇気を奮い立たせるものであった。そこでは地方から追い出された人々の多くは、町の外壁の洞窟やスラム街に住んでいた。彼らはいまだに自分たちの村から締め出されていた。公式に発表された[帰還]計画があったにもかかわらず実行されていなかったからだ。ヒューマン・ライツ・ウオッチはこの不履行をおそらく最も重大なトルコの現在の人権侵害と述べていた。計り知れない数の人々がイスタンブールの惨めなスラム街の使用禁止の建物で生きている状況は、ディヤルバクルより更に酷いものだという。そこでは大家族がひとつの部屋に詰め込まれていて、小さな子どもたちは外の恐ろしい路地にも出て行けず、ほとんど監禁状態にあり、その一方で年上の子どもたちは家族が生きていけるように違法の工場で働いている。
子供から大人にいたるまで、トルコで闘っている人々の勇気を私の力では述べることができなない。クルド人の色彩の衣類を着ている路上の子どもたちから(これは重大な違反であり、そのためにその家族の罰はとても厳しいものとなる)、ディヤルバクルで私が出席した大きくて熱狂的な公開の会合の人々にいたるまで、その人々の勇気は私の力ではとても述べられない。集会の最後に、何人かの学生が進み出てきて、テレビと警察のカメラの前で私にクルド語=英語辞典をプレゼントしてくれた。これは注目すべき勇気ある行動で、実に貴重な贈り物であったが、まさにその時に学生と彼らの両親は尋問を受けたのだった。伝えられるところによれば、母国語で選択科目を取る権利を要求する合法的な請願を提出したため、彼らは拷問にかけられ、投獄の危険が迫っているとのことだ。
これらの最低限の権利が否定されていることは言語に絶する悲惨な状況だ。クルド人はトルコでは多くの勇敢で立派な人々の支援があるが、彼らが求めているのは、私たちが出来る範囲のことで援助を差し伸べること、彼らの尊重すべき至極当然な目的を達成できるよう出来る限りの援助をすることだけなのである。つまり、彼らが受けている抑圧と暴力に対して、米国がトルコに与えている犯罪的援助を、私たち米国人が一刻も早く終わらせることを特に求めているのだ。
トルコ内部の闘いとトルコ国外からの圧力には実際いくつかの効果があった。2002年8月、トルコ議会は新しい法律を通過させ多くの約束をした。新政府は続いて重要だと分かるやり方でその法律を拡大した。最近のクルド民族人権プロジェクトのニュースレターがその実現の見込みと障害について概説をし、トルコ国家の抑圧的な行動を克服するにあたってトルコの人々を支援することを私たちに呼びかけた。
現在のその実現の見込みと障害は入り混じっている。一般的には日々の抑圧は緩和されている点では意見が一致している。その一方で、尊敬を集める「人権の日のためのイズミル[トルコの地名]弁護士協会」によって出されている報告では、(世界の国々と同じように、テロと闘うという口実のもとに)人権侵害が増加しているという。これには、数百の信用に値する拷問の報告、「思想犯」の何千もの裁判、(公式的には廃止されたはずにもかかわらず)「非常事態法」の継続、クルド人が村へ戻ることへの障害、そして他の重大な権利侵害が含まれている。
トルコの出版労組は、発禁本や著者・出版社への告発が「増加傾向」にあることを報告している。音楽や他の印刷物と同様だ。クルド人とクルド語の問題はいまなお主要な焦点であるが、問題はそれだけではない。女性の俗語についての辞書さえもが禁止され、地方のギリシャ語の方言の文法や辞書も禁止された。
トルコの非常に多くの人々はレリャ・ザナの「クルド人とトルコ人が民主的な体制の中でいっしょに平和に暮らす事ができるよう闘うこと」の呼びかけを心に留めている。彼らは私たちの支援を必要としており、その支援があればトルコは「トルコ人とクルド人の祖国」となる日が来るかもしれない。「トルコ人とクルド人の祖国」という語句は、80年前にトルコ民族国家の樹立の時に、アタチュルク[トルコ建国の祖]の副官で結果的には次の後継者となった人物によって使われたものである。
「クルド民族人権プロジェクト」KHRPは、人種、宗教、性別、政治的信条や他の信念や意見にかかわりなくクルド地域内のすべての人々の人権を保護することに努力をしている独立した非政治的慈善事業である。その目的は、イラン、イラク、シリア、旧ソ連内のクルド人の状況の認識を促進し、これらの国々におけるクルド人の人権侵害を終わらせ、すべての場所でのクルド人の人権の保護を促進することである。彼らのウエッブ・サイトはwww.khrp.orgである。
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