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Compendiumoi Interview #4
(Sep. 2001)
From Greek, Spanish and
French Press
4―1 Q:米国における同時多発テロの後、コリン・パウエル(国務長官)は、「政府は国家に対しては宣戦布告をし、戦争をすることは出来るが、個人に対しては宣戦を布告し暗殺を行なうことは出来ない」とした1976年の法を含め、テロリズムに対する法を訂正するであろうと述べました。EUはテロに対する新法をまさに適用しようとしています。
この攻撃はどのような点において我々の自由を締め付けようとしているのでしょうか?例えば、テロリストの行動が、容疑者を追跡し更なる攻撃を阻止するためという口実で、我々を監視下に置く権限をいかなる政府にも与えてしまうのでしょうか?
A:それに対する抽象的過ぎる返答は、道を誤らせる恐れがあります。だから、そのような計画が意味することについて、巷に流布する全く典型的な実例を考察することにしましょう。
今朝(9月21日)、ニューヨーク・タイムスはモラル・リーダーと尊敬される知識人(Michael Walzer)の論説を掲載しました。彼は「テロリズムに賛成する全ての議論に参加し、それを容認する議論を拒否するよう、イデオロギーの闘い」に参加するよう呼びかけました。;
しかし、彼が考えているような、テロに賛成する議論や容認する議論はまったくありません。そのことは彼も知っているはずです。少なくとも理性に従って思考するあらゆる人にとって、彼の呼びかけは、テロリストの攻撃の背後に存在する、動機・理由を捜し求める努力を、放棄せよとの要請として解釈されるでしょう。なぜなら、テロリストの攻撃は彼が支持する合衆国に向けてなされたものだからだです。
彼はそれから、いつもながらのやり方で、今度は「テロを容認する議論」の側に、自分を滑り込ませてしまうのです。つまり、一方ではテロを非難しながら、自分の味方に対しては、政治的な暗殺を黙認するのです。すなわちパレスチナがテロを支援しているからと主張して、イスラエル人によるパレスチナ人の暗殺は黙認するのです。
そのテロ支援にたいしては、証拠もまったく提供されず、必要だとも考えられていません。そして多くの場合、その容疑すら、私には根拠のないものに見えます。合衆国が与えた攻撃用のヘリコプターは、そのような暗殺のために10ヶ月間使われてきました。
ウォルツァー(Walzer)は「イラクの封鎖とイスラエル・パレスチナの衝突についての高度にゆがめられた話」という部分で、彼は「暗殺」という言葉を引用しながら、「イスラエルの残虐行為とアメリカの支援政策」に対する批判ついて彼の見方を示しています。
合衆国の支持を受けたイスラエルによって、パレスチナはおよそ35年間、厳しく野蛮な軍の占領下に置かれてきましたたし、アメリカの政策はイラクの市民社会を荒廃させた(それは同時にサダム・フセインの強化させた)、という批判について彼は反論しているのです。しかし、そのような批判は合衆国の中では隅に置かれ、他方、彼に対する賛成意見は見たところ十分過ぎるものです。
「ゆがめられた話」で、おそらく、ウォルツァーWalzerの頭にあるのは、全米報道のテレビで、マデリーヌ・オルブライト国務長官(当時)がした言明でしょう。彼女は、経済制裁の結果として50万人ものイラクの子供たちが犠牲になるであろうという見積もりについて尋ねられたとき、そのような結果はアメリカ政府にとって「苦渋の選択」だと認めましたが、しかし「我々はそれだけの価値がある代償と考える」とも言明したのです。
私は、米国の行動を規制する法令を緩和することが実質的にどんなことを意味するか、を説明するために、たったひとつだけ例を挙げましたが、同じような例を幾つでも、簡単に挙げることが出来ます。我々は、暴力的で残忍な国家が、「対テロ」の名のもとに自分たちの行為を正当化し、しかもそれが一般的だったことを、容易に思い出すことが出来ます。例えばパルチザンの抵抗運動も、ナチスによれば「対テロ」の戦いとされたのです。そして、そのような戦いは、尊敬されるべき知識人たちによって正当化され、しかも何ら珍しくないことなのです。
4−2 Q:ドイツのブンデスタク首相はすでに、ドイツ兵をアメリカ軍に参加させることを決定しています。フォルサ研究所の調査によれば80%の国民がこれに反対しているのですが。あなたはこれについてはどう思いますか。
A:今のところは、欧州諸国はワシントン十字軍に参加することをためらっています。彼らは、何の関係も無い一般市民に対する大規模攻撃によって、アメリカがビン・ラディンの仕掛けた「狡猾なわな」(フランスの外相の言葉)に嵌まっていくのではないかと懸念しています。
そしてまたビン・ラディンが、自分の大義を実行するため、怒り絶望した人たちを動員するのに、アメリカが手を貸してしまい、その結果は、はるかにもっと恐ろしい結果を招く可能性があるのではないかという懸念も持っているのです。
4―3.Q:戦時に国際社会の一員として国家が行動することについてどうお考えですか。すべての国がアメリカと同盟すべきで、さもなければ敵とみなされるというのは、今回が初めてではありませんし、今やアフガニスタンは同様のことを宣言していますが。
A:ブッシュ政権はただちに世界中の国家に「はっきりした選択」を迫りました。すなわち「我々に参加するのか」あるいは「死と破壊に直面することになる」のか、と(ニューヨーク時間で9月14日)。歴史的な先例を探すことは興味深いものがあります。
いわゆる「国際社会」は強くテロに反対しています。9月11日の残虐な犯罪をも含む、大国に対する大規模テロのことですが、欧米の大国が「国際社会」という用語を使うときは、自らだけのことを指すのです。NATOによるセルビア爆撃も(一貫した西洋の修辞学にしたがって)「国際社会」の名の下で着手されました。
困難を直視しようとする人々は、それが世界中のほとんどの人によって強く反対されていたことを知っていたし、またしばしばハッキリと声に出して反対したにもかかわらず、爆撃は実行されたのです。
富と権力の側の行動を支援しない人々は「グローバル社会」の一員ではないのです。それはちょうど「テロリズム」が、伝統的な考え方では、「我々や我々の友人に対して向けられたテロリズム」を意味するのと同じです。自分が相手に対して行なうテロは「テロ」ではないのです。
ほとんど意外ではないのは、アフガニスタンがアメリカを真似しようとすることです。イスラム教徒がアフガニスタンを支援するように要求しているのです。もちろん、その規模ははるかに小さいが。世界の反対側にいるのと同じくらい遠く離れてはいるが、タリバン指導者たちはおそらく次のことをよく知っているのです。つまりイスラム教国が彼らの友人ではないということを。これらの国は、急進的なイスラム軍の主要な攻撃対象になってきたからです。
アフガン・ゲリラは、ロシアに対して聖戦を戦うために、CIA、エジプト、パキスタンやその他の国によって組織化され訓練された軍隊でした。ところが最近、これらの国は実際、この急進的なイスラム軍によって、テロ攻撃にさらされて来ました。皮肉なことに、エジプトのサダト大統領暗殺以来、CIAその他がその組織づくりをずっと手助けしてきた軍隊でしたし、20年前は、サダトこそ(その軍隊の)最も熱狂的な作り手の一人だったのです。
4―4. Q: あなたの考えでは、アフガニスタンへの攻撃は、”テロリズムに対する戦争なのでしょうか?”
A:アフガニスタンへの攻撃はタリバンではなく彼ら(タリバン)の被害者である多くの罪のない一般人の命を奪うことになるでしょう。何百万もの人が飢餓による死に直面している土地では、攻撃による死者は膨大な数にのぼるかもしれません。
その攻撃は同時に、ビン・ラディンが最も望んでいることに、そのまま答えることにもなるのです。ワシントンは、各国の首脳、中東の専門家、そしてたぶん自分自身の情報機関から情報を収集して、そのことを十分に知っているはずですが。
そのような攻撃自体が大量殺戮という犯罪になり、暴力の往復運動を一層拡大するものとなるのは確実です。それらは西側諸国に対しての新たなテロ行為を生み出し、9月11日のものよりさらに恐ろしい惨事を招くものとなる可能性もあります。そのような力学は、つまるところ、皆さん御馴染みのものです。
4―5.Q:もし、テロリストが、世界貿易センターにほとんど人がいない夜の間に、米国を攻撃していたらどのような状況になったか想像できますか?言い換えれば、犠牲者が非常に少なかったとしたらアメリカ政府は同じような方法で報復したでしょうか?また、国防総省と世界貿易センター(今回の惨事の象徴)がやられたということが、どの程度、この事件に影響したと思われますか?
A:私はそこにどんな違いがあるか疑わしいと思います。これは犠牲者がずっと少なかったとしても大変な犯罪です。ペンタゴンは「シンボル」以上のもので、全くコメントの必要がないでしょう。
貿易センターについては、テロリストがそれを1993年に爆破し、先週も破壊しましたが、そのとき彼らが何を考えていたか我々はほとんど知りません。しかし、「グローバリゼーション」「経済帝国主義」、あるいは「文化的価値」との関係は薄かったと確信しています。
なぜなら、それらの観念は、ビン・ラディンとその仲間たちには馴染みが薄く、また関心もなかったからです。なぜなら、彼らのテロ行為は、何年もの間、イスラム世界や他の所で貧困にあえぎ抑圧させられている人々(あるいは9月11日に犠牲になった市民)に多大な苦痛を与える原因になっています。しかし、この事実に、彼らが明らかに関心を持っていないからです。
彼らが確かに知っているように、この事件の直接の犠牲者の中には、イスラエル軍の占領下におかれたパレスチナ人がいる。しかし、彼らの関心は違ったところにあるし、ビン・ラディンは、少なくとも、多くのインタビューで、そのことを十分に雄弁に表現している。
すなわち、アラブ世界の堕落した抑圧的な政治体制を転覆させ、正しい「イスラムの」体制に取って代えるのだというのである。サウジアラビア(彼は米国の占領下にあるとみなしている)、チェチェン、ボスニア、中国西部、北アフリカ、そして東南アジアまたはその他の地域での「不信心者」たちとの闘いでイスラム教徒を支援するというのが彼の考えなのである。
西側の知識人にとって、そのような西側の価値や進歩への憎しみを、今回の事件の「より深い原因」として語ることは便利である。それは次のような質問を避ける有用な手段である。―ビン・ラディンのネットワークそれ自体がどんな起源を持つのか。何が中東地域を覆う怒りや恐怖や自暴自棄をもたらしているのか。また何がイスラム原理主義テロリスト細胞に水を与える水源地になっているのか。
これらの質問に対する答えはかなり明快だが、彼らの選んだ説明原理と矛盾する。だから、これらの質問を「表面的で」「取るに足らない」として捨て、いわゆる「より深い原因」に向きを変えるほうが西側の知識人にとって良いのである。(私=チョムスキーからすれば)「より深い原因」の方が本当はもっと表面的であるとしても、彼らにしてみれば、今回の事件と関連がある限りは、「より深い原因」について語るほうが好都合なのである。
4−6.Q:我々は戦争を支援しているのでしょうか?それを戦争と呼ぶべきなのでしょうか?
A:「戦争」の正確な定義はありません。人々が「貧困に勝つ戦争」や「麻薬戦争」などについて話します。いずれにしても、形を成しつつあるものは、少なくとも国家間の紛争ではありません。けれども、そうなり得る可能性はあります。:
アメリカが、大声で明確に警告を発しているのは、世界の国々が「はっきりした選択」に直面しているのだということです。すなわち、わが十字軍に参加せよ、さもなければ「死と破壊に確実に直面することになる可能性がある」ということである(RWアップル、ニューヨーク時間、9月14日)。
もしアメリカが文字通りその脅しを完遂するのであれば、あるいはそれに近いものであれば、並外れた規模の戦争がおこるでしょう。私はその可能性はそう高くはないと思いますが、排除することもできないと考えます。
4―7.Q:これは従来型の戦争ですか。それとも、ブッシュが言うように、新しい戦争、すなわちイスラムを殲滅させるための十字軍ですか?あるいは単なるテロ行為なのですか。
A:それは「新しく」もないし、また「テロに対する戦争」でもありません。我々が忘れるべきではないのは、レーガン政権が20年前に就任し、外交政策の第一焦点が「国際テロ」の脅威となるであろうと言明したことです。そして、この脅威に対して驚くべき規模の国際的テロのプログラムでもって対応しました。その結果、国際司法裁判所は、アメリカを「不法な軍事力の行使」(すなわち、国際テロ)だと非難するまでになったのです。
9月11日に起こったことは、疑いなく恐るべき犯罪でした。大きな犯罪であれ小さな犯罪であれ、犯罪に対処する適切な方法は、国内法と国際法に適合するもので、適切なものは多々あります。そして先例もあります。たとえば私が先述した例です。
ニカラグアはおそらくワシントンが仕掛けたテロリスト的戦争に対して、ワシントンで爆弾を爆発させることによって対処することができたかもしれない。しかし、ニカラグアはそうする代わりに国際司法裁判所に提訴し、国際司法裁判所は先述したような判断を下しました。
アメリカはもちろん、その判決を軽蔑し投げ捨て、それに対応する行動として自らのテロリスト的攻撃をエスカレートさせました。そして安全保障理事会の「あらゆる国が国際法を遵守するように要求する」という決議に拒否権を発動し、その後、同様の国連総会の決議にも反対投票をしました(アメリカと歩調を共にしたのはイスラエルとサルバドルだけ。翌年はイスラエルだけでした)。
アメリカが、国際法のもとで、その義務に従うことは、やろうと思えば出来ることです。そしてもちろん、それには何の障壁もありません。(やる気がないだけなのです。)しかも、これは決して唯一の例ではありません。
アメリカが1998年にスーダンを攻撃し、医薬品の半分を作っている施設を破壊し(医薬品は補充することができない)、数知れぬ多くの人々の死を引き起こしたとき、スーダンは安全保障理事会に提訴したが、アメリカは調査さえも許可することを拒否しました。
IRA(アイルランド共和国軍)の爆弾がロンドンで爆発したとき、アメリカを爆撃するという声はありませんでした。IRAへの財政支援のほとんどの出所となったのがアメリカ、ボストンだったにもかかわらず。それどころかむしろ、テロへの依存の背後に存在するものを操るために、さまざまな努力がなされてました。
オクラホマシティ連邦ビルが吹き飛ばされたとき、中東を爆撃するという声があがりました。もし、中東がテロの源だということがわかったら、ボストンの場合と違って、多分そこが爆撃されていたでしょう。ところが、アメリカの右翼民平組織ミリシアが爆破テロの源だということが分かったとき、モンタナとアイダホを抹殺するという声はあがりませんでした。むしろ、犯人の捜索が行われ、犯人が発見され、裁判を受け判決を受け、そのような犯罪の背後にある不満・苦情を理解する努力、問題解決の努力がなされたのでした。
ほとんどすべての犯罪は、ストリートでの強盗であろうが巨大な残虐行為であろうが、理由があります。そしてその中には重大なものがあり、検討されなければならないものがあるということを、我々は一般的に分かっています。犯罪行為に対処する適切な方法はあるのです。個人であろうと国であろうとにかかわらず。
4−8.Q:いわゆる「ふたつの文明の衝突」について話してもらえますか?
A:これはいま流行の話題ですが、そんなことはほとんど意味のないことです。まずは、簡潔に馴染みのある歴史の再考してみましょうか。
最も人口の多いイスラム国家はインドネシアです。スハルト大統領が政権を握った1965年以来、アメリカの友好国です。その年、スハルトは軍隊を使って大虐殺を行い、何千万もの人々、多くは土地を持たない農民が犠牲となりました。
それは米国の支援によって行なわれ、西側諸国からは大歓迎を受けました。幸福感が噴出しました。そのことは、追想するにはあまりにも困惑するものであるがゆえに、事実上、記憶から消されてしまっているのです。
スハルトは、虐殺・拷問、20世紀後半のその他の虐待など、恐ろしい記録を積み重ねてきた時でも、クリントン政権が称しているように、相変わらず「我々の一員」なのです。
タリバンを別にすれば、最も過激なイスラム原理主義国家は、国家建設以来、アメリカの子分であるサウジアラビアです。1980年代には、アメリカとパキスタンの情報機関は、サウジアラビア、英国その他の支援も得て、アフガニスタンに駐留するロシア兵に最大限の損害を加えるため、最も過激なイスラム原理主義者を兵士として編成し、武装させ、訓練してきました。
サイモン・ジェンキンスがロンドン・タイムス紙上で講評しているように、その成果によって、穏健な政権が破壊され、狂信的な政権が生まれることになりました。その体制にアメリカは何の視力もなく資金援助をし続けたのです。この財政的支援の恩恵を受けた人間のひとりがオサマ・ビン・ラディンでした。
1980年代には、また、米国と英国は自分達の友人であり同盟者であるサダム・フセインに対し強い援助を行いました。確かにビン・ラディンと比べれば、より世俗的・非宗教的な人物ですが。しかし、いずれにしてもアメリカはキリスト教の側にいたのではなく、文明間の「衝突」ではイスラム側・フセイン側についていたのです。フセインがクルド人への毒ガス攻撃など最悪な残虐行為を行った期間を通じてずっとです。
1980年代には、また、米国は中央アメリカで大きな戦争をしていました。およそ200,000人もの拷問され寸断された死体を放置し、何万人もの孤児・難民を放っりっぱなしにし、ニカラグア、グアテマラなど4つの地域が荒廃しました。米国の攻撃の主要なターゲットはカトリック教会でした。というのは、「貧しい人のための政策を優先的に選択する」という考えを採用することで、アメリカ自らが表明する”文明化した世界”に背いたからです。
90年代には、皮肉にも、主として大国の理由から、米国はバルカン半島の子分・同盟者として、ボスニアのイスラム教徒を選びました。そして彼らに巨大な被害をもたらしたのです。
もうこれ以上、続ける必要はないでしょう。これらの例で、「文明」間の分裂をどこに見つけることが出来るでしょうか?以上の例から、「文明の衝突」があると結論づけられますか?もし、あるとすれば、カトリック教会を一方に、アメリカとイスラム世界の最も凶悪で狂信的な原理主義者たちをもう一方に置くことになりますが、無論、そんな馬鹿なことを私は提案できません。だとすれば、理性的合理的な根拠から、どんな結論を引き出せばよいのでしょうか。
4―9.Q:あなたは我々が文明という言葉を適切に使っていると思いますか?真の文明社会はこのような世界戦争に我々を導くものなのでしょうか?
A:ガンジーはかつて西側の文明についてどう思うか尋ねられ、良い考え方のひとつかもしれないと思う、と答えました。いずれにしても、どんな文明化された社会も、私がいま言及した残虐行為のどれも許容しないでしょう。
いま私が言及したものは、もちろん合衆国の歴史においてさえ、ひとつのちっぽけな例に過ぎません。ヨーロッパの歴史ではもっと酷いことが行われており、その例に事欠きません。
そして確かに、「文明世界」であれば、世界を大戦に引きずり込んだりはしないでしょう。そうではなく、国際法によって規定された手段に従い、紛争解決の豊かな先例に従うでしょう。それが「文明世界」のすることではないでしょうか。
4―10.Q:切迫した将来をどう見ますか?今後、何が起こると予想されますか?
A:米国は宣言通りの道を辿るでしょう。アフガニスタンへの攻撃、そしておそらくはタリバンではなく彼ら(タリバン)の被害者である多くの罪のない一般人の殺害という道筋です。何百万もの人が飢餓による死に直面している土地では、攻撃による死者は膨大な数にのぼるかもしれません。
攻撃することは、ビン・ラディン氏の大多数の熱烈な信奉者の期待通りになることでもあります。それはアメリカ政府が、報復攻撃のために、各国の首脳、中東の専門家、そして多分、自分の情報機関からの情報収集から、聞いて知っているとおりのことです。
そのような攻撃自体が、大量殺戮という犯罪になるでしょうし、暴力の往復運動を一層拡大するものとなるのは確実です。それらは西側諸国に対しての新たなテロ行為を生み出し、9月11日のものよりさらに恐ろしい惨事を招くものとなる可能性もあります。つまるところ、そのような力学は皆にとってお馴染みのものです。
あるいは、米国が例えばフランスの外務大臣からの警告などを考慮することもありえます。アフガニスタンで罪なき人々を虐殺した場合にはビン・ラディン氏によって仕組まれた「魔性のわな」に陥るだろうという警告です。
大胆な予想など出来ませんが、先に挙げた範囲に選択肢があるのは明らかです。
4―11.Q:長期的に見て、この扮装がどんな政治的な結果をもたらすと思いますか?どんな種類の世界を、我々の息子たち娘たちが、引き継ぐことになるのでしょうか?
A:それはどちらの道を選ぶかにかかっています。どちらの選択がどんな結果になるかは定かではありませんが、我々はかなり信頼性のある予想はできるでしょう。
4―12.Q:テロリストの本当の狙いは何だと考えますか?
A:その答えはテロ組織を設立、支援してきたCIAが一番よく知っているでしょう。テロ組織が、後ろ盾である自分達に刃向かった初めての事件、1981年のエジプトのサダト大統領暗殺以来、CIAはテロ組織の事情に通じているのですから。その二年後、1人の自爆犯がアメリカ軍をレバノンから撤退させましたが、それも同じ組織による犯行との疑いがあるものです。それ以来、幾度もそのようなことがありました。
テロ組織、とりわけビン・ラディン自身は、過去10年にわたり、数々のインタビューで自分達の掲げた目標を明らかにしてきました。:アラブ世界の腐敗した抑圧的な政権を打倒して、本来のふさわしいイスラム体制を取り戻すこと。サウジアラビア(ビン・ラディンはアメリカの占領下だと考えている)、チェチェン、ボスニア、中国西部、アフリカ北部、東南アジア、そして、おそらくは、その他の地域の中の「不信心者」と闘っているイスラム教徒への支援。
テロリストの活動は、貧しい人々・虐げられている多数の人にとって大変な打撃でしたが、そういうことにテロリストたちは関心を寄せてはいないのです。彼らは怒り・恐怖・絶望という貯水池から自分たちへの水を引くことが出来ることを知っているのです。その怒り・恐怖・絶望の多くはアメリカの政策がもたらしたのですが、これは最もアメリカ寄りの人も含めて、中東に住む人なら誰でも知っていることです。
4―13. Q:これらの攻撃は憎悪にもとづくと言われていますが、あなたはこの憎悪が何に由来すると考えますか。
A:CIAおよび同盟者によって組織・動員されたイスラム急進派にとって、憎しみこそが彼等の言動のすべてです。アメリカは、その憎しみが自分達の敵に向けられていたときは喜んでいたのに、自分達が培養してしまった憎しみが、自分達や同盟国に向けられるとなると、もちろん喜べない。こんなことを20年もくり返しているのです。
中東(これはかなりハッキリした概念だと思うのですが)の人たちにとっては、自分たちのこうした感情の根拠ははっきりしています。また、その感情の源も広く知られています。最近のウォール・ストリート・ジャーナルは、「金持ちのイスラム教徒」、つまり銀行家、職人、ビジネスマン、親米派でありながらアメリカの対中東政策には極めて批判的な人々の態度につい書いています。この人たちは、アメリカ政府が、情な圧政を支持し、民主化への動きに反対し、「圧政に“つっかえ棒”をしてやる」ことによって自立的な経済成長を阻む障壁を設けていることを強く非難している、とありました。
しかし、彼らが最も懸念していたのは、アメリカ政府がイスラエル政府の残酷で非人間的な武力占領を断固として支持していることです。この政策は、アメリカがイラクの市民に対して壊滅的な爆撃を加えるという、無辜の民に対する罪と比べてもなお、衝撃的なことであります。しかも、この爆撃は、結局はサダム・フセインに力をつけさせる結果に終わっているのです。
同じような感情が、少数の特権階級の外側にいる大多数の人々の間では、なおさらのこと、さらに辛らつな表現となって広まっています。当然、この人々は、アメリカに広まっている、キャンプ・デーヴィッドにおける「寛大な」「公平な」提案などという幻想に慰めをみいだすことはありません。アメリカお気に入りの、他の神話については言うまでもありません。
4―14.Q:罪のない一般市民がこの攻撃の代償を払うことになると思いますか。
A:はい、そのとおりです。まさに過去においてそうであったように。既に申し上げたような犯罪の被害者はどのような人々だったかを考えてみれば、それはすぐに分かることです。規模の小さい犯罪例ですら、そうなのです。
4−15.Q:この紛争におけるヨーロッパの姿勢についてはどう思いますか。
A:ほとんどの国の人々と同じように、ヨーロッパ人も今回のテロリストの残虐行為には、当然、恐怖を覚え、ショックを受け、そしてうろたえました。しかし、ヨーロッパやその北米への移住者にとって、今回の事件は格別の衝撃でした。
この犯罪は、現代史における新しい犯罪として、メディアでは書かれてきました。しかし、それは残念なことに、規模ではなく、実は標的という点においてなのです。米国は今回のテロで、1812年の戦争以来、初めて本土に攻撃を受け、脅威にすら晒されたのです。今までにアメリカの植民地が攻撃を受けたことはあったが、米国本土自体は受けたことはなかったのです。
この間、米国は実質的に先住民を絶滅させ、メキシコの大部分を征服し、周辺地域に武力介入し、ハワイとフィリピンを征服し(何十万というフィリピン人を殺している)、そして特に過去半世紀の間、世界の多くの地域に軍事力を展開してきました。その犠牲者の数は途方もなく大きいものです。
しかし、今回初めて、銃が今までとは正反対の方向に向けられたのです。同じことがヨーロッパにも起こるでしょう、もっと劇的に。確かにヨーロッパは恐ろしい破壊を被ってきましたが、それはヨーロッパ内部の戦いでした。その一方で、ヨーロッパは世界の多くの地域を極端な残忍性で征服してきた。
ヨーロッパは、それまで被害を与えてきたものたちからの攻撃を、ごくまれな例を除いて、受けたことがありません。したがって、NATOがすばやく米国の支持にまわったのも当然です。何百年にも及ぶ帝国主義的暴力は、その知的、道徳的文化に多大な影響を与えているのです。
それでも、ヨーロッパの指導者たちや、一般世論はある程度、米国に極端な武力を行使しないよう警告しています。しかし彼らは、私の信ずるところ、エジプトのムバラク大統領ほどまでには行っていません。
というのは、エジプトのムバラク大統領は、米国に攻撃を開始する前に確かな証拠を示すように、また、国際法の範疇で行動するようにと、促しているからです。テロリスト組織の主要な発生地でもあるエジプト自体が、この20年間、その残虐行為に苦しんでいることを思い出してください。しかし、それでも、ヨーロッパはいまのところ、アメリカに対する抑止力になってきました。もちろん、様々な変化はありますが。
4―16.Q:西側諸国の市民は平和を取り戻すために何ができるとお考えですか。
A:それは西側の市民がなにを求めるかによるでしょう。よくあるように、暴力を拡大循環させたければ、ビン・ラディンがしかけた悪魔の罠に陥り、無辜の民を虐殺するよう、アメリカに頼めばよいでしょう。しかし、暴力を減らしたいと願うなら、もっと違った方法で大国に影響を与えるようにするべきです。私は既にその概略を示しましたし、その十分な前例もあるのですが。
その中には、この残虐行為の背景に何があるのか詳しく吟味することをいとわない、ということも含みます。しばしば、この背景に関心を払うこと自体、テロの正当化になってしまうだろうから、かかわりあうべきでない、とする意見を耳にしますが、これは言及するにも値しない実に馬鹿げた、有害な考え方です。
ところが残念なことに、こうした考えがごくあたりまえに通用しているのです。9月21日付けのニューヨーク・タイムズ紙に載っている、ある尊敬すべき知識人の意見がよい例です。しかし、我々が暴力の循環・拡大に貢献しないよう望むのであれば、富裕な大国の目標だけでなく事件の背景をも十分に吟味することこそが、我々のなすべきことです。これはもうすでにスペインの事例で十分お馴染みであるように、他のすべての事例にもあてはまることですが。
4−17.Q:この紛争・対立から利益を受けるのは誰だと思いますか。
A:このような残虐行為は普通、両陣営の最も無情で抑圧的な層に有利に働きます。それは一般人への大規模な報復がテロリスト組織に利益をもたらすだろうと広く思われているのと同じです。この場合、9月11日の事件は、軍事占領下で暮らすパレスチナ人たちには圧倒的な痛打でした。イスラエルはパレスチナ人締め付けの「絶好の機会」とあからさまに表現し、その満足感を隠そうともしませんでした。
ブッシュ政権はこの機会をすぐさま利用し、かねてからの計画を推し進めようとしました。その計画とは、先ず軍事化です。それには宇宙の軍事化の代名詞ともなっている「ミサイル防衛構想」をも含みます。また、社会的民主的なプログラムをひっくり返し、環境問題への関心などを弱め、企業のグローバル化がもたらす厳しい現実への関心を他の方面に逸らすことなどです。
また、富がごく限られた一部に流れることを強化する手段を講じること(例えば、資産売却所得税の廃止など)。更に、社会への統制を強め、議論や抗議をできないようにすることなどです。このような動きは当然の成り行きであり、予測されたことです。
暴力の増大は、両陣営の最も無情で抑圧的な層に有利に働きます。重ねて言いますがうが、この力学は珍しいものではありません。
4―18.Q:これらのテロリストの攻撃についてどうお考えですか?その攻撃がどこに起きるか、予測可能だったでしょうか?
A:今回の攻撃は人間性に対する残虐な犯罪です。これを疑うものは誰もいないでしょう。このような規模の、しかもここまで巧妙なことが起こりえるとは、誰も予測するのは不可能だったでしょう。このテロ攻撃を行ったと推定される組織の活動を綿密に監視してきた各国の情報機関にも同じことが言えるでしょう。
とはいえ、主要国の情報機関はテロの組織網について多くのことを知っているということも頭に入れておかなければなりません。というのは、彼らが多大な援助と訓練を与え続けてテロ組織の設立を助け、その一方で、その犯罪行為を注意深く監視してきたのですから。
ですから、この種の攻撃は確かに予測不可能であったものの、何らかのテロ攻撃が起きるかもしれないということは、米国の中東政策に関心のあるものにとっては、まったく驚くべきことではなかったのです。
4―19.Q:これらのテロ襲撃はアメリカがその政策の結果として自ら招いたものなのでしょうか?
A:直接的な意味においては、そうではありませんが、間接的意味においては、もちろん、そのとおりです。議論の余地すらありません。
実行犯らはテロリストのネットワークの一味です。このネットワークの起源はCIAやパキスタンの情報機関やエジプト、サウジアラビア、その他諸々(フランスの情報機関が主導した場合もあるようですが、)の勢力が、ロシアのアフガニスタン侵攻に対する「聖戦」を戦うべく組織し、訓練し、武装を与えた外人傭兵部隊にあります。
背景の全容はかなり謎に包まれていますが、カーター元大統領のもとで国家安全保障会議顧問をつとめたブレジンスキー氏の豪語によると
、自分は1979年のロシアによるアフガン侵攻の半年前に、当時のアフガン政権に対し戦っていたムジャヒディーン(イスラム自由戦士)への支援を開始し、ロシアを「アフガンの罠」(氏の言葉のまま)にひきこむ任務についていたそうです。
78年から79年にかけては中国とイランも同様の作戦をとっていたようですが、のちにアメリカ中心の作戦に合流しています。まあ、ブレジンスキーは単に自分がどんなに才気煥発で、世界中のあちこちで大破壊をひきおこしているあの怪物を、いかに作り出し野に放つのに貢献したか、それを大言壮語したかったのかもしれません。が、彼の話には何らかの真実があるでしょう。
いずれにしても、これらの作戦は80年代初頭から大きな規模で進行中だったことに疑う余地はありません。それに、驚くことではありませんが、CIAとその友人たちは北アフリカやサウジアラビアなどから好んで過激派を集め、「アフガニ」と呼ばれる武装組織をつくり、その中核としました。この人々が、最新式の武器を備えた大規模な外人部隊として鍛え上げられたのです。
これらのイスラム急進派(西洋ではしばしばイスラム原理主義と呼ばれていますが)は最も狂信的で、命知らずの殺人者集団でしたが、CIAの表現を借りれば、「逆流」と呼ばれる動きが始まったのはまもなくのことでした。81年、「アフガニ」出身のイスラム急進派達はエジプトのサダト大統領を暗殺しました。サダトはもっとも熱心なアフガン軍創設者のうちのひとりだったのに、ですよ。83年には、この拡大し続ける原理主義集団と何らかのつながりがあるらしい人物が自爆テロを行い、レバノンから米軍を追い出すという成果をあげました。
以来、特に90年代、イスラム急進派は世界中でテロ活動を繰り広げました。彼等はロシア(ソ連)をアフガニスタンから駆逐したことを大勝利と誇っていますが、それは莫大な犠牲をともなっていたのです。その挙げ句、「穏健な政府を倒し、アメリカが滅茶苦茶な資金援助をおこなっていた集団を土台に、狂信的な政府を樹立した」のです。(ロンドン・タイムズの特派員でこの地域に精通するサイモン・ジェンキンズの記事。彼は、資金の殆どはサウジからきたとしている。)
やがて「アフガニ」はイスラム武装組織に加わり、チェチェン、ボスニア、カシミール、中国西部(彼等自身、中国が鼓舞した作戦に参加した帰還兵)、フィリピン、および諸々の地域での戦闘に参加したのです。彼等が敵とみなした政権に対しては、殺人的テロ行為を実行しました。サウジアラビアやエジプトがそうです。
90年代に入ってからはアメリカが対象となりました。というのも、ビンラディンとその同盟者の言い分では、アメリカはサウジに恒久的な軍事基地を開設して以来、サウジを占領しているからです。ロシアがアフガニスタンを占領したのと同じだと言うのです。もちろん、アメリカはサウジの残忍な腐敗政権やその他の似たような腐敗勢力の後ろ楯の筆頭です。
西側諸国が自分達の都合でつくりだしてしまったテロリスト、その怪物の定める水準に照らすと、そうした腐敗勢力は、「イスラム的ではない」とされるのです。
その上、この地域に関心のある人ならだれでも知っていることと思いますが、テロリストは富裕層から貧困層、過激派から一般信徒までのすべてのイスラム教徒が抱く絶望・怒り・欲求不満を水源としています。こうした感情が、少なからず、アメリカの政策に深く根ざしていることは明らかですし、また、聞く耳のある人には、絶えずはっきりと語りかけているのです。
4−20.Q:なぜアメリカは中東でそんなに憎しみ・嫌悪感を抱かれているのでしょうか?イスラエルの占領にたいする支援、抑圧的なアラブの制度の支援、イラクの一般国民に対する経済制裁、傲慢さ、シンボルとしてのアメリカ(しかし何のシンボル?)、宗教的理由が原因ですか?
A:『ウォールストリートジャーナル』(9月14日)は湾岸地域で富裕特権階級のイスラム教徒(アメリカに関連している銀行家、専門家、実業家)の聞き取り調査結果を公表しました。彼らはアメリカが世界中で行っている一般的な方針に強く賛同しています。企業のグローバリゼーションやその他すべてについて。
しかし彼らはアメリカの中東政策にひどく憤慨しているのです。彼らの主な苦情は、イスラエル軍隊の残虐な占領にたいする、大規模なアメリカの軍事的・外交的・経済的な支援です。今や、この35年間、彼らの心の中では、イラクの市民社会を攻撃し荒廃させているワシントンの攻撃に鋭く対立する姿勢が築かれているのです。なぜなら、この攻撃は逆にサダムフセインを強化しているからです。彼は知ってのとおり、クルド族への毒ガス攻撃を含む、彼のひどい残虐行為にたいして、アメリカは一貫して強い支持者だったのです。
彼らはまたアメリカの支援に強く反対しています。その支援は、中東全領域の酷薄かつ抑圧的で腐敗した体制にたいするものであり、民主主義的な傾向に反対するものであり、「圧制的な体制を支持する」ことによって経済発展への障壁の築くものだからです。
深い貧困と圧迫を受けている大多数の人々の間では、同様の意見はさらに一層、苦々しいものとなります。ビン・ラディン氏のネットワーク、それと似たような組織が、その領域の人々に対して巨大な災危を引き起こしているにもかかわらず、残虐で腐敗した体制の告発とアメリカの政策にたいする断罪が十分な共鳴を得る理由が、まさにここにあるのです。
4―21.Q:テロを行使しているのは合衆国のような国々、すなわち、政治的な動機で、武力を行使する国だ、あなたは仰いました。それはどんなとき、どんなところで?
A:その質問に当惑しています。
確かに、合衆国は、結局、国際的なテロのための国際司法裁判所によって有罪とされた唯ひとつの国です。政治的目的のために「不正な武力の行使」をしたとして、国際司法裁判所が合衆国にこれらの犯罪を終結し実質的な賠償を支払うよう命じました。
合衆国はもちろんその裁判所の判決を鼻であしらって投げ捨て、ニカラグアに対するテロリスト的戦争をエスカレートさせることで、その判決に答えました。そして、すべての国が国際法を遵守すべきだとの国連安保理事会決議に拒否権を発動したのです。(そして同趣旨の国連総会決議に反対の投票をしたのですが、それに賛成したのはイスラエル一国だけでした。)
テロリスト的戦争は、ニカラグア軍と交戦するのではなく、「ソフトターゲット」すなわち、無防備の市民を攻撃するという政府の方針にしたがって拡大しました。それは、そのひどい10年間に、ワシントン政府によって中米で行われたテロリスト的戦争の、ほんのちいさな例にすぎません。アメリカは、その10年間で、4つの国を廃墟にし20万人の死体を放置しました。
同じ年月に合衆国は、中東を含む、いたるところで大規模なテロを実行していました。ひとつの例をあげると、1985年、ベイルートにおいてモスクの外で車の時限爆弾による爆破があり、それはもっとも多くの市民に被害が出る時刻に時間が設定されていました。その結果、80人の死者と200人の負傷者を出しました。これはイスラム教指導者を狙ったものだとされましたが、肝心の人物は難を逃れたのでした。
ところがアメリカはさらにひどいテロをも支援したのです。例えば、レバノンに対するイスラエルの武力侵攻は、18000人にものぼるレバノンとパレスチナの市民を殺しましたが、これは正当防衛でもなんでもない殺戮でしたが、すぐに闇に隠されてしまいました。そして、そのむごい「鉄拳」による残虐行為は、その後、何年も続いたのですが、その攻撃対象は次にイスラエルが勝手に名づけた「テロリストの村人」たちに対して向けられたのです。それから1993年と1996年に、引き続く侵略が行なわれましたが、ともに合衆国の強力な支援によるものでした。その侵略は、1996年のカナ虐殺に対して国際的な非難がおこるまで続きましたが、その非難でクリントンが軍隊を引き上げることになったのです)。1982年以後の統計では、レバノンだけで更に20,000人の市民が犠牲になったと見られています。
1990年代、トルコ東南地域に位置するクルド人のテロ・ゲリラ活動に対する対抗措置と称して、合衆国はトルコに輸出兵器の80%を供給し、その結果、何万人をも殺し、2−300万人を家から追い出し、3500の村を破壊しました。これは、NATOの爆撃によるコソボの死傷者数の10倍にもなります。そして、想像を絶する残虐行為がそれにともないました。
アメリカからの武器の流出は、トルコがテロ攻撃を始めた1984年に著しく増大し、1999年にようやく前のレベルを下回り始めました。それは、彼らの残虐行為が目的を達成したからです。こうして、トルコは合衆国から武器を大量に提供される地位から降格して(イスラエル、エジプトは別にして)、その地位はコロンビアに取って代わられました。そしてコロンビアは、90年代における北半球で最も悪質な人権侵害者となったのです。そして同時に、合衆国の武器と訓練を受ける第1級国になったのです。
東ティモールでは、合衆国(および英国)がインドネシアの侵略者たちの支援を続けました。彼らの決定的支援(フランスもそれに参加した)で人口のおよそ1/3をすでに消しさられてしまいました。その支援は1999年の間中、ずっと続き、その結果、9月の激しい襲撃以前にさえ何千人もが殺され、85%が家を追われ、国土の70%が破壊されたのです。
クリントン政権は、その間、事態をどう収拾するかはインドネシア政府の責任であり、彼らからその責任を奪うつもりはない、という姿勢を保ち続けたのです。世界的な批判的世論の強大な圧力を受けて初めて、クリントン政権はインドネシア政府にゲームは終わりだと告げ、その時点で、彼らは即座に東チモールから兵を引き上げました。つまり、アメリカがインドネシアによる大量殺戮の支援に関わっていなければ、いつでも実現可能であった力を、アメリカが潜在的に持っていたことを、この事件は暴露したのです。
1998年のことですが、合衆国によるテロの、小さなエピソードがひとつあります。クリントンはスーダンの薬品製造所および再補給施設を半分破壊しました。死傷者数は膨大であったにちがいなかったが、世間に知れ渡ることはありませんでした。というのは合衆国が国連の調査を妨害しましたし、西側の知識人をそのようなとるにたらないものには関心を持たなかったからです。同じような攻撃がフランスに対して、あるいはイスラエルで、あるいは合衆国で起これば、多分、それと違った反応を呼び起こすでしょう。もっとも、それらと比較することは不公平かもしれません。なぜなら、これらの裕福な国では十二分に薬品が供給され、補給するのも容易だからです。
私はすでにイラクの市民社会が破壊されていることには言及しました.が、およそ100万の民が殺され、その半数以上が幼い子供たちです。「苦渋の選択です、しかし払う価値のある代償だと考えます」とマデリーヌ・オルブライト長官が、2〜3年前に、テレビのゴールデン・アワーで説明していました。これはほんの小さな例にすぎません。
私は、率直に言って、そのような質問が投げかけられたことにさえ驚いています。特に、フランスから、そのような質問があったことに。なぜなら、フランスこそ、国家による巨大なテロと暴力に、自身が貢献していますし、そのことは御存じではないはずだからです。
4―22.Q:あなたは、報復に関するクリントン・ドクトリンが文字通りに解釈されるなら、どこかの国がワシントンに爆弾を仕掛ける権利があると主張されましたが、これについて説明してもらえますか。
A:私はこれまでに「クリントン・ドクトリン」というものについて発言したことは記憶にありませんが、もしあなたが、アメリカの、全ての行政における、国としての政策のことを念頭に置いているなら、その説明は分かりやすいと思います。ひとつの実例を挙げれば十分でしょう。国際司法裁判所の決定があるから、なおさら議論の余地はありません。
アメリカの主義・原則に従って、アメリカ政府が国際司法裁判所と国連安全保障理事会の命令を無視し、テロリスト的戦争をエスカレートしたならば、ニカラグアはワシントンに爆弾を仕掛けても当然だったでしょう。イスラエルがレバノンと占領地域で行なった虐殺行為に、アメリカ政府がはっきりと支持を表明したならば、その犠牲になった人は同じ事をしているでしょう。そういったことなのです。
これはとても簡単な理屈です。もしその理論を、私たちアメリカ人ではなく、他の国の人たちに当てはめるなら、その結論はすぐに導き出されます。
4―23.Q:アメリカでは、かなり一致した反応がありますが?同感ですか?部分的にあるいは完全に?
A:恐ろしい犯罪的な攻撃にたいする憤慨、犠牲者に対する同情、その反応のことをおっしゃっているのならば、その反応は、イスラム教諸国も含めて、すべてのところで、本質的に同一のものです。もちろんすべての正気の人々は完全にそれを共有しています、「部分的に」ではありません。
もしあなたが、多くの無実の人々を必ず殺すことになる殺人的攻撃に対する呼びかけ(それは付随的にビン・ラディン氏の最も熱烈な信奉者たちの期待どおりになることでもあるのですが)のことを言っておられるのであれば、そのような「満場一致の反応」はないと言うよりほかにはありません。TVを見て、表面的な印象として、そう結論付けたくなるかもしれませんが。
私に関する限りは、そのような反応に反対する非常に多くの人々と意見を共有しています。非常に多くの人々です。「ニューヨーク・タイムズ」は、ニューヨークの街頭で、あるいは犠牲者の追悼集会で意見を調査し、インタビューでの発言やプラカードに表明された意見が、暴力に頼ることに圧倒的に反対しているのを見出しました。大多数の意見が何であるのかは、誰も実際には言うことができません。あまりに拡散し複雑だからです。しかし「満場一致」なのか? そうとは言えないことだけは確かです。犯罪の本質に関する点を除けば。
4―24.Q:これらの攻撃の結果、何がもたらされるのでしょうか?米国内では?市民の自由、防衛費の予算などは、どうなるでしょうか?
A:そのような残虐行為は、一般的に、闘いの両側における最も厳しく最も抑圧的な陣営に利益をもたらすものです。それはちょうど、一般市民に対する大規模な報復攻撃がテロリストのネットワークに期待されたとおりの大きな利益を与えることになるのと同じです。他方、ブッシュ政権は予想されたように、この機会を利用して、すぐに彼らの計画を実現しようと動き始めました。すなわち次のようなことです。
第1に、「ミサイル防衛」(それは「宇宙空間の軍事化」の暗号名ですが)を含む軍事化です。
第2に、社会を民主的なものにする計画や環境問題への関心を土台から引っくり返し、大国が手をつなぐかたちでの「グローバリゼーション」がもたらす悪弊への関心を他に逸らすことです。
第3に、きわめて限られた階層に富が移行することを促進させる手段を作り出す(例えば株の売買によって得た所得税の撤廃)ことです。
第4に、社会を統制し、議論や抗議なくすために、画一的に管理する社会をつくることです。
それは彼らにとって全く自然に、期待されていることです。長期的に見て、その結果がどうなるかは、例によって、私たち市民の対応如何です。初めのショックが吸収された後に人々が上記の政策に対してどのように反応するか、そして従順さを鼓舞する政府の努力がどの程度に効果を失うかによるでしょう。社会がそのような政策に耐えられるかどうか、私は疑わしいと思っています。
4―25.Q:他の国においてはどうですか。
A:あなたがどの国のことを聞いているかによって、その質問の意味は変わってくるでしょう。多くの国が自分たちの行なっている虐殺行為に対してアメリカの支持をとりつけるチャンスを得たとして喜ぶことは間違いありません。
評論家たちも、他の国々がアメリカの「悪を懲らしめる十字軍」に喜んで参加すると表明していることに対して、大きな歓迎の意を表明しています。しかし彼らはどうして他の国々がそのような声を挙げているかについて何も説明していません。彼らにその理由は分かっているはずなのに。
アメリカの援助は次のような国々には大歓迎です。チェチェン人を押しつぶしているロシアに、西中国のイスラム教徒と戦争をしている中国に、アチェやその他の地域で虐殺を続けているインドネシアに、そして大部分がイスラム教徒で占めるカシミールのインドによる支配に抵抗して戦っている運動を圧殺しているインドに。そのような例はまだまだ挙げられます。
もしあなたが中東地域のことを考えているのなら、ビン・ラディンの怒りの標的であり、自分自身の国の多くの住民を軽蔑してきた政権は、自分たちの敵に対するアメリカの攻撃に参加したくなるでしょうが、また同時にそれによって引き起こされる結果にも悩むでしょう。彼らはビン・ラディンが仕掛けた「悪魔のわな」という点に関してベドリン外相に同意することは間違いない。ベドリン外相は中東の専門家やCIAが強調したことを繰り返しただけでしょうが。
彼らはアフガニスタンでの地上戦がもたらすであろう結果がどんなものになるか理解しています。そしてまたアフガニスタン人の大虐殺が――犠牲になるのはタリバンではなくアフガニスタン人なのです――ビン・ラディンやその類の者が恐ろしい大義のためにさらに多くの者を自分たちの仲間引き入れることになることも知っています。これは誰もがよく知っているような、暴力によって暴力がどんどん生み出されていく力学なのです。
私たちは今後もたらされる結果がどうなるかをはっきりと言うことは出来ません。それはワシントンの政策立案者が言えないのと同じです。しかし、アメリカ政府やその同盟国がとる様々の選択肢がどのような結果をもたらすかは、それなりの見通しを持つことは出来ます。
4―26.Q:アメリカ政府が今しなければならないことは何ですか?何ができるのでしょうか?そしてヨーロッパ諸国は?
A:国際法と条約の遵守義務に従うべきであり、そのための行動の仕方には十分な先例があります。たとえば、ちょうど言及したばかりのニカラグアの場合―ニカラグアに対するアメリカの攻撃が重大な問題になったことを思い起こして下さい。
アメリカは何万もの人を殺し、国を廃墟とさせたのです。これは事実です。ニカラグアの国際法に基づく努力は激しい大国の力によって遮られましたが、しかし誰もそのアメリカを遮ることはしないでしょう。それはひとつの例だけからは想像できないものです。
もしアメリカにおける医薬品の備蓄と供給の半分がビン・ラディン氏のネットワークに破壊されたら、その犯罪は恐ろしいものと考えられ、激しい反応が起こるでしょう。しかしながらスーダンの場合、国連に提訴しましたが、そこでは、もちろん攻撃した側のアメリカによって遮られました。
IRAの爆弾がロンドンで爆発したとき、政府は彼らの財政源であるボストンを爆破するためにRAFを送りませんでした。そのボストンで私は住んでいたのです。たとえそれが実行可能だったとしても、それは犯罪的な愚行であったでしょう。
もっと建設的な対応は、事件の背後にある国民や市民の関心・不平を現実的に考えることであり、そしてそれらの問題を真剣に取り扱うことです。それと同時に、その一方で、犯罪者を罰するための法に従うということです。
あるいは、オクラホマシティ連邦ビル爆破を考えてごらんなさい。即座に中東を爆撃すべしという声が上がりましたが、もし中東が関係しているというわずかな手がかりがありさえすれば、おそらく、それは起こったでしょう。ところが、犯人が右翼民兵ミリシアの同調者であることが判明したとき、モンタナ州やアイダホ州やテキサス州など、超右翼のミリシアが基地を置いている他の地域を爆撃・抹殺するという声はありませんでした。むしろ、そこにあったのは、犯人を探すことで、彼は発見され、法廷に引き出され、刑を宣告されました。
つまり、反応は賢明なものであれば、その程度に応じて、そのような犯罪の背後に潜む不満の種を理解する努力が生まれ、その問題点に取り組む努力も行われたのです。
ほとんどすべての犯罪は―街での強盗であろうと巨大な残虐行為であろうと理由があり、そのいくつかは重大なものであって検討されるべきものであることを一般に我々は知っています。少なくとも、それが我々の採るやり方であります。もしも我々が正しさとか正義に関心を持つならば、また将来の残虐行為の可能性を増加させるよりは減少させたいと望むのであれば。
状況の変化に応じて適切な注意をすれば、同じ原理がどこでも一般的に有効です。とくに今回の事件では、この原理が役に立ちます。
国際的テロリズムの恐ろしい犯罪を含めて、犯罪の場合に訴訟を起こすことのできる合法的で適切な方法があります。それについては、遺憾ながら、今回のものがはじめての例ではないのです。
ここまでくれば、ヨーロッパ諸国については、私のアドバイスはもう必要ないでしょう。
(翻訳分担者: 寺島隆吉+栗山陽子、山田昇司、寺島美紀子、小西義之、冠木友紀子、久代宮子)
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