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Compendium Interview #5 (Sep. 2001)
from all over the World
5−1.Q:あなたはテロリストに非があると考えますか。テロリズムと、窮地に追い込まれた国民が暴君や占領軍に対して立ち上がった抵抗運動とを、どうしたら判別できるのですか。アメリカに対する今回の襲撃を前述のどのカテゴリーに分類するのですか。
A:私は「テロリズム」という言葉をアメリカの公式文書にある定義どおりに理解しています。「政治、宗教、あるいはイデオロギーにまつわる目標達成のために、威嚇、圧政、刷り込みなどを通して、計画的に暴力を行使すること。」
この実にまっとうな定義に依りますと、あのアメリカでの襲撃事件はまちがいなく、実におそるべきテロ行為という犯罪です。この見解への異義は世界のどこを見回してもまずないでしょうし、あるべきではありません。
しかし、いま引用した公式文書の定義どおりの意味あいと並行して、このテロという言葉には「アメリカおよび同盟国に対して敵が為すテロ行為」を意味するというプロパガンダ的な用法も存在し、残念なことに、実はこちらのほうが標準となっています。
政治学者のマイケル・ストールはいみじくも、こう書いています。「我々が認識せねばならぬことは、それは、強大な力を発動すること、武力行使を威嚇に用いることは、通常、威嚇外交と呼ばれるものであり、テロリズムの一形態ではないとされているが、それは慣習を通してなのだということだ。しかも強調されるべきことは、それが慣習によってのみ、だということだ。」しかし、この中には「威嚇や暴力の行使を大国以外が行った場合、テロ目的だと評される」ことも、普通は含まれているのです。
このプロパガンダ的な用法は、実際のところ広く通用しており、この意味において人々はテロリズムに非があると考えます。ナチもテロリズムを激しく非難し、ナチス抵抗運動であるパルチザンのテロに対して対テロ対策をとりました。ギリシャがその例です。
アメリカもこれに賛同し、戦後、同様の対テロ政策を、ギリシャをはじめとするさまざまな地域で展開しました。その上、アメリカの対ゲリラ政策は、ナチの政策を手本とし、ことこまかに模倣したものです。アメリカはヴェルマッハトの軍人たちの助言を仰ぎ、その手引書は戦後、世界中で「対テロ政策」という名で呼ばれる対ゲリラ政策の立案に用いられたのです。
これらの前例を眺めていると、同一人物や行動に対する評価が、テロリスト、自由戦士、と目まぐるしく変転することがわかります。これは最近ギリシャのすぐ隣でおきていることですが、1998年の時点で、アメリカはクラウク(kla-uck)を「テロリスト」と非難していました。セルビア警察や市民を襲い、セルビア側から法外で残虐な反応を引き出そうとこころみたからです。これはクラウク自身も声明を出してしています。
1999年1月になってやっと、この件に関しては、NATOのなかでも最も好戦的なイギリスが、クラウクのほうがセルビアよりも多くの死者に責任がある、と信じるようになりました。これは信じ難いことですが、少なくとも、NATO上層部でのものの見方を示しています。
国務省、NATO、OSCEなどの西側情報筋の作成した大部の書類を信頼すれば、1999年3月のKVM監視軍の撤退と空爆まで、物質的な事態は変わっていなかったということになるでしょう。しかし、政策は確かに変わったのです。アメリカとイギリスはセルビア空爆を決断し、テロリストと呼ばれていた集団が突如、自由の戦士となったのです。この戦闘の後、同じ集団がアメリカの同盟国であるマケドニアで同じような行為をすると、再びテロリスト、暴漢、殺人者と呼ばれるようになりました。
だれもがテロリストを非難しますが、どういう意味でなのか問わねばなりません。あなたの質問の答えは、ここ数十年にわたってテロリズムに関して私が書いてきたものなかにありますが、そこで私はテロリストという言葉を、文字どおりの意味で用いています。ですから、私が非難するのは、プロパガンダ的な意味で「テロリスト」と呼ばれる人々のみでなく、あらゆるテロ行為なのです。
指摘するまでもないことと思いますが、ストールの考察どおり、大規模なテロ行為は大国にとってはごくありふれた手段です。議論の余地さえないケースもあります。ニカラグアに何万もの死者を出し、その国土を廃墟と化した、アメリカの戦闘を考えてみましょう。
ニカラグアはアメリカを国際司法裁判所に訴え、非合法的な武力行使によりアメリカは国際テロ活動の名で有罪とされ、武力介入をやめて十分な補償をするよう判決が下されました。これに対し、アメリカはなんと戦闘を激化することをもって応じ、安全保障理事会で拒否権を発動、それどころか、全ての国家に国際法を守るよう要請したのです。
この戦闘拡大に際し、アメリカでは「容易な標的」、つまり、農業共同体や健康相談所のような丸腰の、防御されていない市民を攻撃せよ、そして、ニカラグア軍は襲撃しないように、という公式な司令が下されています。アメリカがニカラグアの制空権を掌握していたことと、監督者であるアメリカから高度の通信手段を与えられていたおかげで、テロリストたちはこの指示を遂行することができました。こうしたテロ活動がひろく容認されていることを我々は認識すべきです。
著名な批評家であるマイケル・キンズレーは、主流メディアの中でも極めて進歩的な方ですが、その彼ですら、「容易な標的」"soft
targets"をテロリストに狙わせたことを正当化するべく、国務省が述べたことを無下に却下できない、としています。「理にかなった政策」は「費用対効果の基準」、つまり「流された血と犠牲の重さ」と「その結果として民主主義が成立する度合い」、その釣り合いをみたすテストに「合格する」ものでなくてはならないと言うのです。
この民主主義とは、アメリカ流解釈にもとづくものですが、その解釈はニカラグアという地域で極めて明確に例証されました。また、このテロ・プロジェクトがアメリカのテスト基準を満たしたとしても、それを分析し実行に移す権利をもつのはアメリカの上層部であることは、当然のこととみなされているのです。
この対テロ・プロジェクトが成功し、ニカラグアが屈服したとき、アメリカ人は「心をひとつにして喜んだ」のです。このことはニューヨーク・タイムズにはっきり書いてあります。そのプロジェクトがどのように完遂されたか、その顛末・方法をくまなく知りながらも、です。
その顛末、方法とは、タイム誌が愉快そうに書いている通り、「経済を破綻させ致命的な代理戦争を長引かせる」方法です。そうすれば「疲れ切った国民が無用になった政権をみずからほうりだす」というわけです。ただし、こちら側の犠牲は「最小」に抑えつつ、「橋を破壊し、発電所を損傷し、農場は廃墟のままして、住民を放置しておく」というものです。
このようにしてアメリカの大統領候補者に「選挙で勝利する問題・話題」を提供したわけです。すなわち「ニカラグア人民の困窮状態に終止符を打った」というわけです。アメリカ上層部では、この成果に対し、限り無い幸福感が満ちていました。
しかし、アメリカのテロ戦争は、単なる「テロリズム」ではなく、主義にもとづく「対テロ」政策とされました。こうしたアメリカの基準が、アメリカの強大な国力と、それに抵抗する人たちの犠牲の結果として、世界に広く普及しているのです。
これは決して極端な例ではありません。国際司法裁判所の結論もでているので、議論の余地がないと考えて持ち出したまでです。ニカラグアは、ワシントンで爆弾を爆発させるようなことはせず、法的な手続きを踏もうと努力したにもかかわらず、失敗におわったのですが、今日の状態を解決するためのひとつのモデルを提供しているといえるでしょう。といっても、これが唯一のモデルだとは限りませんが。
5―2.Q:他の国でもそうでしょうが、ギリシャでは、最近のテロリスト攻撃をどう見るかに関わって、人類史において倫理の筋を通した超大国は存在しなかったという討論や論争がおきています。多くの批評家・歴史家・政治家・知識人は、大国・民族・国家、そのほか人類すべての制度は、大きく強くなることにのみ関心を示していると、主張しています。言い換えれば権力・権威は価値・倫理・理想とは何の関係もないということです。超大国はより多くの権力、より多くのお金、遙かに大きい軍事力、はるかに大きい権威だけに関心を持っています。あなたはこういうことを信じますか。歴史上で帝国や国家や大国が他の国や人々を支配し、人道的な接し方をした例があるでしょうか。
A:私はそんな議論があることにさえ驚いています。国家は品行方正な代理人ではありません。国家は国内の権力配分に依存した権力組織です。しかしながら人間は倫理的な存在であり、自国の暴力にたいして重要な制約を課すことができます。とくにより自由な社会では。
しかしそうすることに失敗する国もあります。一つの例をあげると古代アテネの国際的な行動は人々に喜びをあたえるものではなかったし、近代の歴史の例を挙げるまでのことはないと思います。しかし人間はそうすることができるし、そのようにした例もあります。
もちろん、すべての権力組織は自分自身を人間味あるものとして描き、実際、高い価値をめざすものと記述しています。また、選ばれた知識人の任務は自国賛美のコーラスを指揮することであり、事実そうしてきましたが、これはまた別の話です。これは今日のところでは全くお馴染みの話でしょう。
ここに最近、私が出した2冊の本があります。それは、「独立した心の群れ」(これは、ハロルド・ローゼンバーグによる知的エリートについて適切な表現ですが)が、この数年間、どのようにして自分の知的エリートとしての機能を果たし、知識人の名誉を汚すという新しい記録を確立したかを概観したものです。
5―3.Q:アメリカの政治家や情報将校は、明らかに、今回の惨劇について我々が知らない多くのことを知っています。多くの事件が物語っているように、私たちは、半分の真実とあからさまな嘘を聞かされています。私はあなたのたくさんの論文や著書を読みましたが、そこでは、嘘を言うと、政治家というのは、知らず知らずのうちに短期間は自分でもそれを真実と信じるようになるのだ、と書いてありました!(この引用が正確でないとしたら、お許しください。)そこで以下の質問をします。(1)あなたはどのようにこの態度を説明しますか?(2)あなたはこの惨劇について今までに聞かされていることで、どちらが大嘘で、どちらが半分の真実だと思いますか?
A:私は必ずしもあなたの意見に同意できません。というのは、アメリカの情報機関が他の人の発見できない多くのことを知っている、というのは疑わしいと思うからです。これは極めて普通のことで、機密扱いを解除された多くの書類や歴史の記録からも知ることが出来ます。
しかし,公務員やその柔順な合唱部隊は、彼らが知っている真実を言わないように期待されていることも事実です。むしろ,彼らは自分たちが優れているが故に標的にされていると主張するでしょう。つまり,「人々は我々に憎悪を抱いている。資本主義,個人主義,世俗主義,民主主義などの、世界の規範となるべき『新秩序』の勝利者だからだ」というわけです。(尊敬すべき自由主義知識人、レナルド・スティールRenald Steel,ニューヨーク・タイムズ、9月14日)
真実にたいして少しでも注意を払う人は誰しも事実は異なっていることを知っています。これはテロリストのネットワークだけでなく(ロシアに対する聖戦のためにCIAが組織し,武装するのを手助けしたのだが),金持ちで特権を持つ親米派イスラム教徒の中においても知られていることです。同じ日のウォール・ストリート・ジャーナル新聞は、その地域における銀行家・専門家・企業家など「富裕なイスラム教徒」の意見を特集しました。
彼らはアメリカによる過酷な独裁政権への支援に我々に対して驚愕や怒りをあらわにしました。彼らは「圧制的体制を支える」政策によってワシントンが政治的民主主義の確立と経済の独立した発展へに障害を築いていると抗議しているのです。
しかし彼らの第1の関心事はワシントンの二つの政策です。1つは、イスラエルの厳しく残忍な軍隊によるパレスチナ支配を援助していることです。もう1つは、イラクの市民社会を荒廃させ、何十万という市民を死に導き、逆にサダムフセインを強くしたことです。周知の通り、フセインは最悪な残虐行為の最中でもワシントンとロンドンから強力な支持を受けていました。クルド人やその他の人を有毒ガスで攻撃している最中に、です。
大多数の貧しく苦しんでいる人々の中では、アメリカへの感情はもっともっと厳しいものです。彼らもまた自分の地域の富が西欧に流れていくのを見て喜ぶはずがないのです。小さな西欧志向の特権階級へ、堕落かつ残忍な支配者へ、西欧の大国に後押しされて、富が移動していくのを座視できないのです。
ちょうど2,3日前に再度、ビン・ラディン氏は同趣旨の抗議を出しました。それは、アラブの唯一の独立ラジオ番組における長いインタビューでしたが、BBCによってもう一度放映されました。しかし、彼と彼の仲間は別のゴールを目指しています。
つまり彼らの言葉で言えば,イスラム教の領土から「外国の侵略者たち」を追い払い,真実の「イスラム」体制が、堕落し弾圧的な政治制度に取って代わるのだと。さらにチェチェン,ボスニア,カシミール地方,中国西部,そしてフィリッピン、その他あらゆる場所で彼らの権利のために戦っているイスラム教徒を防衛するのだと。
これらのすべてを,ロシアに対する聖戦の続きとしてみています。彼らはCIAやサウジアラビアや他の国々の支援を受けてロシアと戦い,皮肉なことに、現在はそれらの国をイスラムの敵と見なしているのです。
5−4.Q:我々の理解するところでは、今日、人間の価値は…急速に下がりつつあります。この現象が一定の比率で続いていくとお考えですか?アメリカ政府(と一般的な西欧の用語)は、人間を価値ある「資産」として考えているのでしょうか?
A:残念ながら、あなたの意見にはまたもや同意できません。なぜなら、ヨーロッパ帝国主義の全歴史を振り返ってみても、人間の命の価値は何だったのでしょうか?現在だけでなく、その当時から、無しに等しかったのです。
たとえば、「先住民というあの不運な人種」を征服しながら、アメリカが国境を拡大していたとき、それは、ジョン・クィンシー・アダムズ大統領の言い方では、「あまりに嘘つきで情け容赦のない残酷さを持っているので、我々が根絶しつつある」ということだったのですが、ずっと後になって、彼は後悔するようになりました。ただし、上記の事業に彼自身が本質的に貢献したそのずっと後のことです。しかし、その後悔にもかかわらず、その後もアメリカはさらに不名誉な功績を作り続けてきました。
ベルギーのレオポルド王が1千万人のコンゴ人を殺したとき、人間の生命の価値とは何だったのでしょうか?あるいはドイツの人口の3分の1が17世紀の1回の戦争で殺されたとき、生命の価値とは何だったのでしょうか?最近のいくつかの例については言うまでもないでしょう。実際、私たちは、いくらでも過去にさかのぼって、好きなだけ例をあげることができます。西洋文明の神聖な書、すなわち聖書では、大量虐殺の狂喜が書かれていますが、それをすべての人は知っているし、知るべきでしょう。
5―5.Q:さて次は、マンハッタンのビルとペンタゴンへの襲撃に関して、次の2点をお尋ねします。ひとつめは、アメリカのメディアがこの間、行なってきたこの悲劇に対する報道の仕方をあなたはどのように思うかということです。ふたつめは、私たちメディアの多くが行なった「テロリストは西洋的価値(市民の自由、他者への寛容さ、社会的繁栄など)を憎むがゆえにアメリカを攻撃の対象にした」という説明について、あなたのお考えをお聞きしたいということです。
A:ふたつめの質問に関しては、簡単に片付けることができます。その説明は手前勝手な見方で、ナンセンスとしか言いようがないものです。そういった情報を提供した人も、少なくとも中東問題を含めた現代史をよく調べて見さえすれば、すぐにそのことに気づくはずです。
この見方が自分たちの都合に合わせて作った口実であるのは明白です。それは、中東地域の最も西洋に好意的な人たちからさえも実際に表明されている不平不満の声から注意を逸らせるのに役立つだけです。彼らの不平不満の声は"well-known"「よく知られている」ところです。(この表現は私が前に引用した「ウオール・ストリート・ジャーナル」の記事の中で用いられていたものです。)
メディアの報道姿勢に関しては、犯罪(それが小さなものであるか、恐ろしく凶悪なものであるかを問わず)があった時、その基本にある問題をどのようにメディアが扱ってきたかを問わなくてなりません。誰にその犯罪の責任があるのか。それに対する対応はどうあるべきなのか。その犯罪はどんなことが原因で起こったのか。これらのどの疑問に対しても、これまでは実際に何の議論もされてきませんでした。
アメリカは、アラブ諸国連合、中国、そしてNATOからさえも、信用できる確かな証拠を示すべきだという要請を受けていますが、それを馬鹿げたものとして退けています。またタリバン政権に関しても、彼らに犯罪の責任があるという一層の証拠が必要です。
アメリカは事件に関する報告書を出し、おそらくそれは同盟国には受け入れられるでしょう。もちろんその証拠は説得力があるものとなる見込みはほとんどなでしょう。以前に、これらのテロリスト組織の仕業とされる爆撃があった時に出された証拠のほうが、まだ確実性が高いと思われます。いずれにしても「判断」は「証拠」ではありません。
何をすべきかということに関して言えば、正当な法的手続きについて、メディアでは、ほとんど何も議論されていません。これは、とりわけニカラグアが実行したものです。私たちの政治的指導者が暴力を呼びかける時には、私たちは彼らの勇気と完全さに拍手を送ることだけを求められているのです。
なぜこんなことが起こったかということに関しては、いくつかの記事を載せたウオール・ストリート・ジャーナルのような二三の例外はあるものの、主要なメディアにおいてはほとんど何も報じられてはいません。
5-6.Q: a)最善の、b)最悪の、c)最も起こる確率の高い筋書きとして、どんな展開を考えておられますか。
A:法的にことをすすめるのがまともな対応というものです。前例はニカラグアだけだではありません。忘れないで頂きたいのですが、ニカラグアを苦しめたテロ行為は9月11日のテロ行為よりもはるかに破壊的だったのです。別の例をあげましょう。
イギリスはロンドンに仕掛けられたIRAの爆弾をどう扱えばよかったのでしょうか?英国空軍を送り込んで、たとえば私の住んでいるボストンなど、資金源のある町を爆撃させるという選択肢もあったのです。まあ、実現するかどうかはともかく、もし実行していれば、これは愚の骨頂たる犯罪行為でした。
他に、犯罪は犯罪として法的手続きをすすめるのと同時に、事件の背景にはどんな懸念や不満があったのか現実にもとづいて考察し改善をこころみる、という方法もあるのです。オクラホマシティーの連邦ビル爆破事件を考えてごらんなさい。中東を爆撃せよとの声がすぐに挙がり、もしわずかでも中東との関連を示唆する証拠が見つかっていたら、爆撃は実行されていたことでしょう。
実行犯が民間の極右武装団体ミリシャとつながりのある者だと判明しましたが、テキサス、モンタナ、アイダホなどのミリシャの拠点を抹殺せよとの声は挙がりませんでした。それどころか、実行犯が見つかり、法廷に引き出され、判決が言い渡されると、賢明にも、こうした犯罪の背景にある不満を理解し、問題を直視しようと努力がなされたのです。
通りすがりのひったくりであれ、大規模な残虐行為であれ、どんな犯罪にも理由があり、よくあることですが、中には重大で、きちんと取り組むべき問題もあるのです。我々がもし権利と正義を意識し、同じような残虐行為の増加ではなく減少を望むのであれば、少なくともこうした方向でことをすすめるべきです。この方針は広く通用するものですし、特に今回の場合は有効です。
最悪の展開は、大規模な襲撃を実行し、タリバンではなく、タリバンの犠牲者であるアフガニスタンの罪もない人々を殺す、というものです。犯罪そのものは別として、そんなやり方はビン・ラディンの祈りを叶えることになってしまいます。
このことは、諸外国のリーダーや中東の専門家、おそらくアメリカの情報機関も、アメリカ政府に「そんなことをしたら、多くの怒れる捨て身の人々が、ビン・ラディンの恐るべき呼び掛けのもとに結集し、暴力の循環を拡大し、壊滅的な結果を招くことになる」と忠告しています。たとえビン・ラディンが殺されても、そうした攻撃は彼を殉教者に仕立てあげ、すでに何千ものカセットテープを通して流布している彼の声が、アラブ世界にあまねく響き渡ることになるでしょう。
5―7.Q:歴史上で最もひどいテロリストの行動は何だと信じますか。
A:それに答えるのは不可能です。それはどの犯罪を“テロリズム”と呼ぶか、どの時間の尺度を使うかにかかっています。
5―8.Q:何がテロリストたちにそのような罪を犯させる動機だったと思いますか?その「敵」はマンハッタンの世界貿易センターか、ペンダゴンか,あるいは他の場所にいたのでしょうか?本当の敵はどこにいたのですか、真の敵は誰なのでしょうか。?
A: 私が今までに述べたように,我々は彼の言葉を、そのとおりに受け取るべきあらゆる理由があります。彼らの言葉は、彼らの行為と同じように明瞭です。この20年間、CIAやエジプト,サウジアラビア,パキスタンや他の国々によって組織されたイスラム過激派武装勢力は、自分たちを作り上げた当事者、つまりエジプトのサダト大統領を暗殺することによって彼らの最初の攻撃を遂行したのです。サダト大統領がイスラム過激派武装勢力も最も熱烈な組織者の一人だったのに、です。
5−9.Q:あの事件は誰がやったとお考えですか。犯人はオサマ・ビン・ラディンですか。
A:私が想像するに、犯人はテロリストの複数のネットワークで、それは遠くでビン・ラディンと繋がっているでしょう。しかし、ビン・ラディンが直接に関わっているという確たる証拠はありません。
私が想像するに、そのネットワークのどこかでアメリカの情報機関もからんでいるでしょう。というのは、アメリカの情報機関はこれらのネットワークを細大漏らさず監視し、彼らの動きを身近なものとして十分に知っているからです。何しろ、アフガニスタンでアメリカが始めた作戦で、そのネットワークを造り出したのがアメリカの情報機関なのですから。
これらのネットワークは中心がなく、形のうえで階層構造を成していませんから、その実態を突き止めることは至難の業です。だからこそ、あのような衝撃的な殺戮行為が可能になったのですし、世界の情報機構がそれを察知できなかった理由でもあります。
5―10.Q:この事件によってアメリカ政府の諸政策(内政や外交の分野で)は変わってくると思いますか。
A:それは我々が今後どのような行動をとるかにかかっていることであって、こうなるだろうと傍観的に予測するものではない。ギリシャを含めて、世界各地で何が起きるかが、アメリカ政府の政策変更に相当の影響を与えることが出来るでしょう。
5-11.Q:今回のテロ攻撃によって引き起こされる結果として、どんな事態を最も懸念しておられますか。
A:最も心配しているのは、先に申し上げた「最悪のシナリオ」ですね。それは決して避けられないものではありません。残念ながら、最悪のシナリオになる可能性も、かなりありますが。
5―12.Q:あなたは「2001年9月11日に世界が変わった」という意見に同意しますか。
A:間違いなく変わりました。
近代ヨーロッパとその北アメリカへの移民者たちが作ってきた歴史は、他者に対して犯してきたおぞましい犯罪の歴史のひとつだとも言えます。南北戦争やヨーロッパの戦争で見られたような相互の殺戮の歴史です。しかし、今回の事件は銃がはじめて反対の方向に向けられました。少なくとも重要な尺度において。
今までは、コンゴはベルギーを、インドはイギリスを、アルジェリアはフランスを、メキシコとフィリピンはアメリカを攻撃しなかった。つまり今までは旧植民地が旧宗主国本国を攻撃するということはなかったのです。確かに9月11日の悲劇は特異なものでした。しかし、それは遺憾ながら、規模という点にあるのではなく標的が変わったという点にあるのです。
5−13.Q:標的は将来、どちらの方向に向けられると思いますか。それは(ギリシャのような)諸国とバルカン諸国でしょうか?我々が新聞で何度も読むのは、ビン・ラディン氏がKLAやアルバニア系少数民族ゲリラと多くの関係を持っているということです。ギリシャ(その延長として、2004年のオリンピック)はテロリストの攻撃やゲリラ戦術の危機に晒されているとお考えですか?あるいは、その結果としてギリシャ政府がオリンピックを延期したり中止したりするような事態に追い込まれるとお考えですか?
A:それは予測不可能ですが、アメリカとその同盟国が現在の方針を続行するならば、そのような事態になる可能性があります。もし彼らがビン・ラディン氏の願望に答え、罠に嵌まって報復するなら、そのときは更なる残虐行為の可能性は増加するでしょう。
5−14.Q:イスラム教は西洋文明にとって危険なのでしょうか、あるいは西洋的生活様式は人類にとって脅威を含んでいるのでしょうか?
A:その質問は私がお答えするにはあまりにも広くて漠然としています。しかしながら、アメリカがイスラム教を敵とみなしてはいません。それどころか逆です。これは明瞭なはずです。
なぜなら、世界の最も人口の多いイスラム教国、インドネシアは、1965年に軍が政権を握って以来アメリカの友好国になってきたからです。そしてCIAですら、ヒトラー、スターリン、毛沢東の犯罪に匹敵すると述べた虐殺を組織化してきました。そして西洋社会に無上の幸福感を引き出したのです。ところが、その西洋社会はその大量虐殺の責任者を支援しつづけ、その結果、先の20世紀で最も恐ろしい人間の記録のひとつを作り上げたのです。
もうひとつの例を挙げます。最も極端なイスラム原理主義国家は、タリバンから生まれた国家を別にすれば、それはサウジアラビアであり、その建国以来ずっとアメリカのお得意客です。また、バルカン諸国においても、ここでは理由をゆっくり説明するゆとりがありませんが、アメリカはイスラム教国を支援することを選びました。キリスト教に反対しているのに。
1980年代において、アメリカの中米におけるテロリスト的戦争の第一のターゲットはカトリック教会でした。そして、数十万人の死体を放置し、4つの国を破壊したのです。カトリック教会を攻撃したのは、「貧しい者のことを優先的に考慮する」という嘆かわしい罪を犯した、という理由でした。
「西洋的生活様式」は多種多様な要素を含んでいますが、多くは非常に立派なものも多いし、またイスラム教世界で熱狂的に採用されたものも多くあります。他方、犯罪的なものも多く、人間の生存にとって脅威となるものすら少なくありませんでした。
インタビュアーの最後のコメント:「西洋文明」に関して言えば、ガンジーが言ったとされる、次のことばに注意を向けるのがよいでしょう。「西洋文明」について、どうお考えですかと尋ねられたとき、彼は「それは良い思想のひとつかもしれないね」と言ったそうです。
(翻訳分担者:寺島隆吉+冠木友紀子、北村しおり、喜多直江、新見明、山田昇司、寺島美紀子)
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