Noam
Chomsky
DRCNet Interview:
Feb.8,
2002
MIT(マサチューセッツ工科大学)の教授であるノーム・チョムスキー氏はこの間ずっと、米国の外交政策や国内の不公正だけでなく高度に集中化されたマスメディアに対する我が国でもっとも容赦のない批評家の一人であり続けてきた。
ニューヨーク・ブックレビューから「米国の第一級急進的知識人」と賞賛されたチョムスキー氏には、中東・ラテンアメリカ・前ユーゴスラビア・東チモール等における米国政策に関しての何十冊もの著作があるだけでなく、宣伝煽動団体と化したメディア企業を酷評した『捏造された同意の形成』という著作もある。
誇り高き無政府主義者であるチョムスキー氏は、教壇に立てば常に数千人の学生がつめかける米国の伝説的な政治的異議申し立て人である。
彼によれば無政府主義とは「人類の思想や行動の中で、あらゆる威圧的で権威主義的で階層的な構造を探し、その正当性に意義を唱え、それが正当化されえないことを見出した場合には(それは極めてよくあることだが)それを無力化し自由の余地を広げようとする考え方」である。
『ウィーク・オンライン』はこのすぐれた言語学者&文筆家と彼のMITのオフィスで話をする機会を得た。
ウィーク・オンライン:
日曜日のスーパーボールにおいて麻薬取締局はお金を払って一連の広告を行い、麻薬の使用と「テロリズムにおける戦争」を結び付けようとしています。広告によれば、もし麻薬を使用すれば、テロリズムを支援することになるそうです。これをどう思われますか。
チョムスキー氏:
「テロリズム」は現在、またこれまでも、「共産主義」と同じように使われています。つまり、どこかに圧力をかけたいと思えば、「テロリズム」というカードを使えばよいのです。「もしこの点で私に同意できないとすれば、あなたはテロリズムを支援していることになる」というわけです。
それはだれが考えても幼児的な行動です。とりわけアメリカにおける麻薬売買の歴史の大半は、CIAや米国による他の他国干渉政策と手をつないで歩いてきたことを考えれば、麻薬の使用と「テロリズムにおける戦争」を結び付けようとする試みは、子供だましとすらいえます。
第二次世界大戦末期にさかのぼれば、米国自身がフランス・マフィアと手を組み、1960年代のヘロインの売買を独占し、結果としてフレンチ・コネクションとなりました。これは推測ではなく、十分な証拠もあるのです。
ベトナム戦争時にもゴールデン・トライアングル地域においてアヘンで同じことが行われたし、アフガニスタン紛争時にもロシアと戦うために同じことが行なわれました。
ウィーク・オンライン:
米国がコロンビアの内乱に介入したのは、コカインの売買がその主要な介入理由でした。あなたの意見では、麻薬という観点がどの程度まで介入の口実になっていると思われますか。また、何に対しての口実なのでしょう。
チョムスキー氏:
コロンビアは、この10年間の人権侵害に対する記録の中でも西半球における最悪の国です。その一方で、西半球の中ではアメリカの武器やその訓練を先頭になって受け入れてきた国でもあります。そして今では世界中でイスラエルやエジプトに次ぐアメリカからの武器と訓練の受入国になっています。
人権蹂躙と米国からの武器援助・訓練との間には、長い期間にわたって当てはまる、極めて緊密な相関関係があります。それは米国が人々を拷問することが好きだからではありません。そうではなくて、他国の民衆が拷問で苦しんでいても、それには基本的に無関心だということなのです。米国政府にとって人権蹂躙は最優先事項ではないのです。
他の国と同様、コロンビアにおいても、国が、政治的に出口のない「不平等、抑圧、汚職や他の犯罪」に対する反対運動を武力で押さえようとすればするほど、人権蹂躙は強まる傾向にあります。コロンビア国家は権力を維持するためテロに頼っています。それはこの間ずっと続いてきていることで、コロンビア産の麻薬売買が始まるずっと前からそうなっているのです。
アメリカのいわゆる「対ゲリラ作戦活動」は、40年にわたって行なわれており、1960年代初めにはケネディ大統領が特殊部隊をコロンビアに送り込んでいます。特殊部隊のコロンビア政府に対する提案が情報公開で、最近、明らかになりましたが、それは「共産主義」の著名な支持者に対しては「準軍事的テロ行為」を行使するよう要求するものでした。(この「準軍事的テロ行為」という用語は私のものではなく情報公開で明らかにされた機密文書における用語です。)
コロンビアにおいて共産主義の支持者とは労働運動の指導者、牧師、人権運動家を意味しています。そして1960年代のコロンビア軍の手引書は、アメリカの特殊部隊による上記のアドバイスを反映し始めました。こうして、この15年間で米国がより深く介入するようになったため、人権蹂躙はさらに増えているのです。
さらに重要な点は、その麻薬の口実が正当なものだとしたらどうかということです。米国が本当にコロンビアの麻薬を排除しようとしているとしたらどうかという点です。その際、コロンビアはケンタッキー州にある農園を燻蒸消毒したり破壊したりする権利を有するでしょうか。
なぜなら、そこではコカインよりはるかに危険で死をもたらす物質が栽培されているのですから。コカインが原因で死ぬアメリカ人より、多くのコロンビア人がたばこに関する病気で死んでいるのですから。
しかし、もちろん、コロンビアにそのような権利はありません。だとしたら、アメリカもコロンビアの麻薬について干渉したり介入したりする権利はないはずです。
ウィーク・オンライン:
国内に関して言うと、州や地方や連邦の政府は「麻薬戦争」に何百億ドルも注ぎ込んでいますが、不法麻薬は、純度の高いものが、かつてなく簡単に安い値段で手に入ります。この政策が、そのかかげた目標を達成していないとすれば、何を達成しているのでしょう。何らかの隠された役割を果たしているのでしょうか。
チョムスキー氏:
彼らは当初から麻薬がなくならないことを知っています。彼らは独自に調査研究をして、そのことの十分な証拠も持っています。その研究は薬物乱用に対処したいのであれば罰則は最も悪い方法だということを示しています。
RAND報告書は種々の麻薬対策の「費用対効果分析」(cost-effectiveness analysis)を行い、飛び抜けて効果の高い対策は「予防と治療」であることを見出しました。警察による活動はがそれに続きますが、効果的にははるかに劣ります。具体的には警察による「禁止」です。
費用対効果という点から考えると、米国がコロンビアで行っているような「国外での取り組み」は最も効果が薄いものです。ニクソン大統領は、それとは対照的に、効果のある「予防と治療」のための意味のある取り組みをしました。
米国の国内麻薬政策はその掲げた目標を達成していず、政策立案者はそのことをよく認識しています。その目的が薬物乱用を減らすことでないとしたら、何のためなんでしょう。
現在の行動と歴史的記録の両方から明らかなことは、これらの物質はいわゆる危険な階級と結びついたとき非難の矢面に立たされる傾向があり、ある物質の所持を有罪化することは社会を統制する常套手段であるということです。
過去20年間の経済政策は裕福な人々のための構造調整でした。その結果、不必要な人口(米国においてはその大部分が貧しい黒人かイスパニア系のひとたちですが)を生み出し、さらに多くの経済的に不満を唱える人々を生み出しました。
新聞ではアメリカ経済が繁栄しているとの数々の見出しを目にするでしょうが、実情は全く違うのです。大多数の人々にとって、これら現代自由主義政策には否定的な面が多いのです。賃金に関して言うと、やっと30年前の賃金レベルに到達したところです。
収入は、より長く、より一生懸命働くか、夫婦揃って働くことによってしか維持できません。経済成長率でさえ、それほど高くはなく、その成長でさえ、ある階級の人しか享受していません。
もしほとんどの人々が不満を持っており、他の人々が役に立たないとすれば、きっと役に立たない人々を排除し、不満を持っている人を怯えさせたいと思うでしょう。麻薬戦争がこの役割を果たすのです。
米国の投獄率は劇的に増えてきており、その大部分が薬物違反のような被害者なき犯罪なのです。そしてこの違反に対する刑は極めて重いのです。麻薬戦争は役に立たない人々を排除するのみならず、他の全ての人々を怯えさせるのです。
麻薬は共産主義やテロリズムに似た働きをし、人々は脅威から守ってもらおうとして権威の傘の下に密集するのです。これらの成りゆきが理解されないとはとても信じられません。誰がみてもそのような成りゆきになるのですから。
さかのぼって現在の麻薬戦争が始まったころ、モイニハン上院議員は社会科学に注目し、「この法律を通過させれば、民族的少数派のひとたちに犯罪の嵐を産み出すだろう」といっています。
高等教育を受けた人々の間では、90年代にあらゆる薬物乱用が減ってきています。それはコカインにしても喫煙にしても赤肉を食べることにしてもそうです。
この時代に文化および教育の変化が起き、高等教育を受けた人々はあらゆる有害な物質の消費を減らしたのです。一方、貧困な階級の人々は相変わらず有害な物質を消費しているのです。
この消費の変化の違いを見ると、何が起こるか想像できます。貧困な階級の人々を対象とするのです。法律関係の歴史家の中には、貧困で教育をそれほど受けていない人々が喫煙しているので煙草は近い将来に違法物質になるだろうと予言している人もいます。
マクドナルドに行っても、喫煙している子供を見ることはあっても、大学院生が喫煙しているのは何年も見たことがありません。たばこに関して過酷な対応が始まろうとしています。
もちろん、企業は何年も前からこれを予測しています。フィリップ・モリス社や他のたばこ関係会社は他の職業に手を広げていますし、外国にその拠点を移しつつあります。
ウィーク・オンライン:
多くの熱心な改革支援者は自称「自由主義者」です。無政府主義者−あなたをそう呼んで差し支えないと思いますが−として自由主義をどう思われますか。
チョムスキー氏:
現在米国で使われている自由主義者という語は歴史的に意味したものや他の国で現在意味するものとは全く異なります。歴史的には、自由主義運動とは社会運動の中で反国家統制主義者のことを指していました。社会主義的無政府主義者は自由主義的社会主義者だったのです。
ビジネスが社会を支配する米国において、その語は異なる意味を持ちます。それは国家統制を排除したり減らしたりすることを目指しています。それも主に「国家が私企業の暴虐を統制していたこと」を排除したり減らしたりすることを目指しています。言ってみれば、超保守主義なのです。
以上の点を確認した上で、私は率直に言って、彼らに同意できる点もすくなくないのです。たとえば麻薬の問題に関して言えば、彼らは麻薬戦争に国家が関与することに反対する傾向にあり、問題を自由に対する一種の弾圧、はく奪と見なしているのです。
驚かれるかもしれませんが、独立した左派系の雑誌がなかった数年前まで、私はよくCATO 研究所の機関誌に記事を書いていたのです。
ウィーク・オンライン:
麻薬使用およびその販売に関してどうすればいいと思われますか。
チョムスキー氏:
RAND報告書に賛成です。麻薬は問題ですし、コカインは体に有害です。薬物乱用に取り組もうと思ったら、その取り組みは教育、予防、リハビリなどになるべきです。それが他の薬物に取り組んで成功した方法です。
喫煙を減らすためにそれを違法化する必要はありませんでした。それは文化および教育の変化の結果なのです。社会政策を推進するにあたって、どういう結果になるか分からないので常に注意を怠らないことです。が、解禁に向けて一歩一歩進んでいかなければならないのです。
この問題に真剣に取り組み、どうなるのかを見てみましょう。一番に手をつけなければならないのは、明らかにマリファナです。マリファナを解禁するのは極めて賢明な動きでしょう。
そして懲罰から予防に政策を転換していくのです。予防(すなわち教育)と治療(すなわちリハビリ)こそがコカインやヘロインのような強力な麻薬に対処していく方法なのです。
(翻訳:久保田勇人+寺島隆吉)