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開 戦 前 夜 On the Verge of War
NTV(24時間トルコテレビ局)のための鼎談インタビュー、2002年12月19日
参加者:ノーム・チョムスキー Noam Chomsky、タリク・アリ Tariq Ali、ジルベール・アシュカール Gilbert
Achcar、
司会者:アイスィン・エリスィン Isin ELICIN、
(翻訳:寺島隆吉+寺島美紀子)翻訳公開:2003年3月6日
Keywords:
トルコのEU加盟問題、トルコがイラク戦争に賛成する理由、ドイツがイラク戦争に反対する理由、フランスがイラク戦争に反対する理由、「トロイの木馬」としてのトルコと東欧、世界経済フォーラム」(ダボス会議)、世界社会フォーラム(ブラジル・ポルトアレグレ会議)、イマニュエル・ウォーラーステインの資本主義危機論、アメリカ「没落論」と「帝国」としての米国、民衆の闘いに展望はあるか
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<訳註>
ノーム・チョムスキー (Noam Chomsky):アメリカ、MIT(マサチューセッツ工科大学)教授。生成文法の創始者として世界的に知られる言語学者だが、米国の対外政策に対する鋭い批判者としても著名。
タリク・アリ(Tarik Ali):ロンドンをベースに活躍しているパキスタン人小説家、映画製作者。彼の新著『原理主義の衝突』は、最近の世界的事件にユニークな光を投げかけている。
ジルベール・アシュカール(Gilbert Achcar):既にフランス語、英語、ドイツ語、トルコ語、韓国語で発刊が予定されている『野蛮の衝突:911と新世界無秩序の構築』の著者。1983年にフランスに移住する前はレバノンに住み、現在はパリ第8大学で政治と国際関係を教えている。
司会:
トルコの最近の問題から話を始めたいのですが。EUは、トルコの早期加入問題に対する米国の圧力を拒絶しました。この例から話しを始めることにしますと、EUと米国間に、亀裂あるいは多分むしろ競争がある点について、詳しく述べていただけるでしょうか。
タリク・アリ:
そうですね、米国とEUとの亀裂は今のところありません。亀裂はEU全体としてではありません。EU内の主要諸国のいくつかなのです。それらの国が戦争に非常に神経質になっています。それらの国は戦争が大きな危険だと考え、国民の大部分が戦争反対だということを知っています。
ご存じのように、ドイツでは国民の70パーセントが対イラク戦争に反対していますし、イタリアでは50パーセント以上、英国でも50パーセント以上です。反戦史上、こんなことは未だかつて起こったことがありません。人々は第1次イラク戦争に非常に敵意をもっているのです。
そんなときに米国がやってきて、トルコが戦争参加に同意してくれればお礼をしたいと言うのです。「お安いご用で、我々米国がトルコをEUメンバーに入れてやろう」と言って。そうすればヨーロッパはこの事態を部分的には利用するかもしれませんが、ヨーロッパはトルコなど全然必要としていないのです。しかし彼らはその時はこの事態を…(聞きとり不能)として利用するかもしれません。
米国は「ちょっと待て。それはあとで議論するから」と言って、我々がどの段階にどの国を入れるべきかなど、我々に告げるつもりなどないのです。後になって、我々はそれについて考えることが出来るだけなのです。そしてトルコのエリートが確信したのは、もしイラク戦争を支持したなら、EUメンバーへの出世街道に乗ることになるだろうということでした。しかしそれは、事実とは違って、彼らはそれ以上のことをしなければならなくなるのです。
司会:
もし我々が非常に広い意味で、EUと米国、二者間の亀裂について話すことが出来るとすれば、ヨーロッパは一体何をしようとしているのでしょうか。すなわち、一方で、民主主義や平和等のような概念に基づいた価値観をヨーロッパはもっています。しかし他方、EUはかつて従っていたものとは異なった道を選択し始めているように我々は理解しています。それは何なのでしょうか。
ジルベール・アシュカール:
そうですね、率直に言いますと、米国と欧州連合との間に、何か基礎的な亀裂があるとは思いません。基本的にEUは米国の方へなびく弱き地位を受け入れています。米国は第二次世界大戦以来、一貫した立場を取り続けてきましたし、今も実際にそれを続けています。我々は例えば、NATO同盟が冷戦終結後も維持されただけでなく拡張されさえしたという事実を成し遂げています。そして今に至っているのです。
NATOは一種の直系の道具であり、米国が介入する際には、それを予備軍として使うつもりなのです。最近の、いわば、ドイツ政府とフランス政府によって表明された意見の相違については、そうですね、ドイツの意見の相違は、タリク・アリさんが先程述べたことと一致していました。つまり、その角度から言えば、世界でもっとも平和主義的な国民であるドイツ国民による圧倒的な反対ということなのです。しかし、それは純粋に日和見主義的で、選挙理由にとってのものでした。そして、第一に、シュレーダーの戦争反対論は再選後あまり聞かれなくなったので、その方向性を考えるのは大いに議論のあるところです。第二に、ドイツは今回の来るべきイラク戦争の一部になるつもりであるということです。少なくともNATOの下部組織の一部となることによって。そして米国はそれを戦争のために使うのです。
フランスについて言えば、ここで再び(ドイツと同じように)ジャック・シラクとジョージ・W・ブッシュとの間では、それは哲学的な意見の相違の問題ではありません。それは利害の問題です。ちょうどフランス政府は現在のイラク政府と非常に重要な契約を締結していますし、イラクでの政権交代を必要とはしていません。彼らが望むのは、国連のプロセスを経て持ち上がってくる禁止ではありますが、同じ政権を維持することを望んでいるのです。なぜなら、フランスはこの政権と非常に利益の上がる契約を交わしているからなのです。これで、フランスの戦争への懸念を説明できます。
我々が今、見ているのは、1990年から91年と同じように、彼らが圧力を受けて位置を変え始めていることなのです。なぜなら米国は「我々は戦争へ突入する。もしおまえ達もケーキを切り分けて欲しいのなら、われわれと手を結んだほうが良いぞ」と言っているのです。
ノーム・チョムスキー:
もし我々が短期的観点という立場を取るのなら今のご意見に賛同したいと思います。しかし長期的に見れば、そして実際にはかなり過去にさかのぼってみると、米国とヨーロッパ間には潜在的な亀裂があるのです。
ヨーロッパが世界の諸問題で、もっと独立した進路へと動くのかどうかという疑問が常にありました。米国は常にこの点を気に懸けていました。それは1940年代にさかのぼります。そして事実、ヨーロッパは対立的傾向をもってきましたが、「米国の血管となる」という傾向が実際には勝利しました。が、必ずしも永久的なものではありません。ヨーロッパは異なった利害をもっていますから。
潜在的にヨーロッパは世界の諸問題において米国と同程度に力があり、経済も同程度であり、社会は多くの点でより発展していますし、教育程度の高い社会です。つまり、軍備を除けば、ヨーロッパは米国と同じような力であり、軍備は何が何でも唯一のものというわけではないのです。ヨーロッパは独立的方向に進むことが出来たはずなのです。アジアがそう出来たように。ちょうど日本中心のアジアが出来たように。
米国はいずれのケースも望みません。そしてそれを妨げようと定期的に介入するのです。米国がトルコをEUに参加させようと支持するのも、そんな理由からなのです。その一部は正確にあなたが言われたとおりです。彼らが望んでいるのは、戦争でそれを清算することなのです。
しかしもっと深い理由もあるのです。彼らは、トルコが米国のために「トロイの馬」になって、欧州連合内での米国の利益を支持することを期待しているのです。実際、米国は東欧諸国の加盟を、本質的に同じ理由で強く支持したのです。彼らが望んでいるのは、潜在的に独立した方向に行動したいとするフランスとドイツの利害のバランスを何とか取るということなのです。それが問題だと私は考えます。心の底では長期的に自分だけで行動するつもりなのです。
そしてトルコにとっては、トルコが欧州連合にそうした条件で加盟するということは、トルコにとっては大災害になると私は考えます。もしトルコが欧州連合に加盟するなら、トルコ自身の利害、もっと広範な利害を追求すべきであって、米国の代理店として働くべきではないのです。
司会:
アーカーさん、あなたの御著書『野蛮の衝突』に取り上げられているエッセイでは、欧州連合は、9月11日の犠牲者に対する全ヨーロッパ的な哀悼デーを布告したけれど、しかしヨーロッパ人は、例えばセレブレニッツァで虐殺された人々のために、1分間の沈黙をまだ行ったことはないのだということを、あなたは正確に指摘されています。この点について少し詳しく話していただけないでしょうか。
G・アーカー:
そうですね、私はこの例をヨーロッパの地における一例として述べました。それは欧州が米国の「血管」であることの一実例です。これが、私が「自己陶酔的同情」と呼ぶものなのです。ご存じのように、犠牲者が、西側ヨーロッパ人にとって自己同一化しやすい人々であった時には、周辺には感情が盛り上がるというのが事実なのです。
暗黒アフリカだけで、毎日のエイズ死者の数が9月11日の2倍以上だ、という事実をちょっと考えてみてください。様々な類の問題や病気の中で、その問題を挙げるだけでよいのです。西側世界は一切気に懸けていません。
9月11日へのこのような反応に対して、深く恥ずべきことだと私が言ったことが、いくつかあります。そして攻撃の1周年記念日に再びそれを見ました。私はフランスから来ましたが、フランスでは9月11日についてどこのメディアがもっと多くのことをやるのかと、あらゆる種類のメディア間で激烈な競争がありました。24時間、メディアは丸1日、911事件で持ちきりでした。
司会:
過去の歴史ではこれほどの戦争反対を見たことがないと、チョムスキーさんはおっしゃいました。だとすれば、それはどうしてなのでしょうか、すなわち、人々がイラク人か何かに、より親近感を抱き始めているということなのでしょうか。なぜ、我々はいま、このような反対運動を見るのでしょうか。
ノーム・チョムスキー:
米国についてお話しましょう。米国ではここ40年間、侵略と残虐行為に強く反対する人が増加してきました。そして政府もそれを知っています。
どんな新政府も世界状況の情報分析を行いますが、それは通常は、40年後になって、それが機密リストから除かれてから人は知るというものなのです。
第1次ブッシュ政権が1989年に就任した時、その機密情報がリークされたのです。その断片が再びリークされて、面白かったのですが、ペンタゴンの中にはその機密情報を快く思わない人がいたのです。
彼らは、あるセクションをリークしましたが、そこには大略、次のようなことが言われていました。つまり、非常に弱い敵(これは米国が戦うあらゆる相手を意味するのですが)と対決する場合には、我々は彼らを決定的にそして即座に打ち負かさなければならない。さもなければ政治的支持は浸食されるだろう、と言っているのです。その理由は、侵略や虐殺にはもはやどんな支持もないからです。
ケネディが40年前に南ベトナムを爆撃し始め、何百万人ものベトナム人を戦略強制収容村に追い込み、枯れ葉剤による化学兵器戦争を始めた時には、どんな抗議も起こりませんでした。米国でもゼロ、ヨーロッパでもゼロでした。そうなのです。それが、西側が黒人(異人種)に対して行動するやり方なのです。それが…(聞きとれない)誰が気にするでしょうか。
しかしここ何年かで変化がありました。国々は非常に文明化しました。人々は侵略や残虐行為を受け入れなくなりました。そして、干渉・介入をしようとする場合はすべて、つぎのようなモデルに従わなければならなくなったのです。すなわち、、まず、人々を恐怖させるために巨大な敵というイメージを作り上げなければならないのです。その後で、迅速にその竜を殺し、戦いを長引かせてはいけないのです。そしてその後、人々はそれを忘れるのです。
だからアフガニスタンで何が起こったばかりのことを人々は忘れるでしょう。そして現状がどうなっているのか、どういう様相を呈しているのかには注意を払わないでしょう。そしてその後、また次の戦いに勝利するのです。それが、現在の戦争を戦う唯一の方法であり、彼らはそれをよく知っています。
司会:
いわゆる「対テロ戦争」の特徴を示していただけないでしょうか。短い説明でもけっこうですが、それが何なのかを。
T・アリ:
それは今やジョークjokeになっています。対テロ戦争はブッシュ政権によって考案され、何処でも彼らが望む場所で戦争を行うのを可能にしました。そして彼らの同盟国が彼らに抵抗する人々を押しつぶすことをも可能にしました。
そこで、アリエル・シャロンは対テロ戦争の一部になって、パレスチナ人を押しつぶしているのです。モスクワのプーチン大佐は西側の貴重な同盟国になって、誰も考えることが出来なかったほど多くのチェチェン人を殺しています。2万人の人々がチェチェンで死に、そしてグローズヌイの町は地上から消し去られました。病院やそうい学校は、ミロショビッチがコソボに対して行った以上に多く破壊されました。
だから、対テロ戦争に付随するこれらのダブルスタンダードが、今では、チョムスキーさんが言った通り、人々がこれらの嘘にはうんざりしているひとつの理由なのです。人々はもはや嘘を信じません。そういうわけで、戦争が始まる前ですら、反対が起こるのです。なぜなら人々は戦争の基礎的前提に挑戦しているからなのです。西側がこの戦争をする理由が、完璧に全く嘘だということを人々は知っているからです。人々はそれを見抜き始めたのです。そして嘘を信じないのです。
それを知っているのです。人々はそれが石油だと知っているのです。中東地域を再植民地化したいと望んでいるのを知っているのです。そこで、戦争が大量破壊兵器のせいだとは信じないのです。
なぜなら、ご存じのように、政府はヨーロッパ市民と北アメリカ市民を子供のようなものだと考えています。スプーンを持ってきて、嘘を食べさせようと口まで運べば、人々がそれを受け入れる、と考えているのです。しかし人々は抵抗し始めています。なぜなら、ご存じのように、冷戦が終結して以来、今日、われわれは3つも戦争を経験しているからです。
そしてイラクへの今回の戦争は、中東でイラクが何を行っているとしても、少々予測不可能です。ご存じのように、それは大混乱を起こします。しかし一つだけ確実なことは、それによってヨーロッパに反対運動が起きることでしょう。そしてヨーロッパ諸国の世論を反映しない政治家をあなたが持っている時には、どのような大惨事も可能となります。
ノーム・チョムスキー:
ひとつだけ付け加えたいことがあります。これらの人々は9月11日に対テロ戦争を宣言したのではないのです。彼らは既に20年も前にそれを宣言していたのです。今ワシントンを運営しているその同じ人々が当時のレーガン政権に入っていたのです。
彼らの最初の行動は、対テロ戦争を宣言することだったのです。彼らは、「対テロ戦争は、主として中米と中東において米国外交政策の焦点になるだろう」と言いました。彼らの全てが今やオフィスにふんぞり返っているのです。
現在と同じレトリックを使って、すなわち「下劣な文明の敵によってまき散らされた疫病」「野蛮への回帰」に対する戦争というレトリックを使って、彼らは1980年代の対テロ戦争という戦いを彼らは進めたのです。
彼らは中米に2百万人の死体を残してきました。彼らは中東に荒廃と大災害の痕跡を残してきました。南アフリカでは、彼らの同盟国南アフリカとその周辺国での戦争を支援し、さらに150万人の人々を殺しました。
それが対テロ戦争だったのです。それは世界中での「殺人の介入」のほほかむりでした。同じ人物達が、同じ「対テロ戦争」を叫んでいるのです、もちろん同じことをするつもりで。
司会:それは何処で止まるのでしょうか。つまり米国のこの類の姿勢のことです。アリさん、あなたはかって言いました。例えば米国の行為は帝国主義だが、アメリカはこの名前を好んでいないと。しかし今では公然と「俺はこれをしたい。だから、それを行うのだ」と言っています。その目的は何なのですか。
T・アリ:
そうですね、「米国が世界唯一の帝国である」と言うことが目的ではないのです。私が思うに、たったひとつだけしか帝国がないという状況は、世界史上、初めてのことです。他には帝国はありません。そして、今や彼らは、この(帝国が1国だけという状況の)必要性を主張することができ、ブッシュ周辺の人々は自らをローマ帝国と比較することができる、と考えているのです。
しかし実際には、彼らの地位はローマ帝国の地位よりもさらにもっと強力です。彼らは今言います。「我々は帝国である。何故そのように行動してはいけないのだ。我々がやろうとしていることを、もし受け入れない国があれば、我々はぶちのめしてやる」と。
つまり、カリフォルニアのバンパーステッカーのことなのですが、共和党のバンパーステッカーには、こう書いてあります。「奴をぶちのめせ、そして石油を手に入れろ」と。バンパーステッカーの文字は、実際に非常に簡単明瞭であり、非常に正直に示しているのは、戦争が何のためなのかということなのです。
それはエネルギーに関するものであり石油に関するものなのです。しかし米国は、今や誰も挑戦不可能な国だと自分を思っているのです。
司会:
例えばイマニュエル・ウォーラーステイン[イエール大学名誉教授、『週刊金曜日』にも論説を載せている]は言っています。「アメリカ帝国は没落しつつある。すなわち、それは正に、あるいはより正確に言えば終焉である。これが初めてで、かつ真の資本主義の危機である。」と。あなたはこの見解に同意されますか。
T・アリ:
希望的観測ですね。
ノーム・チョムスキー:
資本主義には常に危機がつきまとっています。常に危機状態です。つまり現在は非常に重大な危機があるということなのです。
それらの危機が克服可能なのか、あるいは補正可能なのか、どちらにしても絶対的に予測不可能なのです。実際、未来を決めるの主要な要因は民衆が何をするかということになるでしょうが、それは予測不可能なのです。
40年前、反戦運動が発展するとは予測出来ませんでした。それは想像不可能だったのです。女性解放運動が発展するとは確かに予測出来ませんでした。また環境保護運動が発展するとは予測出来ませんでした。つまり、このどれもが予測出来なかったのです。
現代のグローバルな正義の運動、反グローバリゼーションと呼ばれるものですが、誰がそれを予測出来たでしょうか。世界史上そのようなものは何ひとつありませんでした。それは大きくて強力な国際的運動であり、主要な影響力をもつでしょう。そして権力の座にある人々は権力の掌握が脆いものだと知っています。
そこで、例えば「世界経済フォーラム」(スイス、ダボス会議)は、「世界社会フォーラム」(ブラジル、ポルトアレグレ会議)を大変気にかけています。彼ら(権力者側)は、「世界社会フォーラム」がポルトアレグレで行なわれていることを知っています。彼らはそれが脅威だと知っているのです。
彼らはどうしたらよいのか方法を考え出そうとします。例えば、吸収合併し…(聞き取れない)思うに、国際会議で世界銀行のための基調演説をするように私が招待を受けているというのは、ずばり核心に触れているのです。彼らは「世界社会フォーラム」を吸収しようとしているのですね。なぜならその運動は内容のあるものなので社会の全システムを浸食する可能性があるからなのです。
G・アーカー:
この没落論はここ数十年間、米国史上、何度も浮上しています。そして70年代と80年代には非常に強力でした。例えばレーガンの下では…、つまり、米国の没落を逆転させようと設計された重要なプログラムを持つことによって、レーガンは権力を握りました。
しかし正確にはその問題を言いますと、没落論者つまりその類(たぐい)の理論を扱う人々は、米国の流儀を忘れる傾向があるということです。自分の地位が脅かされるたびに、米国がその地位を復元させようとして、世界における軍事的・政治的優勢を利用するという流儀です。それはレーガン政権下では非常に明瞭となり、そのやり方で彼は米国を世界第1ランクの強国としてカムバックさせることに成功しました。
さて、我々の理解では、今日のブッシュ政権の行動は、冷戦後の米国の基本的選択、すなわち「米国の至上権を政治の最優先課題として維持し拡張する」という政策を継続させることにあります。そして米国のこの優越を他のあらゆる分野で維持させる基本的手段は、ご存じのように、その圧倒的な軍事的・政治的優越と深く関わっているのです。
T・アリ:
それに付け加えたい点があります。アメリカ帝国の力の現状況が本質的に作り出しているものは、民主主義への全体的な軽蔑です。米国国内だけでなく、世界中においてです。
なぜなら、もし政府が米国依存になるのを反対する国民をあなたが持っていたら、その時あなたは、国民が選挙で自己決定権を行使しないようにしなければならないでしょう。
そしてますます、思うに、今のところ民衆はわざわざ投票したりせずとも自己決定権を行使するのです。なぜなら投票パターンは西欧においてすら概して投票率の低下を示していますが、それは、民衆が今よりもっと良い代表者がいないと感じているからなのです。
そしてトルコは、この場合、昔よりも民主的になろうとしています。なぜなら、我々が知るところによれば、この国は実質的には軍隊によって運営されており、今までも長い間そういう国だったので、今その軍隊に直面し民主主義を選択する真の機会なのです。
トルコが民主主義国になることを望んでいる丁度その時に、米国はトルコを大戦争に巻き込もうとしています。戦争はおそらく国民の大部分によって反対されるでしょう。その時は一体何が起こるでしょうか。
もし国民が、戦争に反対する政権を選挙で選んだら、どうなるでしょうか。軍隊がその時は政権を占拠するでしょう。そうすれば無限の戦争、それこそ帝国が今や行いたいと思っているものですが、その無限の戦争が民主主義を完全に無視する方向へとつながっていくのです。
我々が知っているひとつのこと、それは彼らが占領した国々においては、民衆は基本的にアフガンスタイルでの民主主義を手に入れることになるということです。ですからトルコ人やトルコ人エリートは、ご存じのように、自分の将来を非常に注意深く考えなければならないと私は思います。
トルコはずっと米国の同盟国でした。言ってみれば、冷戦時代以来の依存状態にあったのです。これは永久に続くのでしょうか。
司会者:そうです。しかしトルコ人エリートは、例えば、「我々は身動きが取れない状態だ。だから我々には米国の金が必要だ…」と主張します。
ノーム・チョムスキー:
確かにあなたの国トルコにはお金が必要です。なぜなら米国財務省によって決定された政策にあなたは従ってきたからです。その政策はトルコやブラジルや世界中のすべての国々を、米国財務省から「のど輪」をはめられた地位にしてしまったのです。しかし本当は、あなたの国トルコはこれらの政策に従う必要はないのです。
T・アリ:
売春婦でさえも時々言いますね。「仕方がないの。お金が必要だから」と。しかしそれは個人的レベルの問題です。そして同情すらできます。
しかし国がそのように行動し始めると、その時は、あなたは問いたださなければなりません「何が起こっているか。何が間違っているのか。」と。
司会者:
私は近い将来については、少し悲観的です。少なくとも、あなたのお話を聞きますと。
私の最後の質問として、あなた方お一人ずつに簡単にお聞きしてもよろしいでしょうか。「将来をどうご覧になっていますか」と。
つまり、一方で、この帝国主義的なものが全世界を覆い尽くし、それと同時に皆さんが言われたように、巨大な反対運動が起こり始めています。出口はどのように見えるのでしょうか。
T・アリ:
そうですね、帝国への抵抗があると思います。それは強力ではありませんし、国家レベルの抵抗ではありません。米国に対するベトナムの抵抗のように。
ベトナム戦争は国家レベルで行われましたが、現在では帝国に抵抗するというような、そんな国は今のところ実質的には存在しません。今後15-20年間は幾つかの国では発展があるかも知れませんが、我々にはわかりません。しかしそれらは自国の利益のために、それをするでしょう。
既に起こってはいるものですが、非常に新しいものは、世界の様々な部分で拡大している大衆運動です。それは、この帝国に抵抗することを望んでいます。それは非常にポジティブな何かになり得るものです。それらが勝利するとか、勝利へと動くとは言い切れませんが、それらが存在しているという事実は、特に北アメリカと西欧でいくらかの戦争に対する抑制を起こさせます。
それは希望の徴候です。だから、すべてが素晴らしいとか、我々が大きな勝利を記録するつもりだとか、そんなことを我々は言うつもりはありませんし、草の根からの抵抗なしで帝国が現在のことを行い続けることができるなどと言うつもりもありません。そしてもし、抵抗が続けば、遅かれ早かれ、それは影響を与えるでしょう。
ノーム・チョムスキー:
全く同感です。実際、最近のこうした方向性は非常にポジティブです。全ての民衆運動が、今や米国内にも他の国にも存在し、しかも先例のないものです。それらは以前とは比べようがないほどのものになっています。
米国においては、この問題についてだけではありません。あらゆる種類の問題についても、国の政策への非常に本質的な反対があります。だからこそ、ひとつの理由として、為政者が、かくも集中的な努力をして絶えず人々を恐れさせなければならないのです。
いま全ての人を支配するためにでき得る唯一の方法は、恐れさせるということです。なぜなら、現在の米国では巨大な反対の意思表示があるからなのです。アリさん、あなたは米国における投票率低下について言われましたが、それは馬鹿げた状態になっています。
先の2000年の選挙が行なわれる前は、人口の75パーセントが、すべてのことを道化芝居だと見なしていました。これらは政策への強い敵意を反映しています。自由貿易協定NAFTAのような国際経済政策についても、国民は非常に強く反対していますし、初めからずっと反対でした。そんなわけで、その問題は決して選挙では議論されることがなく、選挙公約にはあがってきません。
だから、選挙を通じて、これらの実質的な民衆の力が、相互交流し組織化するなかで充分な力を得て、さらに大きな変化をもたらすことができるか、という疑問はありますが、それらは既に多くの変化をもたらしています。この運動が何処まで進むのか私には予測出来ません。
G・アーカー:
軍事分野における米国の優位性は圧倒的で、ご存じのように、どんな試みも及ばない地点に至っています。暴力的な手段を使って反対してみても失敗する運命です。たとえテロのような非対称的手段を使っても。
我々は9月11日が実際に、ジョージ・W・ブッシュへの天からの贈り物だと考えました。それは彼が夢見ていた最良のものだったのです。なぜなら彼はそれを最大限に利用したからです。
だから、この帝国に対して戦うことのできる唯一の非対称戦争は、大衆動員という、民衆の民主主義的動員という非対称戦争なのです。そしてその意味で、5年前よりも今の方が、さらに楽観的になる理由があると考えています。
例えば、新自由主義的グローバリゼーションや戦争に反対する運動が途方もない勢いで発展し急進化しています。若い世代においては特にそうです。それは将来に対して非常に希望の持てる兆しです。
司会:
たいへんありがとうございました。
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