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帝国の野望
Monthly Review 2003年5月
デイビッド・バーサミアンによるチョムスキー・インタビュー
(デイビッド・バーサミアン=DB、ノーム・チョムスキー=NC)
翻訳:寺島隆吉+岩間龍男(翻訳公開030602)
記号研=岩間龍男先生(岐阜・高)のおかげでイラク攻撃に関する最新のチョムスキー・インタビューの翻訳が出来ました。米国の石油戦略についての考察だけでなく、ブッシュの発表した「ロード・マップ」やEUと米国の関係についてもふれています。またイラク攻撃を阻止できずに落胆しているかもしれない平和運動家に対するメッセージも最後に付け加えられています。誤訳があるかもしれませんが、気づき次第訂正していきたいと思います。お気づきの方は連絡ください。(寺島隆吉・岐阜大学教育学部)
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DB:米国のイラクへの侵略と占領は、その地域にどのような意味を持つのでしょうか。
NC: そのことを、その地域だけでなく一般的に世界全体が、軍事力の使用基準を確立しようとする易しいテストケースのようなものと正確に気づいています。その基準は昨年の9月におおまかな宣言がされました。昨年の9月、米国の国家安全保障戦略が出され、世界での軍事力の使用に関して、幾分新奇で異常に極端な教義が提示されました。イラク戦争が言われ始めた時とそれが一致していたことは、容易に気づくことです。それはまた議会選挙の始まりの時期と一致していました。これらはすべて結びついていたのです。
その新しいドクトリンは、議論のあるところですが、おそらく国連憲章の拡大解釈の中に含まれる先制攻撃の戦争の原理ではなく、国際法の中でさえその根拠を持たないもの、すなわち予防戦争の原理です。あなたは思い出されるでしょうが、そのドクトリンは、米国は力で世界を支配するつもりであるというものであり、もしその支配になんらかの挑戦があると考えられたら、どれほど遠くに離れていようが、でっちあげられたものであろうが、想像上のものであろうが、その挑戦が脅威となる前に、米国にはそれを破壊する権利があるだろうというものでした。それが先制攻撃の戦争ではなく、予防戦争です。
もしそのドクトリンを宣言したいならば、超大国は、いわゆる新しい基準をつくる能力があります。だから、もし極悪非道行為を終わらせるためにインドがパキスタンを侵略しても、それは基準にはなりません。しかし、もし米国があやふやな根拠でセルビアを爆撃したら、それが基準になります。それが権力の意味していることです。
だからもしあなたが新しい基準を確立したいなら、何かをしなくてはなりません。そしてその最も簡単な方法は、完全に無防備の標的を選ぶことです。なぜならその標的は人類史上最も大規模な[米国の]軍事力で完全に圧倒できるからです。しかし、少なくとも自国の国民に対してそれを完全に行うためには、彼らを恐怖に落とし入れなければなりません。したがって、その無防備の標的は我々の生存にとって恐ろしい脅威に変えなければなりませんし、その標的は9.11に責任があり、再び我々を攻撃しようとしているなどなどとする必要があります。昨年9月からそのような大きな努力がなされ、その結果サダム・フセインは怪物であるばかりか我々の脅威でもあるのだと、世界で唯一米国人にだけに信じ込ませることに実質的に成功しました。それが昨年10月の米国議会の決議内容であり、それ以来の様々なことです。今は米国人の半分が、サダムが9.11に責任があると信じていることを世論調査は示しています。
だからこのことすべては符合します。米国の世論はそのドクトリンを宣言させてしまったのです。[フセインのような]この容易な事例で基準を確立させてしまいました。人々はパニックに追い込まれ、世界で米国民だけがこの種の空想を信じるようになり、自己防衛としてその軍事力行使を積極的に支持しています。人々がこういったことを信じれば、それが本当に自己防衛になります。それは、自分たちの侵略の範囲を広げようという目的をもった、侵略の教科書の、見本のようなものです。いったんその容易な事例が扱われれば、次の難しい事例について考えを進めることができます。
それが世界の多くが圧倒的にこの戦争に反対している主な理由です。それはイラクへの攻撃だけにとどまりません。多くの人々は、まさしくその戦争が「我々米国が進撃中だ。お前たちは警戒したほうがいいぞ。」という断固たる声明として意図されている、と認識しました。そういうわけで、米国はおそらく世界の大多数の人々によって、世界の平和への最大の脅威であると現在見なされています。ジョージ・ブッシュは米国を大変に恐れられ嫌われ憎まれる国にすることにこの1年で成功しました。
DB:1月下旬のポート・アレグロでの世界社会フォーラムで、あなたはブッシュと彼の周辺の人々を「帝国の暴力」を行使する「急進的な国家主義者」として述べました。このワシントンの政権は以前の政権とは実質的に違っているのでしょうか。
NC:歴史的な視野を持つことが大切です。したがって、あなた方が知っている範囲の中で、政治的なスペクトルの一方の端、すなわちケネディー流の自由主義者にまで遡ってみましょう。1963年、彼らはブッシュの国家安全保障戦略報告とあまり違いのないドクトリンを発表しました。尊敬を受けていた長老の政治家で、ケネディー政権の上級顧問であったディーン・アチソンは、米国国際法学会で講義を行いました。彼はその中で、米国の地位や威信や権威への挑戦に対し米国が対応する場合は、法的な異議申し立ては起こらないと言いました。その言い回しは[今話題にしている]ドクトリンにたいへんよく似たものでした。彼が述べていたのは、米国のキューバに対するテロ戦争と経済戦争のことでした。このタイミングはとても意味がありました。
これは世界を核戦争に導きかけたミサイル危機のすぐ後のことでした。これは現在のいわゆる政権変更を狙った国際的なテロの大きなキャンペーンの主な結果であり、キューバにミサイルが送られることになった主な要因でした。そのすぐ後にケネディは国際テロキャンペーンに足を踏み入れました。そしてアチソンは国際法学会に、我々の生存にとっての脅威でなく、我々の地位と威信への単なる挑戦に対しても、予防戦争を行う権利が米国にあると述べました。彼の言い回しは実際のところ昨年9月のブッシュ・ドクトリンよりさらに極端なものでした。
一方、全体的な視野からすれば、それはディーン・アチソンの宣言にすぎず、政策の公式の声明ではありませんでした。それは明らかにそれまでもあったことのある宣言でした。[ところが] 昨年の9月のドクトリンは、そのずうずうしさにおいても、1人の高官の単なる声明ではなく公式の声明だという事実においても、異常なものでした。
DB:平和集会で私たちが耳にするスローガンは「石油のために血を流すな」です。全般的に石油問題はしばしば米国のイラク攻撃と占領の原動力として述べられています。米国の戦略にとって石油はどれくらい中心的な役割を持っているのでしょうか。
NC:石油が中心的な問題であることは疑いの余地がありません。正気の人ならば誰でもそう考えると思います。湾岸地域は世界の主要なエネルギー生産地帯です。石油は第2次世界大戦以来重要なエネルギーです。石油は少なくとも次の世代までは重要なエネルギーでしょう。石油は巨大な戦略上の力そして物質的富の源です。イラクは完全にその中心です。イラクは世界で2番目の石油埋蔵量を持っています。それはたいへんに利用しやすく安価です。イラクを支配すれば、高くもなく低くもない石油の価格や操業度を決定し、おそらくOPECを切り崩し、世界中で影響力を及ぼす強い立場を保てます。第2次世界大戦以来、それは本当のことです。それは石油の利用とは特に何も関係がありません。米国はその石油を利用しようという意図は実際にありません。それは[世界の]統制ということに関わっています。統制ということがその背景にあります。もしイラクが中央アフリカのどこかにあったならば、このテストケースとしては選ばれなかったでしょう。したがって確実に世界支配ということがその背景にあります。中央アジアのような決定的な地域でないところに、それがあれば別の展開があったのと同じように、イラクという地域が問題なのです。しかし、それはこの作戦をこの特定時期に行わねばならない説明とはなっていません。というのは、イラクはこれまでずっと大きな関心の的であったからです。
DB:1945年の中東の石油に関する国務省の文書は、その石油は「戦略的支配権の巨大な源であり、世界史的にも最大の物質的獲得物のひとつである。」と言っていました。米国はその石油の15%をベネズエラから輸入していました。またコロンビアとナイジェリアからも石油を輸入していました。ワシントンから見ると、これら3つの国はみな今は問題を含んでいます。ベネズエラではヒューゴ・チャべスがいて深刻な内部の紛争があり、コロンビアでは文字通り内戦があり、ナイジェリアでは石油供給を脅かす暴動があるからです。これらの要因についてあなたはどうお考えですか。
NC:そう考えるのは適切ですし、その3つの国は米国がその石油を利用しようと考えている地域です。中東については、米国は[石油を利用するのではなく] 支配をしようとしています。しかし少なくとも諜報機関の予測では、米国は[石油を]もっと安定した、いわゆるアトランティック・ベイスン (The Atlantic Basin)資源に頼るつもりです。アトランティック・ベイスンというのは西アフリカと西半球のことですが、この地域は難しい中東地域より完全に米国の支配下にあります。従って諜報機関の予測によれば、中東地域を「支配」し、あなたが述べた3つの国を含む、アトランティック・ベイスンの「利用」を続けるというものです。したがって、その地域の従順性の欠如、あれやこれやの混乱は重大な脅威です。そしてペンタゴン(国防総省)の文民の政策立案者が望むように事態が動くならば、イラクでのような別の展開がなされる高い可能性があります。もし簡単に勝利が得られるならば、すなわち戦闘の必要がなく、いわゆる「民主的な」新しい政権を樹立でき、大きな失敗があまりないならば、彼らは次の段階に大胆に進むでしょう。
そして次の段階では、いくつかの可能性が考えられます。そのひとつは、アンデス山脈地域です。現在このあたり一帯に米軍基地があります。まさにここに軍隊がいます。コロンビアとベネズエラは両国とも石油生産国ですし、特にベネズエラはそのことが当てはまります。エクアドルさらにはブラジルのような他の国もあります。それはあくまで可能性ですが、いったんいわゆる[予防戦争の]基準が確立され受け入れられると、予防戦争作戦の次の段階はそれらの国々で進められるでしょう。もうひとつの可能性はイランです。
DB:確かにイランですね。米国はシャロンから、「平和の男」とブッシュが呼んでいた当の人物から、イラクを片付けた「暁(あかつき)には」イランを狙うようアドバイスされました。イランはどうなのでしょうか。悪の枢軸と指定され、石油を多く持っている国でもあります。
NC:イスラエルに関する限りは、イラクは決して大きな問題ではありませんでした。イスラエルはイラクを容易な相手と考えていました。しかしイランは別です。イランはより多くの容易ならざる軍備と経済力を持っています。そして何年もの間イスラエルは米国にイランを攻撃するように圧力をかけてきました。イランは大国でイスラエルには攻撃できないので、より強い者にその攻撃をしてほしかったのです。
その戦争はすでに始まっているようです。1年前に、イスラエル空軍の10%以上が東トルコすなわち東部トルコの巨大な米軍基地の中に永続的に配備されていると報道されていました。イスラエル空軍は、イラン国境で偵察飛行をしていると報じられています。その上、次のような信頼できる報告があります。米国とトルコとイスラエルは北部イランのアゼリー人国家主義者の勢力をそそのかして、アゼルバイジャンとイランの一部勢力に手を組ませるよう努力しているとのことです。この地域に、イランに反対する、米国=トルコ=イスラエルという、権力の一種の枢軸があり、これは最後にはおそらくイランの分割と軍事攻撃につながります。しかしイランが基本的に無防備であると考えられた時にのみ、軍事攻撃は行われるでしょう。抵抗できる力をもっている人々を彼ら(米国=トルコ=イスラエル)は侵略しません。
DB:トルコや中央アジアの米軍基地ばかりでなくアフガニスタンやイラクの米軍によって、イランは現在文字通り包囲されています。そのようなイランにおける客観的現実は、イランがもし核兵器を持っていないのなら、自己防衛のために核兵器を開発するよう、イラン内の軍隊に強要することにならないのでしょうか。
NC: それは十分に考えられることです。私たちはその証拠をほとんど持っていませんが、イスラエルによる1981年のオシラクOsirakの原子炉爆撃はおそらくイラクを刺激して、核兵器開発を始めさせたしまったということを重大な証拠が示しています。彼らは原子炉設備を建設しましたが、それがどのようなものかは誰も知りませんでした。それは現地において、爆撃後に有名なハーバード大学の核物理学者によって調査されました。彼は当時ハーバード大学の物理学部の部長だったと思います。彼は主要な科学雑誌『ネイチャー』でその分析を公表しました。彼によればそれは発電所でした。彼はこの問題の専門家でした。
私たちには証明できないのですが、葬り去られた他のイラクの情報源は、たいしたことは何も起きていないことを示していました。彼らは核兵器のアイデアをああだこうだと考えていたのかもしれませんが、そこを爆撃したことは核兵器[開発]プログラムを刺激してしまいました。これは証明できませんが、それが上記の証拠から見えてくることです。それは十分にありうることです。それが事実ではないかもしれませんが、あなたが述べたことは大いにあり得ることです。もし米国が現れて「さあ、我々は君たちを攻撃する。」と言うならば、従来型の防衛方法はないのだと、どの国も知っているので、米国は実質的に彼らに大量破壊兵器を開発しテロのネットワークを作るよう命じていることになります。それは明白なことです。まさしくそういうわけで、CIAや他の誰もがそのことを予測していました。
DB: イラクの戦争や占領はパレスチナ人にとってどのような意味があるのでしょうか。
NC: 大きな不幸となるでしょう。
DB: 平和に通じるロードマップはないということですか。
NC: そのロードマップを読むことは興味深いことです。ジャーナリズムのルールは、どのように確立されたのか私は正確に知りませんが、絶対的な一貫性があります。そのルールのひとつは、記事の中でジョージ・ブッシュの名前を述べる時には、そのタイトルは彼のビジョンを語らねばなりませんし、その記事は彼の夢について述べなければなりません。おそらくその記事の横には遠くを見つめる彼の写真が掲載されているでしょう。そしてジョージ・ブッシュの夢とビジョンのひとつは、パレスチナ国家を特に明示していない場所、おそらく砂漠の中のどこかにもっていくことです。そして私たちはそれを壮大なビジョンとして崇め賞賛することになっています。それがジャーナリストの慣習となっています。3月21日の『ウォール・ストリート・ジャーナル』にトップ記事がありましたが、その記事の中では「ビジョン」と「夢」という言葉が10回ほども使われていたと思います。
そのビジョンと夢は [本来は]、おそらくほとんど例外なく世界の他の国々が実行可能な政治的解決を作り出すために長年にわたる努力をしてきたことを、[これまで]米国は完全に台無しにしてきましたが、それを止めることでしょう。[しかし]現在までのところ、米国はこの25年から30年の間その妨害をしてきました。ブッシュ政権はその妨害をさらにもっと進め、時にはたいへんに極端なやり方で妨害し、あまりにも極端なものだったのでそれらは報道さえされませんでした。
例えば昨年12月に国連でブッシュ政権は初めてエルサレムに関する米国の政策を逆転させました。今までは米国は少なくとも原則として1968年の安保理決議に同調していました。この決議はイスラエルに東エルサレムの併合・占領・入植を破棄するよう命じていました。去年12月に初めてブッシュ政権はそれを逆転させました。これはなんらかの意味ある政治的解決の可能性を否定することを意図した多くの事例のひとつです。
この実態を偽るために、これはビジョンと呼ばれ、それを追求する努力は米国のイニシャチブと呼ばれました。しかしその実態は、歴史にわずかでも注意を払うものなら誰でも知っていることですが、長く続いてきたヨーロッパとアラブの努力を米国が非難し、その努力があまり意味のなかったことにするために、その努力を打ちのめすことでした。
米国ではシャロン首相に対する大きな賞賛があります。彼は現在偉大な政治家とみなされています。しかし、結局、彼は過去50年間にわたって世界一流のテロリストの司令官の一人でした。[したがって]米国における彼の賞賛は興味深い現象であり、それはプロパガンダの実質的な業績、その一部始終を示しています。それは危険な物語です。
3月中旬にブッシュは中東問題、アラブ/パレスチナ問題についていわゆる最初の重要な宣言をしました。彼は演説をし、大きな見出しが載りましたが、ここ数年の中では始めての重要な声明でした。その声明を読むと、一文を除いては決まり文句でした。その一文は、もし綿密に見るならば、彼のロードマップを示していますが、それは、和平プロセスが進むにつれてイスラエルは新しい入植の計画を終わらねばならないというものです。これはどのような意味なのでしょうか。[実は、これは] ]和平プロセスがブッシュの支持・賛同する地点に達するまで、そしてこれは無期限に遠い将来のことになりますが、その時までイスラエルは入植地を建設し続けるべきだということです。
これが政策の[逆転であり]変更です。これまで米国は公けには少なくとも、違法の入植計画の拡大は[パレスチナ問題の]政治的な解決を不可能とするので、それに反対をしてきました。しかし今ブッシュは正反対のこと、つまりどんどん入り入植しろと言っています。我々が和平プロセスが適切な到達点にどうにか達したと決めるまで、その財政的支払いは行うつもりだと。だからこれはさらに侵略的で国際法をないがしろにして平和の可能性を減らす方向への重要な変更でした。[一般には]そのように描かれていませんが、彼らの言葉の言い回しをよく見て下さい。
DB: あなたはイラク戦争に対する大衆の抗議や抵抗のレベルは「前例のないもの」であり、戦争が始まる前にこれほど多くの反対運動があったことはこれまで一度もないと述べられました。この抵抗運動は今後どこへ行くのでしょうか。
NC: 人間の事柄を予測する方法を私は知りません。それは人々が決めることです。多くの可能性があります。この抵抗運動は大きくなるべきですし、そのなすべき事は、今は以前よりますます大きく重大です。一方それは難しいことでもあります。
軍事攻撃反対を組織することは、長期的な帝国の野望に反対するよりことより、心理的には容易なことです。軍事攻撃は帝国の野望の一局面ですし、帝国の野望の別のことが次に起きてくるでしょう。それに対しては、さらに多くのことを考え、さらに多くの献身と長期にわたる取り組みが必要となってきます。
これは、「私は長期戦の中にいる」ということと「私は明日デモに行って家にもどるつもりだ」ということの違いです。これは選択の問題ですが、同じ事が公民権運動にも女性解放運動にもどんなことにでも当てはまることです。
DB: ここ米国内における反体制派の人々への脅迫の脅威について話してもらえますか。移民や市民の検挙を含めてですが。
NC: 移民のような攻撃されやすい人々は明らかに心配しなくてはなりません。現在の政府は先例を越える権利を主張してきました。戦時中にそのようなことは幾つかあり、たいへんに卑劣なものです。たとえば、1942年の日本人の一斉検挙や第一世界大戦のウイルソン時代のことで、それはたいへんに恐ろしい出来事でした。
しかし政府は現在先例の全くない権利を主張しています。家族と弁護士に面会もできない状態で市民を逮捕し拘留し、告訴なしにそのようなことを無期限に行う権利さえ主張しています。移民や他の攻撃されやすい人々は確かに注意・警戒をしなくてはなりません。
一方、特権を持っている市民である私たちのような人々は、脅されることはありますが、世界の大部分の国々の人々が直面している事と比べると、その脅威はとても小さなものですから、それについてあまり動揺する必要はありません。
私はトルコやコロンビアに2,3回行ってきたことがありますが、そこの人々が直面している脅威と比べると、私たちは天国で生活しています。しかしトルコやコロンビアのひとたちは、その脅威を気にしていません。たとえ、明らかに気にしていたとしても、彼らはその心配ゆえに自分たちの抗議行動・抵抗運動をやめるようなことはしません。
DB: ヨーロッパと東アジアはある時点で米国の対抗勢力となっているとあなたは思われますか。
NC: 確かにそうだと思います。ヨーロッパとアジアは大雑把に言って北アメリカと同等の経済力を持っていて、自分たち自身の利害を持っていることは間違いありません。その利害は単に米国の秩序に従うというものではありません。彼らには強いつながりがあります。だから例えば、ヨーロッパ、米国、アジアの企業部門はあらゆるふうにしてつながっており、共通の利害を持っています。一方、個別の利害もありますし、これらのことは特にヨーロッパについては昔に遡る問題です。
米国は常にヨーロッパに対して二重の姿勢を持ち続けてきました。米国はヨーロッパが米国企業の効率的な市場としてその規模において大きな利点をもつものとして、統一されることを望んでいました。一方、米国はヨーロッパが別の方向に行ってしまうかもしれない脅威をいつも懸念していました。東ヨーロッパ諸国の欧州連合EUへの接近の多くの問題もその懸念と関係していました。米国はその接近を歓迎していました。なぜならこれらの国々が米国の影響を受けやすくなり、ヨーロッパの中核の国フランスとドイツを弱体化させることを米国は望んでいたからです。というのは、ドイツとフランスの大工業国は幾分独立した方向へ動くかもしれなかったからです。
またその背景には、米国が長期にわたりヨーロッパの社会市場システムを嫌っていたことがあります。そのシステムはちゃんとした賃金や労働条件や利益を労働者に与えるものだったからです。それは米国のシステムとは随分と違うものでした。米国はヨーロッパのモデルが存在することを望んでいません。なぜならそれは[米国にとって] 危険なモデルであり、[米国の]人々が妙な考えを持つからです。[他方]労働者が低賃金で抑圧されている東ヨーロッパが、欧州連合へ接近・加盟することによって、西ヨーロッパの社会の生活水準や労働者の労働基準を引き下げられ、そのことが米国の大きな利益になるだろうことを、たいへん明確に述べています。
DB: 米国経済が悪化し首切りが増えている現状で、ブッシュ政権はどのようにいつまでも戦争を続けることができ、どのようにして多くの国々を占領するいわゆる軍事国家を維持する予定なのでしょうか。どうやって彼らはそのことをうまくやるのでしょうか。
NC: 彼らはあと6年間はそれをうまくやらねばなりません。その時までに彼らは米国内でたいへんに反動的な計画を制度化し終えていることを望んでいます。彼らは1980年代とほとんど同じように巨大な赤字を生み出して、経済を深刻な状態にしていることになるでしょう。それを改善するのは他の誰かの問題となるでしょう。その間に、彼らは社会福祉計画をないがしろにし、民主主義を弱めることを望んでいます。彼らはもちろん社会福祉計画や民主主義に嫌悪感を持っているからです。このことは政策決定を公共の場から個人の手に移すこと[民営化]によって行われます。そして彼らはその問題をほぐすことが難しい程度にまで、それを行ってしまっているでしょう。だから彼らは痛々しく困難な遺物を国内に残すことになるでしょう。しかしそれは大多数の人々にとっての話です。彼らが気にかけている[少数の]人々は強盗のようにうまく[困難を切り抜け]成功するでしょう。レーガン政権時代ととてもよく似ています。結局、今政権にいる人々はレーガン時代と同じ人々ですから。
そして国際的には彼らは軍事力と予防戦争をうまく使い分けながら帝国支配のドクトリンを制度化することを望んでいます。現在の米国の軍事支出はおそらく世界の国々すべてのそれを合わせた軍事支出より多く、さらにそれは拡大・前進させられ、宇宙の軍事化のような極端に危険な方向へ進みます。米国経済に何が起ころうとも、米国が言うがままに行動しなければならないように人々を追い込むため、その軍事支出が圧倒的な力を与えてくれることを彼らは考えているのだと私は思います。
DB: 長い間イラク侵略を阻止しようと運動し、現在は怒りと悲嘆の気持ちを持っている平和活動家に対してあなたは何を言いたいですか。
NC:現実的になるべきだと言いたいです。奴隷制度廃止になんらかの進展をもたらすまでに、どのくらい長く闘争が行われましたか。あなた方が望む目先の目標が達成できないたびに諦めていたら、最悪の事態が起きることをあなた方は保障しているようなものです。これらの闘いは長く困難なものなのです。そして実際ここ2,3ヶ月に起きたことは、積極的にとらえられるべきです。平和と正義の運動の拡大と発展の基礎が作られたのです。この運動はさらに困難な課題に立ち向かうことになるでしょう。こういったことはそのようにしか進まないのです。それは容易なことではありません。
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