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『インターナショナル・ソウシャリスト・レビュー』25号、2002年9−10月
米国の干渉・介入:アフガニスタンからイラクまで
デビッド・バルサミアンがノーム・チョムスキーにインタビューする
(翻訳:寺島隆吉+寺島美紀子)公開2003年2月15日
KeyWords:アフガン戦争とパール・ハーバー、アフガン解放と日本の植民地解放、アブドゥール・ハク氏の死、RAWA(アフガニスタン女性革命協会)、プロパガンダの技法、ナチス国防大臣ゲーリング、ナチス宣伝大臣ゲッペルス、知識人と自主規制、価値ある犠牲者・価値のない犠牲者、ブッシュ政権のイラク訪問・サダム激励、米国民衆への生活破壊攻撃、オーウェルの小説『1984年』における「真実省」、オーウェルの小説『動物農場』の序文問題、権力の望む「良い教育」とは何か
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デビッド・バルサミアン:アフガニスタンへの米国の攻撃に対してあなたは批判をなさっています。そこで次のコメントについて是非考えていただきたいのです。すべて8月下旬に発表されたものですが。CNNのクリスティン・アマンポウルは「米国のアフガニスタン介入がアフガン人に最終的にプラスの影響をもたらすことは間違いがない」と言いました。その時パキスタンのジャーナリストで『タリバン』の著者アフメド・アシッドは、インタビューの中で私にこういいました。「新政府の出現でアフガニスタンの女性の境遇には大きな改善がありました。数百万人の子供達は学校に戻り、5万人の女教師は仕事に戻りました」と。最後に、別のインタビューでは、パキスタンのイスラマバードで教師をしているペルベス・フードボイが私にこういいました。タリバンの追放は「パキスタンにとっては良かったのです」なぜならパキスタンがタリバン化していく危険があったからなのです。つまり、パキスタンがイスラム原理主義によって占領されるという危険があったのです。戦争が平均的アフガン人に利益をもたらすと認められないでしょうか。
ノーム・チョムスキー:「認める」という言葉が正しいのかどうか私にはわかりませんし、また「平均的アフガン人」というものも私にはわかりません。
タリバン政権を転覆することで、なにか確かに改善はあったでしょう。だからこそ全ての人がタリバン政権転覆を支持したのです。米政府を除いては。きちんと心に留めておいてください。タリバン政権転覆が戦争の目的ではなかったということを。
戦争の目的は10月12日に発表されました。爆撃の5日後に、です。タリバン指導者はテロ攻撃に参加したと嫌疑をかけられている人物を米国に引き渡すべきだというものでした。米国はその証拠を提示することも拒否したのですが、もし引き渡しがなされなければ爆撃するぞ、とアフガン人に警告したのです。
2週間以上後に、戦争がほとんど終わりに近づいた時、タリバン政権を転覆するという戦争目的が付け加えられました。実際、英国指揮官が発表したのは、アフガン人は政権が交代するまで相変わらず攻撃されるだろうというものでした。
そこで、もし政権変更が戦争目的でなかったのなら、そんな質問をすることは実際できないのです。しかしながら、戦争の終わり頃に、米国がついにやって来てタリバン政権に対立する他の勢力と手を結んだのは良いことです。
とすれば、どのようにしてそれをすべきなのかという質問が起こります。そうですね、アフガン人はこれについて意見を持っています。10月下旬、パキスタンのペシャワールで1000の部族と政治的指導者の大きな会合が開かれました。パキスタン内部の人もいれば、亡命者もいましたし、また別の場所からもきました。みな米国に強力に支持された人物ばかりでした。
報道機関にはこの会合について幾つかの報道がありました。通例は論争好きな部族指導者の会合ですが今回は非常に印象的な集りで、彼らはみな憎むべきタリバン転覆に熱心でした。多くの点では意見が合いませんでしたが、一点だけ彼らが合意したのは、米国が爆撃を止めるようにということでした。
なぜなら爆撃が国を害し破壊し、タリバン政権を内側から転覆しようという彼らの努力を掘り崩すことになるからだ、というものでした。彼らが国際的なメディアに要求したのは、米国がタリバン転覆という彼らの努力を爆撃によって疎外することがないように嘆願するものでした。
その会合のちょうど1週間前、もっとも有名で非常に尊敬されているアフガニスタン指導者のひとり、アブドゥール・ハクは米国や現アフガニスタン政府ハミド・カルザイにも尊敬される人物ですが、彼はパキスタンからアフガニスタンに入りました。明らかに米国の支援なしに。(だから殺されたのです。)
ハクはタリバン政権に対する戦争の、最大の殉教者の1人と見なされました。アフガニスタンに入る寸前に、ハクは国際平和のためのカーネギー財団のアナトール・リーベンとの広範なインタビューに応じています。
そのインタビューで、彼は米国の爆撃を再び非難し、米国が爆撃を止めるように誓願し、こう言ったのです。「脆くて憎まれているタリバン政権を転覆させようという、私や他の人々が行っている努力を、爆撃が掘り崩している。」彼はその時こうも言いました。「米国が爆撃をする唯一の理由は、『力を見せつけたい』だけなのだ。アフガニスタン人のことなど気にしていないのだ」と。
アフガニスタンの指導的女性グループRAWA(アフガニスタン女性革命協会)は、何年もあとに時代遅れの認識に至ったグループだが、同じような発表をしました。つまり、タリバン政権の転覆を要求し、これが内部から行われるべきだと力説し、それも国を荒廃させる爆撃によってではないやりかたでおこなわれるべきであり、爆撃は何百万人もの人を飢餓の縁に突き落とすことになるだけだ、述べたのです。
タリバン政権転覆という考えは確かにそこにはありました。米国は爆撃開始の3週間後にその考えに合流しました。
しかし、内部からの行動に資金を提供したり政治的支援を提供したりすることでアフガン人が政府転覆するのを助けてほしいという要求を拒絶したのです。そしてアフガン人のことを全く気に懸けずに力を見せつけることを主張したのです。
確かに、タリバン転覆は非常に妥当なアプローチでした。そして、タリバン転覆にどう取り組むかを語っている、実質的に信用できるアフガン人の意見に、我々は耳を傾けるべきだったのです。
では、その結果についてお話ししましょう。アフガン人にとって、結果が有益なものだったというのが本当か、考えて見ましょう。我々は毎年パール・ハーバー・デイを祝いますか。
日本人が米国と英国とオランダの植民地の前哨基地を攻撃したのは、よく知られています。それは、いくつかの点で非常にアジア人に有益でした。それはインドから英国人を追い出す主要ファクターであり、数千万人の命をおそらくは救ったのでした。
またインドネシアからオランダ人を追い出しました。そういうわけで、日本の侵略は賞賛されるものだったのです。実際、インドネシアのスカルノのような主要な国家主義者は、アジアから憎き白人を追い出したいと望んでいたので、日本と手を組み、彼らオランダ人と闘うことすらしたのです。
もし日本人の(パール・ハーバー)攻撃への(米国による)抵抗・反撃がなかったら、彼らは(アジアにおける)恐ろしい残虐行為(それが多くのアジア人を究極的には彼らと敵対させたのですが)へと向かうことがなかったかも知れません。だからといってパール・ハーバーを我々は祝うでしょうか?そうは思いません。私だったら絶対にそう思わないでしょう。
デビッド・バルサミアン:では戦争への「合意を捏造する」メディアの役割についてお話しさせてください。ニュルンベルグ裁判でヘルマン・ゲーリングはこれを次のように述べています。
「民衆は常に指導者の命令に従わせることが可能だ。それは簡単なことだ。やるべき事はただひとつだ。民衆に対して、おまえ達は攻撃されるぞと告げることだ。そして平和主義者には、“愛国心に欠け、国を危険にさらす”と非難するだけでよいのだ。どの国でも全く同じだ。」と。米国でそのやり方は通用するのでしょうか?
ノーム・チョムスキー:確実に通用します。周りを見回してご覧なさい。あなたが示す程度ではないですけれども確実に通用しているでしょう。
過去から事例を取ってきましょう。そうすればもっと冷静に見ることが出来ます。1980年代中頃、第1次「対テロ戦争」時代のことです。レーガン政権が今日と全く同じ用語で、同じレトリックで、「対テロ戦争」と呼んでいるのです。
その時の政権担当者ですらも同じだったのですが、ただしコリン・パウエルに相当するのが、ジョージ・シュルツのような政権の穏健派でしたが、私たちの住む広大な米大陸にひそむ「癌」を非難したのです。つまりニカラグアのことですが、それはヒトラーの『我が闘争』計画に従って半球を征服しようとしているというのです。
レーガン大統領は1985年に国家安全保障への脅威だとして、「国家非常事態」を宣言し、それを毎年更新したのです。米国が1986年リビアを爆撃した時、レーガンは「狂犬」カダフィが、世界から米国を追放するキャンペーンの一部として米国への本土攻撃を仕掛けているという理由で、その攻撃を正当化しました。
つまり、カダフィは、中米ニカラグアで暴れ回っていたサンディニスタ(サンディーノ民族解放戦線)に武器を送ることによって、これ(米国追放キャンペーン)を行なっているというのです。ニカラグア軍を恐ろしいものだとアメリカ人に思わせるためには巨大な努力が行われました。テキサスから歩いて2日で行ける距離だというのです。
このレトリックはいくらか影響力がありましたが、ゲーリングが示したほど影響がなかったのは確かでした。上記のようなヒステリー状態にもかかわらず、また攻撃に対する実質100パーセントのメディア支持にもかかわらず、米国のニカラグア攻撃に対する反対はかなり高いまま継続しました。これは記憶にとどめる価値のある事実です。
ニカラグアから自国を守るというヒステリーの頂点で、たとえば『ワシントンポスト』や『ニューヨークタイムズ』の社説や特集の論説記事では、ニカラグア政府転覆への支持は100パーセント近いものでした。しかしそれをどのようにするかについては、意見は分裂していました。
そこでタカ派は「米国はもっと暴力を使うべきだ」といいました。『タイムズ』誌のトム・ウィッカーや『ワシントンポスト』の編集者のようなハト派は、「米国のテロ攻撃はそう上手く機能していない、したがってニカラグアを『中米モード』に戻し、ニカラグアの『地域標準』を押しつけるため、もっと良い方法を見つけるべきだ」と言いました。
『中米モード』とはエルサルバドルやグアテマラ方式ということです。それらの国々の『地域標準』とは、米国が支援する国家テロ部隊ということでした。つまり、数万人の人々を殺し、拷問や巨大な残虐行為に専念していて、国々を破壊する軍隊ということなのです。
それが『中米モード』であり、そうなるように我々はニカラグアを復元しなければならないのです、ただ他の手段によって、なのです。それがハト派でした。他方、タカ派はハト派を一掃するために存在していました。
実質100パーセントのメディアの支持と政府宣伝機関から出てくるヒステリー的事態にもかかわらず、大衆は充分には追従しませんでした。大衆が結束する非常に大きな献身的な運動がありましたが、それはまさに米国本来の民主主義の流れに根ざしたものなのです。ゲーリングは民主主義の弾力性を過小評価していると私は思います。
デビッド・バルサミアン:ナチスのもうひとり別の人物、宣伝大臣ゲッペルスについて質問させてください。彼はナチのプロパガンダの目的は「事実上の画一性を欺く見せかけの差異を提示することだ」と言いました。
ノーム・チョムスキー:彼は組織化され統合されたプロパガンダ機関について話しています。西側では、事はそのようには運びません。
デビッド・バルサミアン:ここ米国ではそれはどのように働くのですか?
ノーム・チョムスキー:ここ米国では、報道機関は本質的に自由に必要なことを行います。政府の側では報道機関が発表するものに影響を与えようと努力を行いますが、彼らはそれを無視する自由があります。それでも、出てくるのはゲッペルスが示したものとは異ならないというわけです。
中央権力がなくても、そして党の政策に従うべき深刻な強制力がなくても、最終的に出てくるものはゲッペルスが描いたものとほとんど変わらないのです。それが見せかけの差異であり、しかし「事実上の画一性」なのです。
前述した例、ニカラグアは、いわゆる「タカ派とハト派の論争」の優れた実例なのです。それは主に、「どのようにして、『この我が大陸に内在する癌』を転覆し、米国という殺人テロ国家の『地域に見合った水準にそれを戻す』という共通目的を達成するか」ということなのです。
そのためにはコンセンサスがありました。主流メディア内に不一致はほとんどありませんでした。何か差異を見つけるためには末端のメディアに行かねばなりません。主流メディアでは本質的には何の変化もありません。見かけの違いが見えるだけで到達点は画一的なのです。今も事情は全く同じです。
今日の主要な質問は、どのようにして、そしていつイラク攻撃があるかということです。主流メディアでは、時折こんなふうに言っているのを聞くことができます。
「 ニュルンベルグ裁判で絞首刑になったのと同じ罪を犯すことになるかも知れない。口実もなく結果も分からないまま他国を攻撃するのだから。」
下院・院内総務ディック・アーミーのところまで行き、「我々は国際法と国際条約に違反して他国を意図的に攻撃するような類の国になるべきではない」と言わなければなりません。ほとんど他の誰もそんなことは言わないのですから。
デビッド・バルサミアン:プロパガンダの問題についてお話を続けさせてください。偉大なウルグアイ人ジャーナリストで小説家でもある、エドアルド・ガレアノは『プログレッシブ』6月号にこう書いています。「ペンタゴンが告白するところによれば、プロパガンダは戦争予算の一部である。ホワイトハウスは宣伝専門家シャーロット・ビーアスCharlotte Beersに資金提供した。彼女の使命はテロリストによるテロ撲滅運動を世界市場で前進させることだ。これをコリン・パウエルは『我々は製品を売っているのだ』と説明している。」
ノーム・チョムスキー:政府は自分たちが行っている政策への支持を刺激しようとして何でもするでしょう。政府は力の組織なのです。政府は自らが関わっている国内権力の集中という利益を追求します。それは驚きでも何でもありません。ガレアノが示しているのは特に粗野なものですが、何も変わったものではありません。政府が行うと予測されることをそのまま公にしているだけなのです。それは違法です。政府は民衆を扇動するとは考えられていません。が、何かしようと計画する際には、そんなことは大したことではないのです。
もっと重要な問題は、自由な制度(建前としては、政府の命令に強制的に服従させられることのない制度)がどうしたら作動するかということです。これはナチス・ドイツやスターリン・ロシアではありません。だから独立的で誠実であろうとしても罰はありません。
問題は彼らがどう対応するかなのです。独自に、政府と同じスタンスを、彼らが自発的に採用するか。どの程度、彼らがそのスタンスを取るか。それは、政府が民衆を公然と扇動しようとしているという事実より、さらに重要なことなのです。
もし政府が宣伝省をもっているのなら、それは良くないことです。自由社会はそれを許してはいけません。が、自主的従属(自己規制)と比べるとマイナーなものです。メディアばかりではなく、一般的には、はっきりとものを言うはずの知的集団でさえも、自主的従属(自己規制)をするのですから。
過去に話を戻しましょう。第1次世界大戦時、英米は非常に効果的な国家宣伝機関をもっていましたが、ドイツにはありませんでした。それでもドイツ知識人は圧倒的に戦争を支持しました。
1914年に戦争が始まった時、非常に有名なドイツ人知識人の一群が政治的領域を超えて、世界の知識人に「ドイツに支持をしてくれるように、そして野蛮から文明を守るという高貴な努力をおしまないように」というアピールを出しました。
それは基本的には自由な選択でしたし、政府組織が民衆を動かすよりもさらに困難なことでした。しかし米英で彼らがそれをやった時には大変な効果があったのでした。プロパガンダに従属しているほとんどのひとは米英では完全に自主的だったのです。
もし歴史を概観するなら、事情はどこでもほとんど同じです。一方で、政府政策に従わないなら、厳しく罰せられることになる全体主義国家があります。中米における米国の属国、なかでも最悪の例をいくつか取りあげてみましょう。
エルサルバドルでは、平和的交渉と民主主義を要求し続ける知識人は丁重に扱われませんでした。オスカー・ロメロのような保守的な司祭ですら、「声なき声の代弁者」となり、彼が暗殺されて1980年代の10年が始まりました。そして、この10年はサンサルバドルのイエズス会大学6人の知識人殺人で終わりました。
彼らの頭は、米国によって訓練され武装された、エリート大隊のメンバーによって吹き飛ばされました。彼らはその時までに既に数万人を殺していたのです。さて、米国の従属国で自由で誠実たらんと欲すれば、このような犠牲が必要とされているのです。
もし教育あるアメリカ人の世論調査を行って、我々のエリート軍隊によって頭が吹き飛ばされた指導的ラテンアメリカの知識人の名前を尋ねてみても、本質的に誰も彼らのことを知りませんし事件を記憶してもいないでしょう。もしチェコスロバキアやポーランドに同じような6人の知識人がいたら、誰でもその名前は知っているでしょう。
デビッド・バルサミアン:それがあなたとエドワード・S・ハーマンがあなたの著書『合意の捏造』で展開した「価値ある犠牲者・価値のない犠牲者」、という論文のことなのですね。
CBSのアンカーマン、ダン・ラザーによって最近行われた興味深いコメントがあります。ナイトニュースショーでは、それを彼は言いませんでしたが、BBCでは言ったのです。
彼は「対テロ戦争についてのアメリカの報道は、世界中の他の場所と比べて批判的なものが遙かに少ない」と言いました。彼はジャーナリスト達の間で疑うことが欠如していることに心を痛めていました。そして報道記者たちは怖じ気づいている、「自分もその内の1人だ」とも言いました。事実を報告する際にも、非国民のレッテルを貼られないように気をつけているのです。
ノーム・チョムスキー:もしダン・ラザーが非国民だとレッテルを貼られることに臆病だとするなら、彼は報道記者でいるべきではありません。それは(中南米で知識人などが)頭が吹き飛ばされることと比べれば、それほど恐ろしいことなのでしょうか?
もちろん悪口や名誉毀損や嘘に支配されるのはよくありませんが、仕事をするのであれば、誰でもこれを避けがたい人生の現実として考えなければならないのです。あなたは脅迫されていますか?
デビッド・バルサミアン:いいえ。
ノーム・チョムスキー:もしあなたが脅迫されたいのなら、「俺は臆病者だ」と言えばよいのです。もし脅迫されているなら、彼らはその業界にいるべきではないのです。
デビッド・バルサミアン:シェークスピアと大英帝国桂冠詩人ルドヤード・キプリングを混ぜ合わせると、「白人の負担を軽くせよ。戦争の犬(を解き放て)。平和という野蛮な戦争を(闘うために)」となります。ブッシュ政権のイラク政策において、「戦争の犬」を突き動かすのは何なのでしょうか?
ノーム・チョムスキー:これは我々がただ推測することが出来るだけです。我々はまだ内部証拠書類をもっていません。したがって、以下は単なる推測です。
彼らの主張は、サダム・フセインが米国や他国の安全保障への大変な脅威なので、彼を生き延びさせるわけにはいかない。我々米国は彼を先制攻撃で破壊しなければならない、というものです。
これは「いつ彼はそのような脅威になったのか?」という明白な質問を喚起します。上記のような主張は9月11日以降に出て来たのです。イラクを侵略すべしという要求は2年前にはなかったのです。
彼をひどい脅威だとする何かが起こったのです。彼は2年前よりも危険なのでしょうか。いいえ。彼は2年前より危険というわけではありません。
あらゆる努力をしても、フセインと9月11日との関連は何も発見されていません。サダム・フセインとビン・ラディンが永年の敵だったので、これは意外ではなく当然なのです。それが変わったと考える理由はありません。
しかし、もし何か関連があるのなら、9月11日以前よりも以後にその関連を主張するのはもっと難しくなるでしょう。簡単な理由は、それ以後、大量の監視機構が機能しているからなのです。そしてそれは単なる手始めなのです。
1990年、サダム・フセインは今日よりもさらに大きな脅威でした。彼のすべての大犯罪が彼の下で起こったことを覚えておいてください。クルド人の毒ガス殺人、イランイラク戦争、拷問、その他の犯罪。彼は第1級のギャングであって、今よりもずいぶんと強力でした。さらに、かつて彼が今より遙かに度を超えた状態だった時に大量破壊兵器を開発しました。
その湾岸戦争時以来、イラクは爆撃され荒廃しました。そして10年以上もの厳しい制裁措置を経験してきました。これらの結果、侵略を遂行する能力を大きく減じました。領空侵犯にも晒されています。規則的な爆撃が国の最良の部分を支配しているのです。
彼が本当に危険だった時に彼が行なっていたことは何でしたでしょうか。ボブ・ドール前大統領候補者は今や議会が攻撃を支持するように要求しています。サダムがほんとうに危険だった時に、ドールは何を行なっていたのでしょうか。
彼はサダム・フセインを訪問しました。1990年春、彼はジョージ・ブッシュ1世によって派遣された代表団を率い、サダムに挨拶を述べに行き、短波ラジオ放送局「ボイス・オブ・アメリカ」でサダムを批判している人物が、勝手な行動を取った「かど」で排除されたことを、サダムに報告したのです。
アラン・シンプソン上院議員はサダムにこう言いました。「サダムの問題は米国政府との関係ではなく米国メディアとの関係である。米国メディアは傲慢で甘やかされ勝手な振る舞いをしているのだ。議会の批判ですら無視すべきだ。ホワイトハウスは強くサダムを支持しているのだから」と。
これは単なる空論ではなかったのです。彼の最悪の残虐行為直後も、米英はイラクに気前よく援助を提供しました。イラクは主要貿易相手国でした。米英はサダムに大量破壊兵器開発の手段を提供しました。それには化学兵器と核兵器、ミサイルシステムも含まれていました。
サダムがどんな奴かは何の秘密もありませんでした。サダム・フセインは危険でしたし、大罪を犯しましたし、もっとひどい大罪を犯す可能性があった時もありました。「サダムが生きているだけで危険すぎる」と今になって言っている人々は、彼を支持し、彼がさらに危険になるのを助けていた人たちなのです。
この全ては1990年にサダムが米国に不服従の行動をとる直前のことなのです。1990年以後、彼は非常に良き友人かつ同盟国から、一夜にしてフン族のアッティラ大王の生まれ変わりに転身させられたのです。彼が脅威を引き起こすことを否定するものではありませんが、彼が引き起こす脅威のために戦争が起こると考えるのは困難です。
イラクの人々は彼がいなければよい暮らしが出来るでしょうが、それは今日よりも12年前の方がもっと真実でした。正確に彼の責任だという犯罪、すなわち自国民に化学兵器を使うようなことは、今では戦争の理由になり得ません。なぜなら彼がそれを行ったのは、米国が彼をどんな奴か知っていて支持していた時だったのですから。だとすれば、今の戦争の理由は何なのでしょうか。
証拠がないので推測するしかありませんが、2つのもっともらしい答えがあります。第1は、米国が力を見せつけたいということです。そしてその地域の人々がどうなろうとお構いなしだということなのです。それは「確立しつつある信頼性」と呼ばれているものです。我々米国が世界を動かすつもりであることを示さねばならないのです。そしてもし誰か、はみ出し者がいたら、たたきつぶすのです。我々米国はそうする力を持っています。そしてそうするのです。
第2に、国内の理由があります。大して秘密でもないのは、ブッシュ政権がここ米国の一般民衆に対して相当な攻撃を実行するつもりだということです。特に将来の世代に対して。金持ちへの巨大な減税は、主として次の選挙後に日程に上ってくるのですが、アメリカ人に甚大な打撃を与えるでしょう。巨額な赤字は1980年代に起こったのですが、全く同じことを再び行っているのです。目標は、医療や社会保障、インフラの開発、環境保護といった一般民衆のためのサービス供給を不可能にすることなのです。これは、政府が大規模資源を、狭い権力中枢に集中させることを保証し、ブッシュ政権が標準以上にもっと強力に機能するためのものなのです。
それは非常に広範囲で行われつつあり、彼らが決して望んでいないのは、民衆がそれに注意を払うようになることなのです。そんなことがどうしたら可能なのでしょうか。ここでゲーリングが言った様々な方策が一層の意味をもってきます。民衆が政府の政策に注意を払うようになるのを阻止する方法は、彼らを恐れさせることです。もし民衆が恐怖を感じ、救済者の保護の下に群がり始めたら、彼らに何が進行していようとも、恐らくさほど注意を払わなくなるでしょう。それは恒常的な戦争を意味しています。
大統領はそれを明らかにしました。彼のスピーチライターはそれをはっきりさせたのです。2週間前、彼は言いました。「戦争はテロに対するものである。が、我々は終わりなき戦争を戦っているのだ。我々はいくつの国をこの対テロ戦争で攻撃しなければならないのか言うことはできない。なぜなら世界中に潜在的な脅威があるからだ。」
それは本当です。例えばここ米国では重大で潜在的な脅威があります。炭疽菌攻撃を例に取ってみましょう。11月と12月には、それは9月11日よりももっと重大な脅威と考えられました。911以後に出版された最初の重要な著作は『テロの時代』という本ですが、そのほとんどは著名な大学教授たちによって書かれていて、その中で彼らは、炭疽菌攻撃は911よりもはるかに重大な脅威だと指摘しています。(炭疽菌攻撃は後に米国の連邦実験室が出所だと特定され、論評熱は下がりましたが。)
だとすれば、その学者たちの論法に従えば、我々は米国を爆撃すべきだ、ということになりますそれどころか、もし世界中から潜在的脅威を取り除こうと望むなら、世界を破壊しなければならないでしょう。ですから、もし潜在的脅威を減少させることに真剣に取り組みたいと望むなら、権力者の利益のために働いてはいけないのです。すべき事はテロの原因と理由を調べ、それを対処するようにつとめることです。テロ攻撃への正しい対応は、民衆に襲いかかり殺人することではなく、その背後にあるものを学ぼうとすることであり、その原因に対処することです。
デビッド・バルサミアン:作家ゴア・ビダルはマフィアを殺すためにパレルモ爆撃の類推を使いましたが。
ノーム・チョムスキー:あるいは、アイルランド共和国軍IRAが主としてロンドンを攻撃した時に、もし英国人がボストンを攻撃していたなら、どうでしょうか。そこから資金が来ていたのですから。
しかし英国人はIRAの苦悩の根元に対処しなければならないことを最後には悟ったのです。それはテロを正当化することではないのです。テロには普通、理由があるからです。それに対処しない限り、何処にも到達は出来ないのです。
イスラエルの秘密機関の長が最近、言いました。「もしパレスチナ人のテロに対して戦争を宣言するなら、永遠に続く戦争を宣言することになる」と。それは終わりなき戦争です。もしパレスチナ人のテロに対処したいと望むなら、パレスチナ人の正当な不満に対処しなければならないからです。すなわち、我々が彼らに自治を否定しているという事実です。
20年前、占領地でのイスラエルの残虐行為の初期、イスラエルがまだ占領地内部からの報復を受けていなかった時、諜報機関の元長官が本質的に同じ発言をしました。彼は言いました。「我々は決して蚊を殺せない。我々がしなければならないのは湿地を干上がらせることだ。」湿地は、軍事占領下におかれた民衆の正当な願望に対処し損ねた結果、生まれたものだからです。
デビッド・バルサミアン:イラク戦争の「犬」を突き動かしている背後のさまざまな理由を述べていただきましたが、その中に石油が入っていませんでした。ロンドンの『タイムズ』紙は7月中旬に次のようなヘッドラインを載せています。「西側は巨大油田に、輝く賞金を見ている」と。
その記事によれば、「サダム・フセイン大統領がいなくなれば、イラクの豊かで新しい油田を西側入札者に開放し、サウジ石油への依存を減少させる見通しが立つ。他のどんな国も、イラクほどは、未開発の油田を提供できない。その油田開発があれば、サウジアラビアに西側が存在していることによる緊張を低めることができる。」というのです。
実際、イラクは世界第2の油田をもっています。サウジアラビアだけがそれを超えて世界第1です。ある産業専門家は『タイムズ』紙にこう言っています。「世界中で何処を探しても、これに優るものはない。それは巨大な獲物だ。」と。
ノーム・チョムスキー:それは全てその通りです。この話題については過去に既に書きました。私が今日それに言及しなかった理由は、この時点での特定理由についてお話ししたかったからなのです。
石油に関する理由は背景的なもので、今なお存続しています。それは常に明白なことなのです。どうしたって、米国はこの膨大な賞金が米国支配になるように何かをしようとします。それは以前と同じように今日も真実です。
デビッド・バルサミアン:戦争の話を連発するのは、イラクについてだけでなく、あなたの言われるように、他の国も含めて、企業犯罪増加の波から民衆の意識をそらすなど、大衆の「気晴らし兵器」として役立つものと考えられます。
たとえば、エンロン社の会計スキャンダルや会長ケン・レイとブッシュとの関係、ケン・レイがハーケン・エネルギーの会長だった時の、ブッシュの金融取引、あるいはチェイニーの石油会社ハリバートンへの関与、(今ではブッシュ政権と契約して、グアンタナモ湾で刑務所建設までやっている)、あるいはイラクの石油が依然としてハリバートンによって米国に輸入されています。
戦争は、これらの事実から民衆の意識を逸らすためだと思うのですが。
ノーム・チョムスキー:そうです、それらから民衆の注目を逸らしたいのでしょう。しかし私の印象では、それらの企業問題よりも、医療や社会保障などの、一般民衆に対して行われている攻撃から、主として民衆の注意を逸らしたいということです。それは民衆のほとんどにとって上手く機能するための、社会の基礎を掘り崩します。その攻撃は金持ちには影響しません。それは民衆にとって小さな事ではありません。
デビッド・バルサミアン:ジョージ・オーウェルは、もっとも有名な小説『1984年』で、「記憶の穴」と「ビッグ・ブラザー(偉大なる兄弟)」のような表現・概念を導入しました。
オウウェルは書いています。「真理省は、輝く白いコンクリートの巨大なピラミッド構造で、白い表面には優雅な文字で、『戦争は平和だ』『自由は屈従だ』『無知は力だ』という党の3つのスローガンが読みとれる」と。
今日でも全く同じではないでしょうか、密室裁判、秘密の証拠、永続する戦争、政府による監視、これらはオーウェルが描いたのと全く同じ絵図ですね。
ノーム・チョムスキー:オーウェルは極端な全体主義国家を描き風刺しましたが、そうです、自由社会でもその断片を見つけられます。が、まさに、それが彼の意図したことなのです。その本はソビエト連邦よりももっと広範なものに当てはまる一種の寓話のつもりだったのです。
ほとんどの国で、911直後の影響のひとつは、自国民を叩きつぶす口実を政府に与えたことだったのです。政府は決して社会を自由にはしません。様々な方法で規律を課し、ここ米国ではもっと極端なやり方でそれを行いました。それでも、私はこれが主要な問題だと思ってはいません。
オーウェルの余りよく知られていない記事に話題を転じましょう。『動物農場』という本の公開されなかった序文です。そこで、彼は彼の言うところの英国の「文字検閲」について述べています。
彼は尋ねました。「自由な英国で、メディアから出るニュースが、全体主義の怪物の説明として私が風刺したものとまったく異ならないというのは、どうしてなのでしょうか」と。
彼は2つの理由に言及しています。ひとつは、出て来たニュースがみな同じなのは、裕福な人によって報道機関が所有されていること、そして彼らはある特定の考えを表明したがっている、そう、つまり自己検閲ということです。
第2の理由は、良い教育です。もしエリート学校で適切に教育を受けると、言わせたくない特定のことがあるという理解をひとは内面化することになります。それが「適切な教育」の効果なのです。これは学校だけを意味するのではなく、全システムを意味します。高度な教育を受ければ受けるほど、その価値はさらに内面化されるのです。そして自主的検閲へとつながるのです。
アフガンの主導的な反体制派(先述したことですが、彼らは米国に支持されていました)の爆撃にたいする姿勢、それに対する米国メディアの反応はどうだったのでしょうか。これらの反体制派は爆撃に反対していました。が、このどれほどが報道・印刷されたでしょうか。ほとんどゼロです。
9月11日以後、犠牲者へ恐ろしいほどの同情が集まりました。が、それにどう対応すべきかという問題がありました。『ギャラップ』が9月下旬に「米国はどう対応すべきか」という国際的世論調査を行いました。主要な質問事項は、「もし犯人の出自が明らかになって、彼らの拠点がわかったら、米国は武力に頼るべきか、あるいは訴訟手続きにはいるべきか」というものでした。
ほとんど世界中が圧倒的に爆撃には反対でした。ヨーロッパでは、それは3対1から4対1でした。米国による干渉・介入の最大の経験をした地域ラテンアメリカでは、爆撃への支持はほんの僅かでした。パナマでは、爆撃への支持が最大だったところですが、16パーセントで、80パーセントは訴訟手続きを要求しています。
世論調査した国で、例外が2国だけあります。インドとイスラエルです。ここでは爆撃支持はかろうじて過半数でした。しかし、それはアフガニスタンが自分の問題の代理であること、すなわちインドにとってカシミール、イスラエルにとってパレスチナは、米国にとってのアフガニスタンになると考えたからでありました。
米国の報道に上記の世界の世論がどれほど登場したでしょうか。全ての編集長は皆これを知っていました。あるメディア研究は、『オマハ・ジャーナル』の150語の報道が上記の世論調査の結果を誤って伝えていることを明らかにしました。政府はそれを公表してはいけないと命令したわけでもありませんでした。
しかし、これが一種の世論調査であっても、「世界は我々米国と共にある」と新聞のヘッドラインが言っている時には、全ての編集長は、そんな記事は印刷に回してはならないことを知っています。こんな例をいくつだって挙げるのは容易いことです。それはオーウェルの小説『1984年』に登場する「真理省」以上に重大なことです。
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