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金が米国大統領を決める
メヘル(Mehr)通信社によるChomskyインタビュー
テヘラン・タイムズ2004年10月11日
翻訳:寺島隆吉+寺島美紀子、公開2004年10月24日
メヘルMehr通信社:
米国大統領選挙が目前に迫ってきていますが、あなたは、その展望をどのように御覧になっていますか。
Chomsky
:
米国は恐らく世界で比類ない位に自由な国です。しかしまた異常な程度に高度な階級意識を持った企業部門によって支配された国でもあります。ですからアメリカの代表的社会哲学者デゥーイ(John Dewey)は、政治を「企業によって社会に投げかけられた影」であると述べています。それは決して誇張ではありません。2000年の大統領選挙の直前に、国民の大多数は選挙を自分たちの利益や重要事に関係ないものと見なして無視していました。なぜなら、それは富裕な選挙資金寄付者と宣伝産業によって演じられたゲームだと見なしていたからです。宣伝産業は候補者を訓練して「候補者の価値観」や「候補者の個性」に焦点を合わせ、国民が本当に関心を持っている問題から関心をそらすよう演説する訓練しているのです。
それに十分な理由があります。というのは、世論調査が示すとおり、多くの重要な問題に関して、上層階級と一般民衆の間には大きな意見の相違があるからです。したがって投票に行くのは富裕層に大きく片寄っているのです。そのことは何年も前に代表的な政治学者たちによって示されています。つまり、投票を棄権する人たちは米国人口の約半分にも達し、ヨーロッパで言えば、労働党や社会民主党に投票するような人たちに近いという社会経済的特徴を持ち、民衆は自分たちの気持ちを代弁してくれるような政党が米国にはないと民衆は感じているというのです。
今年の2004年の選挙では、いつもよりは危機感を持つ人が増え、選挙への関心は2000年により大きいことは事実ですが、相変わらず無関心が続いています。それは主として貧しい労働者階級に著しいものです。現在の選挙政治を調査・監視してきたハーバード大学の研究プロジェクトは次のように報告しています。すなわち「富裕層と最下層の間の、収入による投票率の格差は、西洋資本主義国の中では最大であり、しかもその格差は拡大しつつある」のです。
二人の大統領候補者の間には幾つかの違いはありますが、しかし、その違いは大きなものではありません。
特に外交問題においては殆ど違いがありません。しかし、巨大な権力機構においては、わずかな差異が、外交問題に関しても、また国内の問題に関しても、かなりの意味ある違い・結果を生み出すことがあります。
MNA
:
御存知の通り、米国の二大政党がお互いにイスラエル支持を競いあっています。前回の大統領選挙ではユダヤ人が民主党を支援したこと、また現在のブッシュ大統領によるイスラエル政策を見て、あなたは今後のユダヤ政策をどのように予測されますか。
Chomsky
:
強力なイスラエル賛成派の投票集団と資金提供団体があります。最も大きい投票集団は、断然に福音主義教会の信者たちであり、米国国民の巨大グループをなし、その宗教原理主義の規模において、また近年では選挙政治における役割において、他の産業社会とは完全に異なっています。その問題は議論を呼んでいますが、米国の対イスラエル政策は国内政治[すなわち宗教原理主義]よりも主として地政学的配慮・地政学的利害によって導かれていた、というのが私の見解です。
1967年に世俗的なアラブ・ナショナリズムの重要な中心地「ナセル(Nasser)大統領のエジプト」を破壊する際、イスラエルが米国(とサウジアラビアとイランの同盟国)のために莫大な貢献を行って以来は特にそうでした。今では、イスラエルは米国の海外軍事基地も同然の状態になっているだけでなく、米国経済と密接に連結した「先端技術および金融のセンター」となっています。多くの点でイスラエルの国内の状態は米国に酷似してきています。
米国国民の大多数は、二大政党制に反対し、極端な「イスラエル支持」に反対しています。実際、「イスラエル支持」は私の意見ではイスラエル人にとっても非常に有害なものです。また米国国民の大多数は、「国際的境界線にもとづく二国家共存方式による間解決」という圧倒的な国際的合意をも支持しています。しかし、これらの世論はほとんどはっきりとはメディアの話題にはならず、そして最も重要な世論調査は報道すらされませんでした。これらの見解に関係する団体はほとんどなく、したがって、そのような見解は決して選挙の争点にはなりません。
MNA
:
米国大統領は、アフガニスタンとイラクで任務を完成するのに任期のもう4年の期間を必要とすると最近発表しました。彼はまた、イラン問題に断固として取り組むであろうと言いました。中東問題、特にパレスチナ問題に直面している「次期の政府方針」について
どのように評価されますか。
Chomsky
:
アフガニスタンとイラクでの米国の任務は、永続的なものを意図しています。「任務完了」とは、必ず民主主義という公式の虚飾を伴ってはいますが、米国の支配下にあり、主要な米軍基地を持った従属的国家を設立することを意味します。それには第一にペルシア湾の莫大なエネルギー資源の支配し、第二には中央アジアを支配し、その支配権を維持することが狙いです。
それは、英国の初期帝国主義の時代から、イランでも、そして中米その他の米国の伝統的な支配地域では、よく知られている事実です。米国はどうにかしてイランをこの支配システムへ入れるつもりなのです。幾人かの学者が信じているように、おそらくイラクの内部破壊を支援することによる政府転覆でしょう。
パレスチナ人は米国に提供すべきものを何一つ持っていません。彼らは、富も力もないので、何の権利も与えられないのです。これは権力政治の最も初歩的原理です。米国政治的指導者の側が、こうした姿勢を最近になって露骨に表明した例は、イスラエルの分離壁に関する国際司法裁判所の裁決に対して彼らが示した反応でしょう。
分離壁に対しては、実質的には満場一致の判決でしたが、米国の判事だけが反対しました。しかし、その根拠たるや、手続き的問題に関する枝葉の理由だけでした。しかし他方、その米国判事は国際司法裁判所裁判所の基本的結論は受け入れました。それには占領地および入植の不法性に対するジュネーブ協定第四条の適用が含まれています。
しかし、多くの他の問題に関して過去に起こったのと同じように、米国民衆の間の教育的かつ組織的活動に何らかの前進がない限り、それは米国の政策に何ら影響を与えないでしょう。私が付け加えなければならないとすれば、パレスチナ人とアラブ諸国家の指導者たちの悲惨な失敗です。彼らは、やれば出来たにもかかわらず、この過程が進展するよう何の手も打たなかっただけでなく、その重要性を認識すらしていないように思われました。
イランについて言えば、御存知のように、米国は少なくとも100機以上の最新鋭ジェット爆撃機F16-Iを、お得意先のイスラエルに供給しています。これは空軍を補完するためですが、イスラエルの軍事アナリストが既に述べているように、米国を除いてNATOの中のどの大国よりも巨大であり科学技術的にも進んだものです。これは、米国‐イスラエル軍事同盟のおかげなのです。イスラエルは、それ自体では限られた資源しか持たない小さい国です。
新しいジェット爆撃機は、イランを爆撃して戻ってくる能力があると公然と宣伝されています。『イスラエル(ヘブライ語)新聞』によれば「特別な武器」(それが何の意味なのかは発表されていませんが)を備え付けられているというのです。これらすべての発表が(米国では発表されていませんが)イラン情報局の耳に届くように、わざと行われていることは確実です。その目的は容易に推察できます。
MNA
:
中東、特にイラクで進行中の米国の問題を考慮すると、次の大統領の選挙について有権者はどのように行動するでしょうか。米国の市民は、難局にある時に、大統領を変えることに賛成投票をするでしょうか。
Chomsky
:
今のところ、世論調査では互角です。通常、米国大統領選挙は、資金調達の水準によってかなり予測可能です。その資金は圧倒的に非常な富裕層と企業から来ています。
初期段階で、ブッシュはかなりリードしていました。彼の政府が非常に少数の富裕層と企業権力に惜しまず与えた莫大な贈り物の観点から見れば、それはなんら驚きではありません。しかしながら、資金調達力の違いは過去数ヶ月でかなり減少しました。それは明らかに、ブッシュ政権政策立案者達の並はずれた無能力さとエリート中枢部の利益に与えた損害についての、エリートの間の懸念を反映しているのです。
選挙は、いつものように国民の主要な関心事を回避しています。ほとんど人々は、自分たちに関わる問題について各政党がどのような提案をしているか知りません。宣伝キャンペーンは候補者の「力」「リーダーシップ」「個性」だけに焦点を合わせ、大衆に政策選択をさせないようにしています。非道く蝕まれた民主主義文化においては、政策選択は大衆の任務であるとは考えられていないのです。
MNA
:
大統領選挙での民主党勝利は「偉大なる中東」を主導する方向に影響を及ぼすでしょうか。
Chomsky
:
美辞麗句を除けば、「偉大なる中東を主導する」という点で何の違いも前進もないでしょう。彼らの最大の関心事は、この一世紀近く、何も変わっていません。とりわけ第二次世界大戦以後、それは非常に明瞭になっています。なぜなら、それ以来、米国政府はペルシア湾領域を「戦略的パワーの驚くべき資源、政界史上で最大の物質的賞金のひとつ」「世界的影響力と支配力に関心をもついかなる権力にとっても極めて重要な賞金」であると認めているからです。その言葉は、かつて支配的権力であった英国が1947年にその地域について述べたものですが。
その言葉は、その当時よりも今日のほうが更に真実みがあります。我々は、常に美辞麗句と政策を注意深く区別すべきです。ヒトラー、スターリン、その他の最も恐ろしい犯罪者ですら、同じような、全く高貴で心を高揚させる美辞麗句を必ず使います。美辞麗句は何も情報を提供しません。それは完全に予想どおりのことしか述べていないからです。従って世界を理解したいと望む人々は、そんなものにはほとんど注意を払わず、その代りに、候補者に一貫した実践があるか、彼らの政策が制度上の裏付けを持つか、に留意するでしょう。
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