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イラク爆撃
この行動は無法の世界を求める要求である。
大国が支配する無法の世界を。
'This action is a call for a lawless world
in which
the powerful will rule'
FRONTLINE
インドの国民雑誌
From the publishers of THE HINDU
Vol. 16, No. 01,
Jan. 02 - 15, 1999
ノーム・チョムスキーとのインタビュー
マサチューセッツ工科大学の大学教授ノーム・チョムスキーは、現代言語学の創始者で、戦後世界における最重要な学究的知性的人物のひとりです。
彼はまた、おそらく米国の戦後外交政策の最も急進的な批判者でもあります。
彼の恐れを知らない批判は、詳細な文書調べや分析によって、いつも証拠立てられています。
マサチューセッツの家からの電話による、ラマチャンドランV.K..Ramachandranとのインタビューの中で、チョムスキーは詳細に、イラクに対する米国と英国による軍事攻撃と米国の対イラク政策の戦略的背景について話をしています。彼はイラクへの爆撃を戦争犯罪として特徴付けています。
抜粋:
国際法と爆撃理由
Frontline:
米国はイラクを爆撃した理由を次のように述べました。
「イラクは大量化学兵器を製造し、近隣諸国や世界に特別の脅威となっている。特にその指導者が脅威である。そしてまたイラクは、UNSCOM(国連大量破壊兵器廃棄特別委員会)に協力することを拒否した。」
米国による最近の軍事行動への正当化とその行動の合法性について、あなたのご意見をお聞かせいただけますか。
Noam Chomsky:
サダム・フセインが、その力の及ぶ範囲の、誰にとっても大きな脅威であることは、私も同意します。それは、彼がクルド人虐殺という最悪の犯罪を犯した1980年代も同じことでした。
しかし、そのことが米国と英国が彼に反対している理由ではあり得ないことは、初歩的な論理です。なぜなら80年代における彼の戦争犯罪は米国と英国の強い支持のもとで行なわれたからです。
これは、クウェートへの侵略の後でさえ同じでした。その上、米国は1991年3月に即座にサダム・フセインへの支援をするようになりました。なぜなら、この時、フセインの支配を覆してしまったかもしれないイラク南部での暴動を、アメリカが抑圧したからです。
彼の大量破壊兵器に関しては、その脅威は本当のことですが、イラクだけがそのような武器を持っている唯一の国ではありません。イラクからそんなに遠くへ行く必要はありません。どちらの方向に行っても、そのような国の、他の例を見つけることができます。
もちろん、この点については、米英などの大国が最悪の脅威ですが。
しかし、もし単にイラクに焦点を合わせても、爆撃は大量破壊兵器を制限することと何の関係もあり得ないのです。なぜなら、事実は、爆撃がその大量破壊兵器製造のプログラムをさらに拡大してしまう可能性が極めて強いからです。
唯一の(大量破壊兵器製造の)制限は、定期的な査察です。これは今までにもありましたが、効果的な制限となっていました。イラクの核兵器開発プログラムは明らかに減少し、ゼロか、もしくはゼロ近くまでになったのは、この査察によるものです。
UNSCOM(国連特別委員会)の査察員の仕事は、爆撃によって妨げられたことは明らかですが、それでもイラクの武器開発能力を厳しく制限し、大量の兵器を破壊しました。
米国自身によっても、一般的に推測されているように、爆撃の結果、UNSCOMの努力が、終了に追いやられたり、周辺に追いやられたりすることになるでしょう。したがって、イラクの大量破壊兵器は爆撃の理由にはなり得ないのです。
サダム・フセインが平和への脅威であることは、私も同意しますが、その問題を扱う方法はあります。その方法は国際法のもとで確立されたものです。その手続きは国際法と国際秩序の基礎であり、また米国の国の憲法でもあります。
もし、ある国、たとえば米国が、平和に対して脅威があると感じるならば、それは安全保障理事会と交渉することになります。安保理がそのような脅威に対応する唯一の権限を持っています。平和への脅威に対処するための、あらゆる平和的な方法を追求することを、安保理は求められています。
そしてもし、そのような方法が失敗したと確定したならば、安保理はその時に武力の行使を認めるかもしれません。国際法のもとでは、これ以外のことは何も許されていません。但し、ここでは関係ありませんが、自衛の問題に関しては別です。
米国と英国は、自分たちが暴力的な犯罪国家だということを、非常に明確に声を大にして発表しているだけです。なぜなら、国際法の構造、長年の間に苦心して作り上げられた構造を完全に破壊することに集中しているからです。
米国と英国の声明では、自分たちは好きなように行動し暴力を使うつもりだと言うのです。他の者がどのように考えようが構わないと言うわけです。私の意見では、それが爆撃の唯一の意味であり、おそらく、それがイラクを爆撃する唯一の理由です。
この立場を明確にするために、爆撃のタイミングさえも選ばれました。その爆撃は、米国の東部標準時間のちょうど午後5時に始まりました。これは、イラクで持ち上がってきた危機を論じるために安全保障理事会が緊急会議をちょうど開いた時のことでした。
米国は戦争犯罪を開始するのに、その瞬間を選びました。安保理に通告することもなく、イラクに対する侵略的な不法軍事行為を開始したのです。それは確かに意図されたことであり、安全保障理事会への軽蔑のメッセージとして理解されました。それは実際、米国が湾岸戦争から得た、もう一つの特筆すべき教訓でした。
そのことは、バグダットにミサイルが落とされた時、ジョージ・ブッシュによって大変に明確に説明されました。そのとき彼は、4つの簡単な単語で、彼の有名な「新世界秩序」を発表したのです。「我々が言うとおり物事は進む」(What we say, goes)そして、それを好まないものは排除するのみ、というわけです。
この状況のさらに不吉な側面は、米国では完全に、そして英国ではかなりの程度にまで、何の批判もなく事が進行したことです。それどころか、一般の人々がそれに対して何も気づかないうちに事は進行しました。
というのは、この爆撃に関しては、主流のメディアでは、あるいは、教育分野の議論で、たった1語しか見つからないからです。しかも、その議論では、国際的にも国内法の原理を遵守することは米国にとってはよい考えであると提案されていました。
米国では、この問題が取り上げられることがあっても、それは世の中の片隅で起きていることであって、それは専門的事項として退けられているのです。犯罪国家にとっては、それ(国際法を遵守するか否か)は専門事項かもしれません。
しかし、他の国にとっては、それは専門的な事項ではありません。それは殺人を禁止する法律が専門的事項でないのと同じことです。この行動は実際、大国・強国が無法の世界を求める要求です。大国・強国が支配する無法の世界です。
ここで大国・強国というのは、米国や英国です。ただし英国は、現在では独立国家の見せかけも放棄してしまった哀れな子犬です。
石油資源と爆撃理由
Frontline:
今回、宣言された攻撃目標は、対象が限定されず無制限なものでした。「イラクにおける諸施設の機能を弱体化させること」、そしてサダム・フセインに「強力なメッセージ」を送ることでした。
それだけでなく、今回の攻撃は、米国はある状況のもとでは、「遅滞なく、外交もなく、警告もなく、」イラクを攻撃する権限を持っているのだ、という脅迫をイラクに与えるためでしたね。
Chomsky:
戦争目的を「諸施設の機能を低下させる」ことだと宣言しているということは、それが真の戦争目的とは無関係だということをわざと示すために意図されているのです。
なぜなら、「諸施設の機能を落とす」ことに成功したのかどうかの尺度は何もありません。もし、あなたがピストルでひとつの建物を撃つならば、あなたはその施設の機能を落としたことになります。
それは無意味な戦争目的であり、そのことは自分でも分かっているのです。それは戦争目的では全くないということを意味しています。つまり本当は別の目的があるのです。侵略行為を実行するとき、あなた方は無意味な戦争目的を持つことはできないからです。
あなたが指摘した「警告」は米国の本当のメッセージを繰り返しています。すなわち、米国は好きなように軍隊を使う権利があるし、そのように行動する決意だということを伝えたいのです。これは何も初めてのこではありませんが。
これについては何も目新しいものはありません。しかし、今や異常な厚かましさで、そのことを宣言しているのです。しかも、それは知識人の間における完全な沈黙のもとで宣言されているのです。
そのメッセージは、それが送り届けられている地域では理解されつつあると私は確信しています。私の意見では、そのメッセージはかなりの部分まで、その地域(アメリカが石油の利権をもつ西アジア)の国々に届いていると思います。
この背景には、疑いなく決定的な問題があります。西アジアを外部から狙う大国の主な関心事は、石油すなわちエネルギー生産だということは、誰の目にも明らかです。
第1に、地質学者の間における共通認識に寄れば、世界は深刻な石油危機に向かって進んでいる可能性が現在あります。新しい技術を使って深海を掘っているにもかかわらず、石油発見の割合は1960年代ごろから低下してきました。
10年か20年の内に、マジック・ハーフウェイ・マーク(つまり、世界で知られている、開発可能な炭化水素エネルギー資源、の半分が破壊されたことを示す印)まで、石油は使い尽くされ、その後、石油使用可能量は下り坂に向かいます。
第2に、石油使用の割合は加速し続けています。今までの歴史の中で、石油全体の使用量のほぼ半分が、ここ20年間のものです。すなわち、石油価格が上がってから後の20年間です。
第3の決定的な点は、世界の石油資源の実質的な部分は、アラビア半島―ペルシャ湾地域にあるということです。他の場所にある石油資源は、それほど豊富でもなければ、今のところ開発可能なものでもありません。
世界全体の石油生産における西アジアの石油占有率は、10970年頃の状態に戻りつつあり、今後その占有率は増加するでしょう。戦略的中心として、世界情勢を支配する手段として、この地域の重要性は、ますます増加していることを、そのことは意味しています。
そこは不安定な地域であり、重装備されている地域です。なぜなら、その地域は多くの紛争を抱え、大部分の人々は様々な方法で残酷に抑圧されているからです。
過去50年間、米国はその地域を、英国の支援を得ながら、管理することに決めていました。そこでは他の誰も、いかなる重要な役割を持つことも想定されていません。
特にその地域の人々は、自分の国なのに、そこを自分で管理・運営できないのです。このすべてのことが、この地域で非常に不安定な状況を作り出しているのです。
現在の同盟システムは、米国の利益のために、西アジアの石油を支配しようとするものですが、はっきりと目に見える形では、トルコとイスラエル同盟を含み、またパレスチナ指導部も含んでいます。
いわゆる西アジアの「和平プロセス」は、米国とイスラエルが、ある種の「バンツースタン式植民地」をパレスチナ人に押し付けることによって、パレスチナ問題を解消しようとするものです。
この中で、パレスチナ指導部は、パレスチナ人を支配し抑圧する役割を持っています。これは、アパルトヘイト下での、トランスカイTranskeiのような国々における指導部者の役割と同じです。
米国中央情報局CIAは、直接に公然と「パレスチナーイスラエル問題」に関与しているのです。
この地域の他の国々は、このような支配形態を好んでいません。エジプトとサウジアラビアとイランとシリアは、これに逆らうある種の体制に向かって歩んできています。
米国は非常に懸念しています。特に、サウジアラビアとイランの発展しつつある関係を懸念しています。この2つの国は、歴史的には、ずっと敵対関係でしたが、友好関係へのたいへん注目すべき段階を作りつつあります。
米国が、イラク問題だけでなく、イランの問題でも国際的には孤立していることを思い出すことは価値あることです。
イランを国際システムに戻すことについて、米国とヨーロッパの間では軋轢が増えつつあります。ヨーロッパと日本は、イランを国際システムに戻すことに強く賛成していましたが、米国は反対していました。
もし更に、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプトが、イランとの関係改善をするならば、将来的には米国にとって脅威となるでしょう。
軍隊と暴力の使用は、これらの国々に対する警告として意図されていました。これらの国々は、これ以上の関係改善に進みすぎてはならないという警告です。米国は必要ならば極端な暴力をもって行動するので用心しろと脅迫です。
私の意見では、スーダンと2,3ヶ月前のアフガニスタンの爆撃は、同じメッセージを送るためのものだったのです。スーダンの場合は、(アフガニスタンに比べ)さらに露骨な戦争犯罪でしたが。
今年(1999)の早い時期に、そのような計画に関する高度機密文書が情報公開法で、公表されました。ここではあまり知られていないのですが、たいへんに興味深いものです。
それは米国の戦略指揮に関する秘密研究(1995年)です。その戦略指揮は核兵器の貯蔵に関して責任を負うものでした。その研究は「冷戦終了後の戦争抑止の本質」と呼ばれています。
ニクソンの「狂人の理論」をあなたは覚えていますか。その理論は、米国は「狂って、誰とでも戦う男」のような危険な国だ、と相手に思わせなければならないと、提案しています。
この文書はその理論を復活させています。この文書は次のように述べています。
「もし死活的権益が攻撃されるならば米国はその核兵器を使うべきだ。そうすれば相手は米国を理性のない執念深い国と描き、恐怖するだろう。
それは、すべての敵に対して突きつける米国の仮面であるべきだ。それは、米国を十分に合理的で冷静な国家として描くことを妨げる。
米国政府の要人には狂って制止できなくなるものがいる、と他国に思わせることが、敵の政策決定者の心に恐怖と疑惑を作り出し、それを強めることに効果がある。」
このニクソン理論は非公開のものでしたが、これが95年戦略命令の公式計画文書であることを思い出して下さい。米国がやっていることをマスコミは知っていたと私は思います。米国が基本的にそれを秘密にしていた時でも。
その文書は、結局は公開されて、米国の現在の行動の興味深い背景を教えてくれました。
安全保障理事会における米国
Frontline:
この時期には米国は、国連の中で前の時に得たような支持を集めることができなかったのは、面白いことですね。
Chomsky:
この何ヶ月もの交渉を回想してみて下さい。
ドイツと日本は最初、アメリカの軍事行動に反対していました。ドイツと日本の軍隊は徐々に編成され、アメリカ寄りに進みましたが、決して軍事行動に参加はしませんでした。彼らが快くやったことは、その軍事行動に資金を提供することでした。
その地域の国々(中東の国々)の態度は、とても複雑なものでした。これらの国々は実際、彼らの軍隊を編成しました。(例えば、イエメンは、もし行動をともにしなければ深刻な経済制裁をする、と脅されました。)
最後に投票がありましたが、それははっきりしない投票で、付随的に言えば違法の投票でもありました。なぜなら、中国が棄権したからです。軍事力の使用への支持は、安保理における満場一致でなければならないのです。
だから、ある種の支持があったとしても、世界のかなりの部分は、アメリカのために自分達は紛争に巻き込まれていること、「交渉による解決」の機会があるということ、それを米国が避けようとしていること、を知っていました。
その後引き続いて、米国が行動をとるたびに、その支持はさらに減っていきました。現在、サウジアラビアは米国の軍用機がその飛行任務を行なうために、国内の基地を使うことを許さないでしょう。今度ばかりは、クウェートでさえも米国の行動を支持しないでしょう。
その地域の人々は、もちろんいつも米国の政策に反対しています。1991年のイラク攻撃の時もそうでしたが。
米国と国連事務総長コフィ・アナン
Frontline:
そして、国連事務総長コフィ・アナンは、1991年の国連事務総長ペレ・デ・クレアルよりも、イラク問題については、はるかに積極的な役割を果たしてきましたね。
Chomsky:
コフィ・アナンは、米国のメディアの中では、かろうじて引用されています。あなた方は、あちこちで彼の文を2,3個は見つけるでしょう。
しかし、そのメッセージは十分に明確です。アナンはそれを国連と世界にとって「悲しい日」と呼んでいます。彼は避けられているのです。
米国は国連が関わってくることを望んでいません。なぜなら、国連では米国は支持を得られないことを知っているからです。先ほど述べましたように、爆撃のタイミングは、コフィ・アナンと国連にとっては顔面に平手打ちをくわされたようなものだったのです。
はっきりは言えませんが、リチャード・バトラーは彼の報告を安全保障理事会に送る前に、直接ホワイトハウスに送ったようです。また、国連の高官からも匿名の報告がありました。バトラーの報告はホワイトハウス関連のものだったという報告です。(私はそのことについて知りませんが。)
クリントン政権の公式発表では、クリントンは国連の開会前に爆撃の計画を始めました。なぜなら、既にその「報告」を手にしていたからです。もちろん、その「報告」は全く不適切なものでしたし、国連特別委員会UNSCOMの指導部がクリントン政権と歩調をあわせて仕事をしているという事実をはっきり示しています。
爆撃のタイミング&クリントンへの弾劾手続き
Frontline:
「攻撃のタイミング」の別の側面、すなわちクリントン大統領は彼の不倫疑惑に対する弾劾手続きを遅らせるためにイラクを攻撃しているという広く行き渡った確信について、議論していただけますか。
Chomsky:
そのように広く思われていますが、それはとても信じがたいことだと思っています。
もしあなた方がそれについて考えるとすると、タイミングの一致はただクリントンを傷つけるだけですし、彼の信頼をさらに損なうだけです。
クリントンへの信頼はもともと低いものですが、彼に対する弾劾尋問を1日だけ遅らせる試みとして爆撃が使われることは、クリントンを馬鹿馬鹿しい人間に見せるだけになります。
一方、タイミングの一致について顕著なひとつの特徴があります。弾劾についての議会の討論は、共和党と民主党の両者にとっては全く皮肉なことでした。
なぜなら、共和党と民主党は、原則については全く問題がないことを明らかにしていたからです。それは、票決が純粋に党の政策に基づいている、という事実からも明白です。
原則の問題については、民主党と共和党の間に明確な違いは見つけられません。それは政党としては異様なことです。彼らは多かれ少なかれ大抵の問題では同じで、どのような原則問題も決して彼らを政策で分けることに結びつきません。
将来の政治的なキャンペーンを作るために、民主党はタイミングの一致問題を逆用しています。次のキャンペーンで、次のような言い方を民主党は取るでしょう。
つまり「我々の勇敢な息子たちや娘たちが国を守るために戦列に命を差し出している時に、邪悪な共和党は指揮官を攻撃した」というわけです。
要するに、タイミングの一致は、その時には、クリントン個人には有害だったのでしょうが、民主党の宣伝広報活動の努力にとっては、逆に役に立つものでした。
アメリカによる、軍事と外交の両刀使い
Frontline:
爆撃を中止した後には、次のような趣旨の声明がありました。一方では、米国は再びいつでも攻撃する権利を取っておくが、もう一方では、次の局面は多分に外交的な局面であると。
Chomsky:
米国は簡潔に述べています。米国が関係する限りは、すべての選択肢が開かれており、他の何も問題となることはない。
つまり、国際法も国際司法裁判所も国連も、その地域の国々や人々の意見も、決して問題になることはない。
もし外交が我々の目的に役立つならば、我々は外交を使うし、もし軍隊が我々の目的の役に立つならば、我々は軍隊を使う。
イラクへの経済制裁について
Frontline:
爆撃はイラクの産業経済基盤をさらに粉砕しました。最近のイラク経済は、明らかに人間発達を破壊する歴史だったし、健康や栄養や教育といった、初期に達成した成果を著しく後退させる歴史でもありました。
マドレーヌ・オルブライト国務長官は、イラクにおける数十万の子どもたちの死に対して、米国は「いかなる責任も認めない」と言った、と報じられています。
またトニー・ブレアはイラクの「栄養問題」(これは引用ですが)は、経済制裁の結果ではないと述べています。
このことについて論評してもらえませんか。あなたの認識では、イラクへの経済制裁はどれくらい続くのでしょうか。
Chomsky:
トニー・ブレアは口を開くたび、気分の悪くなるこっけいな表情をしています。そして彼のやったことはと言えば、英国の歴史の中に痛々しい恥ずべき日々を記録しただけです。
マドレーヌ・オルブライトに関しては、彼女の何年にもわたるコメントは米国の行動の道徳的レベルを明確にとらえてきました。
1996年、全国ネット放送の「60分」というテレビ番組のインタビューアーは、50万人のイラクの子どもたちが制裁で死んでいった、という国連のレポートに対する彼女の反応を聞きました。
彼女の答えは「まあ、これは私たちが進んで支払っている犠牲です。」でした。だから私達は、死んだイラクの子どもたちの犠牲を、進んで生み出しているのです。
つまり、私達は大虐殺を実行しても気にしない、というわけです。その死は、まさに一種の「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼べるものだ、と私は思います。
現在の状況を見てください。一時的な石油の過剰供給があり、価格は非常に低くなっています。そのことはエネルギーの大企業には有害です。その大企業は圧倒的に英国と米国のものです。
米国政府は石油価格がこれ以上、下がることを望んでいません。なぜならば、米国の経済は他の国々から再循環してくるオイル・ダラーにたいへん依存しているからです。このオイル・ダラーは米国の「国庫の担保」や「武器の購入」「建築プロジェクト」などに行きます。
ですから米国は石油価格が上がると喜びます。イラクの石油が市場に出回ることは望んでいないからです。したがってアメリカは、喜び勇んでイラクのバスラ製油所に爆撃をして石油の輸出を引き止めているのです。
その上、遅かれ早かれ、イラクは(国際)システムの中に戻されるでしょう。イラクは世界で2番目に大きな石油の埋蔵量を持っています。石油不足が進展し、価格が上昇し始め、米国と英国はイラクを国際市場に戻すでしょう。
しかし、彼らには問題があります。過去何年かの出来事のために、彼らの競争相手のフランスとロシアは(またイタリアも)現在、イラクの石油生産について国内の運送通路があります。米国と英国はそのようなことは耐えられないでしょう。
なぜなら、イラクはあまりにも豊かな石油資源をもっているので、それが競争相手のフランスやロシアの手中に落ちることを許すことはできません。ですから幾つかの複雑な策略を講じなければならないでしょう。
米国と英国はその目的を達成するために十分な軍事力を持っていますが、それは容易ではないでしょう。それが、米国と欧州連合(EU)の間の別の潜在的な矛盾です。(私がEUについて話す時、私は英国を除外しています。なぜなら、英国は米国の従属国だからです。)
そのような比較的長期の問題は脇に置いておいて、制裁はどのくらい続くのでしょうか。米国と英国が、イラクの人々は罰せられるべきであり、イラクの石油は市場から遠ざけられなければならないと主張する限り、その制裁は続くでしょう。そして、米英が世界で超大国であり、他国の軍隊が反撃できない限りは、その制裁は続くでしょう。
イラクに対する国連査察問題
Frontline:
イラクは「大量破壊兵器国連特別委員会」UNSCOMに協力していないので制裁は適切であるというのが、公式の説明であるようですが。
Chomsky:
それは口実であり、しかも悪い冗談ともいえます。なぜなら米国は国際法が命ずる事柄に全く協力していないからです。
そういうことから言えば、米国に対する制裁も提案されるのでしょうか。そのようなことはあり得ないことです。
Frontline:
イラクの苦しみに対する米国の世論の相対的な無感覚は、全く並外れたものですが、イラクに対する米国の政策は、世界のどの場所でも、他の国でなら、結局、通用しないものですね。
Chomsky:
ひとつには、米国の大衆はそのことについてあまり知らないのです。メディアによって大衆に提示されている情況は、サダム・フセインはアッチラのフン族以来の最悪の人物であるということだけです。
もし路上であなたが人に尋ねると、その返答は、フセインはイラクの人々を苦しめているので、米国はイラクの人々を救うためにあらゆる手を尽くしてフセインを取り除こうとしているのだということになるでしょう。
そして、もしイラクの人々が殺されれば、それはサダム・フセインの罪です。すなわち、「フセインは、なぜ私たちが彼に言ったとおりのことをしないのか」というわけです。
もう一方では、米国のあらゆる所で多くの抗議行動があります。それらは小さなもので、大規模に組織化されていませんが、非常に多くの抗議行動があります。
ですから、アメリカによるイラク爆撃や経済制裁が「人間の発展に関わる唯一の大惨事で、かつ米国で全く注目を呼んでいない事件である」というわけではないのです。
1980年代に、南アの周辺諸国で、およそ150万人の人々が南アフリカの指導部によって殺害されました。しかも、それは米国と英国に支援されたものでした。
今日では、歴史上最悪の人類の発展にともなう大惨事は、ロシアで起きています。「市場経済の重荷の結果、何百万の人々が死んだ」ということを誰が知っているのでしょうか、誰も知りません。
人々はそのことも気にしていません。米国の政策は定義によれば「慈悲深いもの」なので、市場経済の重荷の結果、ロシアで何百万の人々が死んだとしても、それはロシアの罪でなければならないのです。
イラクの反対制派とアメリカ
Frontline:
現在、米国は、「イラクの反体制派との約束を強化する」ことを提案しています。これはあなたが話された「より大きな戦略目的」の一部だとお考えになりますか。
Chomsky:
そのことについては、とても注意する必要があります。米国はこれまでイラクの反対制派に強く反対をしてきました。1988年、サダム・フセインが米国の大きな友人であり同盟国だった時、米国はクルド人に対する毒ガス攻撃への批判を阻止し、イラクを擁護しました。
私と話したイラクの野党指導者によれば、その当時、ジョージ・シュルツ国務長官は米国の外交官にイラクの反体制派と接触をしないように命じました。というのは、そのようなことは米国の友人サダム・フセインを悩ませることになるだろうから、というのです。
これらの命令は適切に残りました。そして、1991年の3月すなわち湾岸戦争の後でも、これらの命令は正式に公けに繰り返されました。つまり、この間、米国はサダム・フセインによるイラク南部シーア派の大量虐殺を黙殺することで間接的にフセインを支持したのです。
米国は反対派のイラク軍人と一緒に事を進めることを探ってきました。その考えは、クーデターを起こさせることでした。そのクーデターによって、多かれ少なかれ同じような体制に入れ替えるものでした。ただしサダム・フセインを抜いた形で。
そのような努力は、イラク人の諜報活動によって貫かれてきましたが、今のところ失敗に終わっています。民主的なイラクの反対派自身も今日まで、米国からは実質的な支援は受けていないと主張しています。そのことは、ちょうど2日前、オルブライト国務長官によっても認められています。
このことを尋ねられて、彼女は言いました。「現在、我々は、もしイラクの人々が本当に自分たちを代表する政府を持つならば、彼らは利益をえるだろう、という決定に到った」と。彼女は1998年12月に、そう言いました。
その時になって初めて、突然、改宗した米国は、イラク人が自分たちを代表する政府を持つならば、彼らは利益を得るだろうと決定したのでした。このことは、米国が現在に到るまで、その正しい立場を取ってこなかったことを意味しています。
現在に到るまで、米国の立場は、「イラクの人々は鉄の拳の軍事政権によって支配されなければならない」というものでした。ただし、サダム・フセインは厄介者なので、可能ならば、彼抜きの軍事政権によって、ということです。
しかし、私たちはオルブライト国務長官の言葉を真に受けていいのでしょうか。また、米国の改宗・政策の変更は本当に起きたのでしょうか。いや、戦略を除いては、何かが変わったということは全くありそうもないことです。
米国は民主的な反対派がイラクで力を得ることは望んでいません。それは、サウジアラビアで同じようなことが起きるのを米国が望まないのと同じことです。米国は、これらの国々が、米国の言いなりになる独裁政権によって支配されることを望んでいるのです。
イラクの民主的反対派については、その運動に仕方について批判すべきことは多くあります。しかし、彼らがそれほどバラバラになってお互いに争っている理由の一部は、彼らが外部から支援を受けていないということです。それは驚くべきことではありません。
世界のどこで米国が民主的反対派を支持するというのでしょう。米国は世界のどこでもそんなことはしません。中米やアフリカで、米国がどのように振舞っているかを私たちは良く知っています。イラクが中米やアフリカと違った事態になるとは、とても考えられません。
(翻訳:寺島隆吉+岩間龍男)
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