マイケル・ムーア
オスカー賞授賞式での、僕のスピーチに対する反響
2003年4月7日
『アホでマヌケなアメリカ白人』が再び第1位に
『ボウリング・フォ・コロンバイン』が新記録に
オスカー賞授賞式のステージでブッシュとこの戦争に反対意見を述べて以来、僕の状況がどのようなものだったのかを、以下に説明するので、それをあなた方に理解してほしい。そして以下の、僕が言おうとしていることを読んで、自らに開かれている公開討論の場であれ、他のどんな方法であれ、あなた方が声を上げることの、ほんのわずかな励みにでもなればと僕は期待している。
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(翻訳:寺島隆吉+岩間龍男+寺島美紀子)公開2003年4月21日
親愛なる友人たちへ
ブッシュ政権はこの数日のうちにイラクを植民地化することに成功するように思われる。こんな大間違いはない。僕たちは来るべき何年もの間この代償を支払わなければならないだろう。これは死んだ数千人のイラク人はもちろんのこと、軍服を着たアメリカの若者の、たったひとりの命すら失う価値のない戦争だった。僕は彼らすべてに弔慰と祈りを捧げたい。
この戦争の口実となった大量破壊兵器はいったいどこにあるのか。このことについて僕は言いたいことが多くあるが、後ほどのためにとっておこう。
僕が今一番関心があることは、あなた方すべてが、この戦争を最初から支持していなかった多くのアメリカ人が、偉大な軍事的勝利としておおげさに宣伝されるものによって、黙り込まされたり恫喝されないようにしてほしいことだ。以前にも増して現在は、平和と真実の声を上げるべきだ。
深い絶望感を持ち、間違った愛国心のドラムと爆弾によって自分たちの声がかき消されてしまったと思っている人々から、僕はたくさんのメールをもらった。彼らのうちの何人かは、職場や学校や地域社会で報復されることを恐れている。実際に声をあげ平和を支持したからだ。「いったん祖国が戦争を始めたら、それに抗議するのは『適切』なことではない、そして現在の我々の義務は『米軍を支持する』ことだ」と何度も繰り返して彼らに説得がなされてきた。
オスカー賞のステージでブッシュとこの戦争に反対意見を述べて以来、僕の状況がどのようなものだったのかを、以下に説明するので、それをあなた方に理解してほしい。そして以下の、僕が言おうとしていることを読んで、あなた方が自らに開かれている公開討論の場であれ他のどんな方法であれ、あなた方が声を上げることの、ほんのわずかな励みにでもなればと僕は期待している。
『ボウリング・フォ・コロンバイン』がアカデミー賞で最優秀ドキュメンタリー映画の受賞者として発表された時、観衆は立ち上がった。これは素晴らしい瞬間であり、僕はこの瞬間をいつも大切にしたいと思っている。彼らは立ち上がり僕の映画に歓呼してくれた。その映画は、僕たちアメリカ人が比類なく暴力的で、お互いに殺しあうため、そして世界中の多くの国々に対して使うため、大量の隠匿した銃を使っていると主張している。観衆は僕の映画に拍手喝さいをしてくれた。
その映画は、ジョージ・W・ブッシュは嘘の恐怖を使って人々を脅し、彼に好きなことは何でもできるようにしていると主張している。そんな映画を彼らは支持してくれた。その映画は、最初の湾岸戦争はクウェートの独裁者を再び就任させる試みであり、サダム・フセインはアメリカ製の武器を装備していたのであり、経済制裁や爆撃によって過去10年以上にわたるイラクでの50万人の子どもたちの死にアメリカ政府が責任を負っていることを述べていた。そんな映画を彼らが声援してくれたのだし、それが彼らが投票をしてくれた映画だった。
だから僕はそれが僕のスピーチで告白すべきことだと心に決めたのだった。こうして僕はオスカー賞受賞のステージで次のように述べた。
「プロデューサーであるキャスリン・グリンとマイケル・ドノバン(カナダ出身)を代表して、僕はこの賞を頂いたことに対してアカデミーに感謝をしたい。だから僕はドキュメンタリー映画でノミネイトされた他の人たちをステージに招いたのだ。ノンフィクションが好きだという理由で、僕たちはここで連帯している。僕たちは虚偽の時代に生きているから、ノンフィクションが好きなのだ。
僕たちは偽りの選挙結果で偽りの大統領を擁する時代に生きている。僕たちは今、偽りの理由で戦争を戦っている。それがダクト・テープの作り話であろうが、偽りの「オレンジ警戒態勢」であろうが、僕たちはこの戦争には反対である。ブッシュ大統領よ、恥を知れ!ローマ法王やディキシー・チックス(アメリカ・カントリー・ミュージックのグループ)が君に反対しているからには、おまえの命運も尽き果てた。」
僕のスピーチの途中で、聴衆の何人かが声援を始めた。そうするとすぐにバルコニーにいたグループがヤジを飛ばし始めた。すると今度は僕の主張を支持する人たちが彼らに大声で反対し始めた。ロサンジェルス・タイムズの報道によれば、ショウのディレクターが僕のスピーチをさえぎるため「音楽!音楽!」とオーケストラに叫び始め、楽団は義務的に演奏を始め、僕のスピーチの時間は終わった。
(何故そして何を僕が言ったのかについて、もっと知りたければ、ロサンジェルス・タイムズに僕が書いた特集記事を読めるし、さらには僕のウエッブ・サイトでアメリカ中の他の反響を読むことができる。)
翌日、そしてその日から2週間のうちに、右翼の学者やラジオのびっくりディスクジョッキーが僕を叩くために動員された。この騒動は僕を傷付けただろうか。彼らは僕を「黙らせること」に成功しただろうか。そこで僕のアカデミー賞受賞の反響を見てみよう。
アカデミー賞授賞式で僕がブッシュとこの戦争を批判した次の日、アメリカ中の劇場の『ボウリング・フォ・コロンバイン』の観客数は110%にはね上がった(情報源:Daily Variety/Box Office Mojo.com)。次の週末には、切符売上金の総計が桁外れの73%に上がった(Variety)。現在これはアメリカの商業上の封切り映画としては最高のロングランを記録している。26週間上映が続けられ今もまだ上映中である。オスカー賞受賞以来この映画を上映している映画館の数は増加し続け、ドキュメンタリー映画の以前の切符売上金を300%近く凌ぐものとなっている。
昨日(4月6日)、『Stupid White American』(『アホでマヌケなアメリカ白人』)はニューヨーク・タイムズのベストセラー一覧の中で第1位に返り咲いた。これはベストセラーの50週目であるが、このうちの8週が第1位であり、今回で4度目の1位への返り咲きである。こんなことはほとんど起こりえないと言ってもいいくらいだ。
オスカー賞受賞後の一週間の間に、僕のウエッブ・サイトには1日に1000万から2000万のアクセスがあった。(ホワイト・ハウスへのアクセスより多い日もあった。)送られてくるメールは圧倒的に僕の意見に肯定的で支持を与えるものであった。(そして抗議のメールは滑稽なものであった!)
オスカー賞受賞の後の2日間は、オスカー賞最優秀作品賞の『シカゴ』のビデオより『ボウリング・フォ・コロンバイン』のビデオをアマゾンで予約注文する人のほうが多かった。
この1週間のうちに僕は次のドキュメンタリー映画の融資を獲得したし、(テレビ番組の)『テレビ国家』/『恐ろしい真実』の最新版の製作に関する仕事の持ち場の提供を受けた。
僕たちがずっと言われてきたメッセージを打ち消したいために、僕はこういったことをあなた方に話している。そのメッセージというのは、もし政治的な発言をすれば後悔することになるだろうというもので、そのことによって通常は財政的になんらかの形で損をするとか、仕事を失ってしまうとか、雇ってもらえないなどなどのことだ。
ディクシー・チックス(アメリカのカントリー・グループ)を例にとってみよう。彼らのリード・ヴォーカル・シンガーが、「ブッシュは彼女の故郷・テキサス州の出身であるであることをどれほど恥ずかしく思っているか」と述べたために、彼らのレコード売り上げが「落ちこみ」、そしてアメリカの放送局が彼らの音楽を流すことをボイコットしているということは、あなた方も今までにきっと聞いたことがあるだろう。しかし、実際は彼らの売り上げは下がっていない。
あれほど彼らを攻撃しても、彼らのアルバムは「ビルボード・カントリー・チャート」で今週もまだ1位である。「エンターテイメント・ウイークリー」によれば、この騒ぎの間の、ポップ・ミュージックのチャート売り上げ順位表で、彼らは第6位から第4位に上がっている。ニューヨーク・タイムズで、フランク・リッチはディクシー・チックスの来るべきコンサートのチケットをどれでもいいので見つけようとしたが、すべて売り切れていて購入できなかったと報告している。
(昨日のニューヨーク・タイムズの、リッチのコラムを読むと、『ボウリング・フォ・コロンバイン』がここに来るそうだ。彼はそれをとてもうまく展開していて、僕の次の映画とそれが潜在的に持つ衝撃について話をしている。)
彼らの歌「トラベリング・ソルジャー」(美しい反戦のバラード曲)は、インターネット上で先週最も多くリクエストされた曲だった。彼らは全く傷つけられていない。これはメディアがあなた方に信じ込ませようとしたことと大きく違っている。どうしてそうなのか。違った意見を言い続ける人々や疑問をあえてぶつける人々を沈黙させることが現在何よりも大切であるからだ。
平均的なアメリカ人に、声高に明確に[彼らの]メッセージを汲み取らせるためには、2,3の有名な芸能人を嘘でやっつけるのが一番良い方法である。その結果、「わぁー、彼らが万一、ディクシー・チックスやマイケル・ムーアにそんな攻撃ができるのなら、僕のような弱い立場の者には何をするだろう。」ということになる。こうして弱者を黙り込ませるんだ。
友人諸君、これがオスカー賞を取った僕の映画の本当に言いたかった点だ。つまり、政権担当をしている人々は、恐怖心を使って、いかにうまく民衆を操って、言われることは何でもするように追い込むかということをあの映画は訴えているんだ。
もし僕たちに良いニュースがあるとすれば、それは僕も他の人たちも黙り込まされておらず、僕たちと同じように考えている何百万ものアメリカ人とつながりができたことだ。軍事日程の設定や討論の専門用語よって、偽りの愛国者に脅迫されないようにしよう。戦争を70%の人々が支持しているという世論調査に負けないようにしよう。
世論調査を受けたアメリカ人は、その子ども(あるいは近所の子ども)がイラクへ送られている同じアメリカ人であることを忘れてはならない。彼らは軍隊のために恐怖に陥り、望んでいない戦争を支持するよう脅迫されている。彼らは友人や家族や隣人が死んで戻って来ることはましてや望んでいない。すべての人は、兵士たちが生きて戻ってくることを支持している。僕たちはみんな連絡を取り合い、彼らの家族にそのことを知らせるべきだ。
残念ながらブッシュとその仲間は、まだ命運がつきていない。この侵略と征服は、彼らが再び他の場所で同じ事をすることを助長することだろう。この戦争の本当の目的は、世界のすべての国々に「テキサスに干渉するな。俺たちが欲しいものをお前たちが持っているなら、すぐ行って、それを手に入れるのだ!」と言うことだ。
平和なアメリカを良しとしているからには、今は、僕たち大多数が沈黙している時ではない。大多数の声を聞かしてやろう。人々がどれほど引き裂かれていようとも、アメリカはまだ僕たちの国なのだ。
敬具
マイケル・ムーア