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国際刑事裁判所をなぜ拒否するか
帝国は戦争を望む、
正義ではなく
スィーン・ヒーリィ
November
07, 2001
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ZNet Commentary
The
Empire wants war, not justice
By
Sean Healy
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http://www.zmag.org/sustainers/content/2001-11/07healy.cfm
ブッシュ政権が9月11日のテロ攻撃を記述するのに用いてきた全ての言葉(「残虐行為」「暴力行為」「悪魔の行動」など)の中で、ひとつだけ際立って欠けている文句は「人間性に対する犯罪」(crime
against humanity)である。
それが欠けていることは奇妙なことである。というのは、国際法では「人間性に対する犯罪」を次のように定義しているからである。すなわち、「広範囲にわたるか、組織的に行なわれた、一般市民に対する攻撃で、不慮の事故ではなく攻撃する意図をもって行なわれた行為」または「その行為の一部」だとしているのである。
この定義は確実に先日のテロ攻撃にあてはまるように私には思える。というのはテロリストたちは民間航空機を飛行させ、事務室が密集している高層建築物に激突させ、何千人もの無実の人を殺傷したからである。
多分、上記の公式専門用語の中に「人道に対する罪」「人間性に対する犯罪」という言葉が欠けていたのは、ブッシュ政権の願望によるものであろう。つまり例のテロ攻撃を「犯罪」として扱うのを避け、むしろ「戦争行為」として扱いたいのである。
もし誰かが犯罪を犯したならば、証拠が集められ提示される。しかしオサマ・ビン・ラディンが犯したとされる犯罪の「証拠」の大部分は公にはされていず、しかも公にされているものは極めて状況証拠に近いものだけである。
もし誰かが犯罪を犯し逮捕されるとしても、その犯人が住んでいる都市や国家は(普通)爆撃されたり彼らを追うために特殊暗殺部隊が派遣されたりはしない。
もし誰かが犯罪を犯し裁判にかけられるとしても、彼らは「指名手配中につき、暗殺しても良し、生け捕りにしても良し」などと宣言されたたりはしない。ところがブッシュがビン・ラディンに対して宣言したのは、上記の宣言であり、しかも選択肢は明らかに「暗殺」に大きく傾いているのである。
しかし、もし犯人たちの行為が戦争行為ならば、そのときは、通常の法律や手続きは適用されない。つまり「犯人たちを裁判にかける」といった法的手続きにとらわれず、もっと適用範囲の広い手続きが追求可能になるのである。それが、まさに今アメリカという戦争機械が中東(中央アジア)で行なっている事なのである。
しかし、多分、アメリカ政府が例のテロリストの暴行を「人道に対する罪」と呼ばないのは、それ以上の動機がある。つまり現在おこなっている戦争に対する、戦術上の更に大きな口実・指標を求めているだけではなく、その裏には秘められた別の動機がある。
というのは、合衆国は、これまでずっと国際的な努力を挫折させ妨害しようとしてきたからである。まさに上記のような「人道に対する罪」を告訴し裁判する機構を創設しようとする国際的努力を。
その機構というのは国際刑事裁判所(International
Criminal Court)であり、国際法の専門家や人権弁護士が長く切望してきた目標である。しかも、ほとんど今にも実現しそうになっているものである。しかし、今にも実現しそうな見通しがアメリカ政府によって破壊されつつある。
国際刑事裁判所の規程はローマ協定によって確立された。それは1998年7月の国際会議で採択され、世界140カ国から参加があった。
その協定の明示するところでは、この法廷は国家から独立した裁判組織であり、国際法のもとで重大犯罪を起訴し裁くものである。たとえば大量虐殺、戦争犯罪、人道に対する罪などを裁く。
「補足」規程のもとで、ICC(国際刑事裁判所)は国内の法廷が裁くことの出来ない犯罪、国内の法廷では裁きたくない犯罪のみを裁く。たとえば、被告が政府の高官・要人であるような場合である。
今まで、そのような犯罪を審問する国際裁判所がなかったわけではない。たとえば、バルカン半島における戦争犯罪人が告発されハーグで裁判されているし、ルワンダにおける大量虐殺で告発された犯罪人の裁判が行なわれている。しかし、これは特別に国連によって設置されたもので特別な目的だけのものである。常設のものではない。
これと似たものに国際司法裁判所もあるが、これは2国間の問題を裁くことが出来るだけである。
それに対してICCは常設のもので個人を裁くことが予定されている。
もちろん、事件は国連安全保障理事会から委託された事件をも扱うことが出来る。これは現在おこなわれている国際裁判所と同じであるが、国家の当事者がICC協定に訴えて取調べを開始することも出来るし、ICC検察官の独自捜査によって取調べを開始することも出来る。このことが意味することは、これまでと違って、今後は、大国が取り調べを命じたことだけに取調べが限定されることはない、ということである。
ローマ協定に根拠を置く組織として、ICCは国際連合や他のいかなる国際組織にも縛られることはない。たとえ、ICCがローマ協定の署名国ではない国では、調査することが出来るだけであったとしても、国連安全保障理事会の要請があれば調査だけは出来る。
ICC自身は18人の裁判官で構成され、9年間の任期で、その間の再選はない。その裁判官は協定参加国の3分の2の賛成で選挙される。同じ国から2名の裁判官が出ることは許されない。検察官も同じようにして選ばれる。
国際司法裁判所やバルカン問題を裁く裁判所と同じく、ICCはオランダの都市ハーグに本拠を置く。
このICCの規程が効力をもつためには、60カ国の批准が必要である。現在のところ、139カ国が署名し43カ国が批准している。(協定に署名するのは批准する前の中間手続きに過ぎない。)
しかし、人権弁護士たちが60カ国の批准は目の前だと期待している一方で、ICCは死産となる可能性もある。もしブッシュ政権が自分勝手に振舞えば。
というのは、合衆国はバルカン諸国やルワンダにおける戦争犯罪裁判所の設置を後押ししたけれど、常設の裁判所となると話が全く違ってくるからである。
アメリカの歴代政府は、これまでも、常設の国際司法制度のいかなる形態にも声高に反対を表明してきた。というのは、ちょっと考えてみれば分かるように、そのような制度はアメリカの「主権」、アメリカ第1主義、アメリカが自分の良しとするところに従って行動する自由に挑戦するものとなる可能性があるからだ。
しかも、世界で最後に残った大国にとって更に面倒なことに、ICCは恐らく次のようなものの告発に乗り出す可能性がある。つまり、アメリカの戦犯担当大使が「悪党告訴」(rouge
prosecutions)と呼ぶもので、たとえば、親西欧派の戦争犯罪人(ピノチェト、元将軍でクーデタを起こしてアジェンデ元チリ大統領を殺して大統領になった)、戦争犯罪を犯したアメリカの兵士(カレイ大佐、ベトナム戦争時のミライ村で大量虐殺を行なった)などである。アメリカ政府高官(キッシンジャー、ベトナム戦争時に大統領補佐官)でさえ訴追対象になる可能性がある。
このような結果、アメリカ大統領クリントンはローマ協定に反対したのである。それが初めて採択されたとき、つまり、1998年のローマ会議の最後で採決されたとき、反対票を投じたのは7カ国に過ぎず、アメリカはそのひとつだった。それに反して賛成は120ヶ国にも達していた。
しかし大統領としての執務における最後の日々で、クリントンは考えを変え、ローマ協定に署名した。その公式的な理由は、アメリカが署名したときのローマ協定の最終結果に及ぼす影響の大きさを信じたからだというが、伝えられるところによると、わざと後継者に外交上の難題を残しておきたいという、それだけの理由だったようである。
ローマ協定が現在の大統領の承認・批准を勝ち取る見込み、あるいは上院の3分の2以上の支持を得て批准する見込みは、しかしながら極めて薄い。
ジョージ・ブッシュは法律の専門家を送り出してローマ協定の「署名取り消し」への方策を探っているが、今までのところ成功していない。署名国の中から脱退するいくつかの方法があるが、それらは既に批准している国々の意見次第なのである。ブッシュ政府はまた全世界的「批准取り消し」キャンペーンを考慮中である。
合衆国は、当然のことながら、一般的に、如何なる型のものであれ、国際条約・国際協定の批准を拒否している。というのは、それらがアメリカの「主権」を潜在的に脅かすものと見なしているからである。だから、普通は、それらに批准はせず署名をするだけにとどめている。
多くの国際条約・協定は、しかし、アメリカの批准なしでは実効性を持たない。なぜなら、アメリカが批准して初めて、協定の実施に協力するとの合図をアメリカから得たことになるからである。
しかし、このことはICCに関する限り実現しそうにもない。
例のテロ攻撃の前日、すなわち9月10日、上院は「商業、司法、国家そして司法予算に関する法案」(the
Commerce, Justice, State and Judiciary Appropriations Bill)に対する修正案を通過させた。それは、合衆国がICCに関する交渉に、これ以上、深入りするのを防止し、政府がICCに協力するのを妨害しようとするものだった。一刻も早く、その法律を成立させ、ICCに資金提供するのを禁止しようとするものだった。
もっと密かにICCに大きな損害を与えようとする試みは、共和党右派によるもので、退役軍人の上院議員であるジェスィー・ヘルムズに率いられて、「米国軍人保護法案」(American
Service members Protection Act)という法案を立法化しようとした。それは大統領に命じてICCへの協力を如何なる手段を通じても拒否するよう求める法案だった。
アメリカの国連にたいする未払い分担金の支払いを決める「9月10日の票決」(September10
vote )及び国防総省への予算にかんする「9月26日の法案」(September26 bill)への修正案として、上記の法案を通そうとするヘルムズの試みは、双方とも失敗した。しかし、その法案の支持者たちは、一刻も早い機会にその法案を再び議会に持ち込むことを公の前で誓い、大統領の支持・保証もあると言明している。
その法案は合衆国軍隊が国連平和維持軍として勤務することを禁じるものである。つまり、ICCの司法権が合衆国軍に及ばないという条件がない限り、国連平和維持軍には協力しないし、合衆国政府機関がICCに対して如何なる援助をすることも禁じるというものである。さらに、NATO非加盟国で、ICCローマ協定を批准した如何なる国にも、軍事援助をすることを禁じるものでもある。
また、この「米国軍人保護法案」(American Service members
Protection Act)は、大統領に海兵隊を派遣する権限を与え、ICCに拘留されているアメリカ軍人やアメリカの役人を解放させることすら、その目的としている。世界の先頭に立つ国際法専門家たちが、それを「ハーグ侵略法案」と名づけた所以である。
今や、「人道に対する罪」を犯したとしてビン・ラディンを国際法廷の前に連れ出すことが何故に予定されていないか、その理由がかなり明確になったはずである。
帝国アメリカが望んでいるのは、将来、自分が「人道に対する罪」を犯す権利を留保しておくこと(アフガニスタンはもちろんのこと、恐らくオランダに対してすらも)であり、そのような権利に対する干渉や妨害行為を許さないつもりなのである。
(翻訳:寺島隆吉)
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