ファティ・タス氏の投獄を阻止せよ<背景>
2001年3月4日、アメリカの言語学者で政治評論家でもあるノーム・チョムスキー氏は、オハイオ州トレドで「中東平和の見通し」と題する講演をおこなった。
講演のなかで氏は、トルコ政府のクルド少数民族に対する人権侵害を合衆国政府が支援していると批判。
チョムスキー氏の講演は、トレド大学のCollege of Arts & Sciencesの主催する「マリーズ・マイケル第一回年次講演」としておこなわれたもので、およそ1200人が参加。
地元紙トレド・ブレードを含め地元のメディアで広く報道された。
2001年9月、アラム社(クルド民族の人権擁護で知られているトルコの出版社)が、チョムスキー氏の論文・講演集の翻訳を『アメリカの干渉主義』というタイトルで出版。この著作集にトレド大学での講演原稿が収録された。
2001年11月、トルコの反テロ取締りの最高責任者であるベリク・ラリフ・アルデミール氏(Bekir Rayif Aldemyr)はアラム社の社主であり編集者であるファティ・タス氏(Fatih Tas)に対する起訴状を発行。
起訴理由は「トルコ共和国国家の侵されざるべき統一に対する反宣伝活動」にあたる文書の出版によって、トルコの国法を犯したというもの。
起訴状にはトレド講演から次の二箇所が引用されている。
1:チョムスキー氏が、クルド民族へのトルコ政府の対応は「90年代における最も深刻な人権に対する侵害のひとつである。」と述べている個所。
2:クルド民族は「近代トルコの歴史において激しく抑圧され続けてきたが、1984年変化が起こった。1984年トルコ政府はトルコ南東部においてクルド人に対する戦闘を開始。その結果は、何万人もの死者、2百万から3百万の難民、3500の村落の破壊を伴う大規模な民族浄化を生む悲惨なものとなった。」というチョムスキー氏の所見。
トルコは、「世界人権宣言」「市民権及び政治権に関する国際協約」を含む、表現の自由の保護に関する多くの協約の当事国である。
トルコ政府がタス氏起訴を決めたことに対して、Human Rights Watch、Index on Censorship、International P.E.N.を含む、人権擁護団体から抗議の声が上がっている。
チョムスキー氏は、この起訴に「ひじょうに驚いて」おり、これは「最も基本的な人権及び市民権に対する重大な侵害である」として、トルコ政府に対し起訴を取り下げるよう要求していると語った。
チョムスキー氏は、2002年2月13日から始まるタス氏の裁判に出席する予定である。
(翻訳:南野利枝+寺島隆吉)