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「多文化平和コミュニケーション研究」序説(4)
チョムスキーと国際理解教育とイラク情勢
寺島 隆吉(英語教育講座)
岩間龍男(各務原高校)、寺島美紀子(朝日大学)
私(寺島隆吉)はこれまでに「多文化平和コミュニケーション研究」序説(1-3)として下記の翻訳を提出し、その解説を付してきた。
「多文化平和コミュニケーション研究」序説(1):チョムスキーと国際理解教育とコソボ紛争(『岐阜大学教育学部研究報告:人文科学』第48巻第1号、1999)
「多文化平和コミュニケーション研究」序説(2):チョムスキーと国際理解教育と東ティモール問題(『岐阜大学教育学部研究報告:人文科学』第48巻第2号、2000)
「多文化平和コミュニケーション研究」序説(3):チョムスキーと国際理解教育とアフガン戦争(『岐阜大学教育学部研究報
そして今回、「多文化平和コミュニケーション研究」序説(4)として「チョムスキーと国際理解教育とイラク問題」の翻訳と解説を提起したいと考えた背景には緊迫するイラク情勢がある。
国連は1997年11月に国連総会決議として西暦2000年を「平和の文化・国際年」と定め、さらに翌年の1998年の総会では2001年から10年間を「世界の子供のための、平和と非暴力の10年」とすることに決めた。ところが2001年9月11日の、ニューヨーク、World
Trade Centerに対する自爆攻撃と、それに対するアフガニスタンへの報復爆撃は、平和どころか世界を新たな地域紛争に引きずり込もうとしているかに見える。
というのは、米軍によるアフガニスタン爆撃は国内・国外に大量の難民と民間人の死者を生み出した(新聞報道によればニューヨーク自爆攻撃での死者3000人を既に越えている)だけでなく、チョムスキーも指摘しているように、ロシアや中国における少数民族弾圧に免罪符を与えることになっているからである。そして今やイラク攻撃が秒読みの段階だと言われている。
ところでユネスコによる1974年の「国際教育勧告」および1991年の「国際教育指針」は、「平和」と「人権」を「国際教育」すなわち「国際理解教育」の大きな土台としていることは衆知の事実である。だとすれば、今度のイラク情勢をどのように捉え、どのように対処すべきかを考えることは、私たち「国際理解教育」を任とするものにとっては焦眉の課題である。チョムスキーのMIT(マサチューセッツ工科大学)における講演を訳出したいと考えた所以である。
既に衆知のことであるが、チョムスキーは言語学の巨人であるだけでなく、言語を通じてマス・メディアがどのように人間を操作するかについても深い関心を寄せてきた。ベトナム戦争時における彼の活動についてはよく知られているが、最近の東ティモール問題やアフガニスタン攻撃でもZNet Magazineへの寄稿やラジオ・インタビューで積極的な発言を続けている。しかし日本では彼の言語学における著作が紹介されることはあって彼のメディア批判が紹介されることは希であった。
事実、近年まで彼の言語学以外の著作で翻訳紹介されたものは『アメリカン・パワーと新官僚:知識人の責任』(太陽社、1969)およびに過ぎなかったからである。チョムスキーを紹介した著作についても、バースキー『ノーム・チョムスキー:学問と政治』(産業図書、1998)があるに過ぎない。しかし911事件以降、次のように洪水のように彼の著書が翻訳され始めた。これは情勢がいかにチョムスキーを求めているかをよく示している。
『9.11:アメリカに報復する資格はない』(山崎淳・訳、文藝春秋、2001年11月)
『「ならず者国家」と新たな戦争』(塚田幸三・訳、2002年2月)
『9.11:アメリカに報復する資格はない』(山崎淳・訳、文春文庫、2002年9月)
『金儲けがすべてでいいのか』(山崎淳・訳、文藝春秋、2002年9月)
『アメリカの「人道的」軍事主義』(益岡賢・訳、現代企画室、2002年4月)
『ノーム・チョムスキー911』(出版部・訳、リトルモア、2002年9月)
『チョムスキー世界を語る』(田桐正彦・訳、トランスビュー、2002年9月)
今回、訳出したものは、チョムスキーの発言を逐一、漏らさず集録しているインターネットHP「Bad News:Noam Chomsky」(http://monkeyfist.com/ChomskyArchive)に掲載されている次の3つを選んだ。というのは、最初のものは「テロの時代」について簡潔ながら彼の基本的な視点を提示しているし、後の二者はチョムスキー・インタビューの中でも最も包括的にイラク情勢について論じ、上記HPに掲載されているものの中で現時点で(2003年1月)最も最新のイラク情勢分析だからである。
Crucial
Questions in the "Age of Terror" - September 2002
Albert
Interviews Chomsky on Iraq - August 2002
SchNEWS
Interview - December 2002 interview on Iraq
実を言うと、後の2つについては『アメリカが本当に望んでいること』を翻訳した益岡賢氏のHPで(http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/)既に翻訳紹介があるのだが、前者の翻訳は特に難解で、日本語を読んでいるだけでは理解できないところが少なくない。チョムスキーの発言が現在の情勢を分析し平和への道筋を提起している貴重なものだけに、これでは非常に残念である。今回ここに新たな翻訳を提示したいと思った所以である。
(大学の授業では、「国際理解」「多文化コミュニケーション」という講義で益岡氏の訳を利用しながら、チョムスキーの意見で不明な点・理解が出来ない点を調べて学生と討論する授業をつくってきたのだが、益岡氏の訳が難解で学生が悲鳴をあげたのが改訳をしたいと思った最大の理由であった。最近の大学生は日本語学力が低下しているので、そのような学生にも何とか理解できるものにしたいと思って益岡氏の訳に手を加えさせていただいたというわけである。この紙面を借りて益岡氏にお礼を述べておきたい。)
もっとも益岡氏の翻訳が難解なのはチョムスキーのインタビューそのものに大きな原因がある。というのは、彼は言語学以外にも膨大な著作を出版しており、そのことを踏まえて発言しているので、その予備知識が無いものには、彼の指摘する事実が裏にどのような具体例を踏まえているのかが分からず、理解不能になることが少なくないからである。まして彼が皮肉を込めて言っているのに、それを文言どおりに受け取ると全く逆の意味にすらなってしまう。
しかし、そのような皮肉・裏の事実や解読方法を解説していると、それだけで一つの論文になってしまうので、今回の翻訳では最小限の訳注にとどめ、詳しい解説の提示は別の機会に譲らざるを得ない。その代わりに本翻訳の末尾に参考文献として幾つかの著作を紹介しておいたが、それらを読む以前に上記に紹介したチョムスキーの新しく翻訳出版されたものをまず読むべきかもしれない。というのは、それらを読むだけでも全く新しい世界が開けてくることは間違いないと思われるからである。
それはともかく、さて、上記インタビューの翻訳にあたってはREFERENCESに挙げてある文献の他、下記のインターネット・ホームページに教えられるところが多かった。益岡賢氏のHPは既に紹介したが、東ティモールやコロンビアなど世界の眼に触れないところでアメリカが何をしているのかが詳細に紹介し論じられていて教えられるところが極めて大きい。
また加藤哲郎氏(一橋大学)のHP「IMAGINE」は多様な情報を満載して、現在の情勢を知るのに好適である。田中宇(さかい)氏のHPも、マス・メデイアが様々な規制の中で語れない事実を、大胆な仮説を交えながら解説していて、眼を拓かせられることが多かった。トッテン氏のHP「Our
World」日本語版も実にユニークな記事に満ちている。
さらに翻訳家・中野真紀子氏のHPは、パレスチナ情勢とエドワード・サイード(作家・コロンビア大学教授)の活動を中心に紹介しているホームページだが、時々チョムスキーも紹介されていて大いに参考になる。また最近、ZNetとチョムスキー・アーカイブの日本語版HPが学生(大阪市立大学理学部数学科)の手で立ち上げられて精力的な活動を展開し始めている。
益岡賢 http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/
加藤哲郎「イマジン」 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/imagine.html
田中宇「国際ニュース解説」 http://tanakanews.com/index.html
ビル・トッテン http://www.ashisuto.co.jp/sitemap.php
中野真紀子 ペンと剣 RUR-55 Outlet http://home.att.ne.jp/sun/RUR55/home.html
チョムスキー・アーカイブ 日本語版 ZNet サイト
最後に、上記の翻訳はは、岩間龍男・寺島美紀子の両氏が下訳をし、それに寺島隆吉が手を加え、両者と討論しながら末尾に訳注と文献を付けるかたちを取った。この翻訳が「多文化コミュニケーション」を促進し「共生」「平和」の実現に少しでも貢献できることを願っている。なお、この翻訳に付した「資料」も本翻訳を一層理解するために役立てば幸いである。(HP上では上記「訳注」に「資料」を挿入してあります。)
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