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占領下の国
2003年9月29日
ハワード・ジン
(翻訳:岩間龍男、公開2003年10月12日)
イラクが解放された国ではなく占領された国であることが、急速に明らかになってきている。
第2次世界大戦中に私たちは「占領下の国」という言葉に慣れ親しむようになった。私たちはドイツに占領されたフランスやヨーロッパについて話した。そして戦後には私たちはソ連に占領されたハンガリーやチェコスロバキアや東ヨーロッパについて話した。他国を占領したのはナチでありソビエトであった。私たちはそれらの国々を占領から解放した。
現在私たちは占領者である。確かに私たちはイラクをサダム・フセインから解放したが、私たちからは解放していない。これは、1898年に私たちがスペインからキューバを解放はしたが、私たちから解放しなかったのと同じことだ。スペインの暴政は倒されたが、米国はキューバに軍事基地を作った。これは私たちがイラクで行っているのと同じことだ。米国の企業はキューバに入り込んだ。それと同じように、べクテルやハリバートンや石油企業がイラクに進出しつつある。米国はキューバがどのような憲法を持つのか決めていた。それと同じように私たちの政府はイラクの憲法を作りつつある。これは解放ではなく占領である。
そしてそれは醜い占領である。8月7日、『ニューヨークタイムズ』はバグダッドのサンチェス将軍は占領へのイラクの反応について心配していると報じた。親米のイラクの指導者たちはサンチェスに伝言していたが、彼によればその伝言とは次のようなものだった。「家族の前に父親を連れてきて、彼の頭の上にバッグを置き、地面に彼を這いつくばらせる時、その家族の目から見れば、彼の品位や尊敬についてあなたは重大な逆効果を持つことになる。」
7月19日CBSニュースは次のように報じた。「アムネスティー・インターナショナルは、イラクにおける米国当局による拷問の嫌疑の事例をいくつか調査中である。そのようなひとつにクライサン・アル・アバリの事例がある。彼の家は米軍兵士により破壊され、兵士たちは銃を発砲しながら入ってきて彼と80歳の彼の父親を逮捕した。彼らは発砲をして彼の弟に怪我を負わせた。....3人の男が連れ去られた。....クライサンは尋問者によって裸にされ、1週間以上睡眠をとることを許されず、立ったままにされたり、頭にバッグを置かれて手と足を縛られ膝で立たせられたりした。クライサンは彼を捕えた人に次のように言った。「私にはあなたたちが望んでいることが分からない。私は何も知らない。」「私は彼らに自分を殺してくれるように頼んだ。」しかし8日後、彼らは彼とその父親を釈放した。....このことについて話し合いをしてもらうよう何度も要望したが、米国の当局者は何の返事もくれなかった。....「実際、我々は国際的な義務を果たしているだけだ。私は自分たちがやっていることに満足をしている。」とイラクの米国行政官ポール・ブレマーは述べている。
6月16日、ナイト・ライダー・チェインの二人のレポーターがファルジ地域について書いている。「この5日間の多くのインタビューで、この地域のほとんどの住民は次のように言っている。米兵に陰謀を企てるようなバース党の残党やスンニ派の者は誰もいない。米軍の家宅捜索や道路封鎖によって、親類が傷つけられたり殺されたり彼ら自身が恥ずかしい思いをさせられたりしてきたので、それと戦う用意のある人たちだけがいるだけだ。....ある女性の夫はまきにするために空の木箱を持ってきたために、米軍に連れて行かれたが、彼女は米国こそテロリズムの罪を犯していると述べている。」
同じリポーターの報告によれば、バグダッドの北にある村アトッ・アギリアの住民は、彼らの村の2人の農夫と別の村の5人の農夫がひまわりやトマトやキュウリの畑に水をやっていた時に、米兵の発砲によって殺されたと述べている。
『ロンドン・オブザーバー』は、6000年の歴史を持つ古代都市ウルが占領軍により略奪されたと報じている。世界中から見物客がやって来る古代のピラミッドのそばに、軍事基地が建設された。
兵士たちはイラクに派遣され、解放者として歓迎されるだろうと言われていたが、敵意に満ちた人々に取り囲まれ、恐怖心を持ち好戦的で暗い気持ちになっている。イラクに留められたままである米軍兵士の怒りのレポートもある。7月中旬、ABCニュースのレポーターは、「俺は自分自身の最重要指名手配リストを持っているよ。」と話してくれた軍曹の暴露話について述べている。彼は米国政府によって発行されたサダム・フセインや彼の息子そしてイラク前政権の指名手配人物が載っているトランプのことを述べていた。彼が言うには、自分のトランプのエースはポール・ブレマー、ドナルド・ラムズフェルド、ポール・ウォルフォイツだということだった。
そのような心情が米国人に知られるようになってきている。5月のギャロップ調査によれば、わずかに13%の米国人が戦争はうまくいっていないと考えていたが、7月4日までにはその数字は42%に上がっていた。
イラクの占領よりさらに不吉なのは、おそらく米国の占領である。
私は朝、目が覚めて、新聞を読み、私たちは占領国であり、外国のグループが引き継いだと感じている。国境を越えようとし、移民の役人を避けようとして死んでいる(皮肉にも彼らは1948年にメキシコから奪われた土地へ越境して入ろうとしている)メキシコ人労働者は、私にとっては外国人ではない。米国の2000万人の人々は市民権がないため、「愛国法」により、憲法で保障されている権利なしで、FBIによって家から引っ張り出され無期限に拘束される対象となる。その人々は私にとっては外国人ではない。
私は目を覚まして考える。この国は[正当に]選ばれていない大統領に支配されている。大統領は、外国や国内の人命や自由のことを何も気にせず、地球や水や空気に何が起きるのか何も気にせず、私たちの子どもたちや孫たちにどんな世界を残すのか何も気にしない、訴訟中のやくざに囲まれている。
より多くの米国人がイラクにいる兵士たちと同じように、何かがひどく間違っている、これは私たちが国に望んでいることではないと感じ始めている。毎日ますます多くの嘘が暴露されている。そして最も大きな嘘がある。「対テロ戦争」を我々はしているのだから、米国がすることは何でも許されると。これは次のような事実を無視している。戦争そのものがテロであり、人々の家庭に乱入して家族のメンバーを連れ去り、彼らを拷問にかける。そのことがテロであり、他の国々を侵略し爆撃することは私たちを安全にするどころか危険にさらすことになる。
国防長官ラムズフェルド(先ほどの軍曹の「最も重要なお尋ね者」のリストの顔ぶれの1人)がブリュッセルでNATOの大臣たちに1年前に演説した時のその内容を検証すれば、あなた方には政府が「対テロ戦争」で意味していることが分かるだろう。彼は西側に対する脅威を説明していた。(考えても見て下さい−私たちは今もって神聖な実体として「西側」について話をしている。西側諸国のほとんどを疎遠にしておいて、まるで今は米国は東側諸国を当てにしていないかのように話をしている。それも西側でない国々を米国は解放することだけを望んでいると彼らを説得しながらである。)ラムズフェルドは西側に対する「脅威」と何故それが目に見えず確認できないのかについて説明をしながら、次のように言った。
「私たちに分かっていることはある。知らないということが分かっているのだ。つまり、今のところ私たちが知らないということが分かっている事である。しかしまた知らないことが自覚されていないこともある。私たちが知らないことがある。すなわち証拠がないからといって、何もないという証拠にはならない。つまり何かがあるという証拠がなくても、何かがないという証拠にはならないからだ。」[例えば、イラクが大量破壊兵器を持っているという証拠がなくても、イラクがそれを持っていないという証拠にはならない。]
これによって、ラムズフェルドは私たちに明らかにした事柄がある。このことは次のことを説明している。米国政府は9.11の犯人をどこで発見すべきか正確に分からなくても、アフガニスタンを侵略し爆撃をし、何千もの人々を殺害し、数十万人の人々を彼らの故郷から追い出すだろう。それでもなお、犯人がどこにいるのか分からないのである。米国政府はサダム・フセインがどのような武器を隠しているのか実際に分からなくても、イラクを侵略し爆撃をするだろう。ほとんどの世界の国々に恐怖心を与え、何千もの一般市民や軍人を殺害し、人々を恐怖に陥れるだろう。米国政府は誰がテロリストで誰がテロリストでないのか分からなくても、数百人の人々をグアンタナモ湾に監禁するだろう。その監禁のもとですでに18人の人が自殺を図ろうとした。米国で市民権を持たないどの人がテロリストか分からないまま、司法長官は2000万人の人々の憲法で保障されている権利を奪うだろう。
いわゆる「対テロ戦争」は、他の国々の無実の人々への戦争であるばかりでなく、米国民に対する戦争でもある。私たちの自由や生活そのものへの戦争である。我が国の富は盗み取られ、大金持ちに引き渡されている。[兵士たち]若者の命も盗み取られている。
アフリカ系米国人の世論調査は常にイラク戦争に60%の人々が反対していることを示しているが、興味深いことである。ワシントンDCのアフリカ系米国人のラジオ放送局の“CW on the Hill”という番組で、私は戦争についての電話インタビューを行った。司会者と話をした後に、視聴者から8件の電話があった。この時はコリン・パウエルが大量破壊兵器について国連で演説をしたばかりの時だった。視聴者からの電話内容のメモを私は取った。
ジョン「パウエルが言ったことは、政治的なガラクタに等しい。」
別の電話「パウエルはゲームをしているだけだ。このことは人が高い地位に就くと起きることだ。」
ロバート「もし我々が戦争を始めれば、正当な理由なしに無実の人々が死ぬだろう。」
カリーン「パウエルが言ったことはナンセンスだ。戦争は米国にとってよいことではない。」
スーザン「強国であることで、そんなに良いことが何かあるのか。」
テリー「すべて石油が絡んでいるね。」
別の電話「米国は帝国になることを求めているが、ローマ帝国のように滅亡することになるだろう。アリがフォーマンと戦った時のことを思い出してごらんなさい。彼は眠っているように見えましたが、目を覚ました時、彼は凶暴になった。人々もいずれは目を覚ますだろう。」
戦争の死傷者が海外ばかりでなく国内でも出ていることがますます明らかになるだろう。ベトナム戦争と違って死傷者の数が少ないので、戦争をうまく逃れられるとよく言われる。実際、ベトナム戦争と違ってわずか数百人の戦争の死傷者しかいない。しかし戦闘の死傷者がすべてではない。戦争が終わっても、病気やトラウマの形で死傷者は増え続けている。ベトナム戦争の後、退役軍人はベトナムで散布された枯葉剤のために家族に奇形が出ていることを報告している。
最初の湾岸戦争では戦闘の犠牲者はほんの数百人であったが、湾岸戦争の後の10年間で8000人の退役軍人が死亡したと、最近になって復員軍人援護局は報告している。湾岸戦争の退役軍人の60万人のうち20万人が、この戦争で政府が使った武器によって引き起こされた病気について告訴をした。私たちはまた最近の戦争でそこに[イラクに]送り込まれた男女への劣化ウラン弾や他の凶器の影響を見なければならない。
私たちの仕事は何かと言えば、それを指摘することだ。
私たちの考えは、人間というのは嘘をつかれた時にのみ、暴力やテロを支持するということだ。そしてベトナム戦争の過程で起きたように、人々は真実を学んだ時、政府に敵対する。
私たちには世界の他の国々の支持がある。米国は2月15日に世界中で抗議をした1000万人の人々を無期限に無視することはできない。政府の力は、たとえどのような兵器を持っていても、どれほど資金を意のままにできても、脆弱である。政府が人々の目から見てその合法性を失う時、その座に居座ることができる期間は限定されることになる。
私たちは要請されるいかなる行動にも従事する必要がある。社会の変革の歴史は、小さなものであれ大きなものであれ何百万もの行動の歴史である。それは歴史上、ある点で団結するようになり、政府が抑えられない力となる。
ハワード・ジンはZネットのコメンテーターで、『The Progressive』に定期的に記事を書いている。この記事は『The Progressive』にも掲載された。
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